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第九十九話 魔王様とダイエット その1


「ダイエットするぞ」

「……へ?」

 俺の『ダイエットしろ』発言にポカンとしていたトリムを半ば引き摺る様に家に連れて帰った俺は、折よく家に集合していた妹ズの前で高らかにもう一度宣言する。煎餅なんぞ齧っていた咲夜の間の抜けた声を聞き流し、視線を麻衣に向ける。

「おい、麻衣」

「……わ、私? ちょ、ま、マリア! それ、どういう意味!? 私にダイエットが必要って事? そ、そりゃ、お正月だしちょっと食べ過ぎたけど……で、でも! ダイエットなんて必要――」

「ああ、そうじゃねえ。つうか別にお前は太ってねーだろ。むしろもうちょっと太れ」

「――だとでも……へ? あ、う、うん! 別に私太ってないもん! それにちょっと太っても直ぐに痩せれるし!」

「それだ」

 腕をぐっと握って自慢げにふふん、みたいな表情をして見せる麻衣に俺は食い気味に言葉を被せる。

「へ? どれ?」

「さっき言った通りだ。お前、ちょっと体重が増えても直ぐに適正体重まで戻せるだろ? なんかいい方法があるのかと思ってな」

 服のサイズ直しなんかでちょくちょく身長、体重を聞くことがある。奏は元々気を付けている所もあるし、鳴海は妹ズの中では食が――まあ、比べる方がどうかという意見もあるが、食が細い方だ。

「お前、三食しっかり食った上でデザートまでがっつり食うだろ? 食べた後は直ぐ横になってぐーすか鼾かいて寝てるのに、体型はそんなに変わってねーからな。なんか秘訣があったら教えてやって欲しいんだよ」

「一々言い方に悪意があるとか、誰が鼾をかいて寝ているのかと問い詰めたい所だけど……それはともかく」

 一瞬、不満そうに顰め面をして見せるも俺の言葉を反芻するように腕を組んで考え込む麻衣。

「……まあ、確かに私はよく食べるよ? でもさ? マリアも知ってると思うけど……別段、ダイエット的な事してないんだよね。毎日普通に生活してたら自然に体重も元の体重に戻るって言うか……」

「……そっか」

「う……ご、ごめん。なんかお役に立てなくて申し訳ないんだけど……」

 そう言って申し訳無さそうな表情を浮かべて見せる。

「マリアさん。麻衣さんは何時でも全力で走り回っておりますから。日々のトレーニングだけで十分なのです。無理にダイエットなどしなくても、適正体重を維持できる生活をしておられますわ」

なんでも無いようにそう言って見せる奏。

「……ま、そりゃそっか」

 KIDでは咲夜と二分する元気っ子キャラだしな、麻衣は。確かに何時でも野山を駆け回ってる様なイメージはある。

「あ、そうだ!」

と、まるで『ぴこん!』と電球が頭の上で光ったかのよう、『閃いた!』という顔を浮かべた麻衣がトリムににこやかな笑顔を向けて見せた。なんだ? なんかいいアイデアがあるのか?

「だったらトリムさん、私と数日一緒に行動してみる?」

「……こ、行動ですか?」

「そ、行動。さっき奏も言ってましたけど、別に私は特別なダイエットはしてません。でも、毎日毎日走り回って……るって言ったら語弊がありますけど、まあそこそこ運動もしてますし、そのお陰で体型の維持に一役買ってるのは間違いないんですよね」

「う、運動ですか……で、ですが私は……その、運動はあまり得意では……」

「最初は誰だってそうですって! どうです? 私と一緒に運動、してみません?」

 麻衣の言葉に、チラリとトリムが視線をこちらに向けてくる。

「いいんじゃねーか。麻衣は運動もよくしてるから、先生としても向いてるだろうしな。ああ、麻衣? 少しは加減しろよ?」

「もっちろん! 最初は軽めのメニューで、少しずつ楽しくなってきたら徐々に運動を増やしていく方向で行こうと思うから」

 サムズアップしながらそんな事を言う麻衣。まあ、最初っから高負荷をかけるトレーニングは確かに効率は良いかもしれんが、しんどいとか辞めたいと思うようなトレーニングしても意味が無いからな。楽しみながら少しずつでも――


「んじゃトリムさん! 明日は五時起きで……そうだね、まずはハーフマラソンぐらいの走り込みから始めよっか! その後は腕立てを百回に腹筋百回、スクワット百回を三セットこなして――」


「……待て」

 楽しみながらって言っただろうが! 見ろ、トリムの顔! 真っ青になってるじゃねーか!

「でも、ハーフだよ? 私、休みの日はいっつもフル走ってるから、その半分だよ? 腕立てや腹筋、スクワットは何時もの三分の一ぐらいだし……平日ぐらいのメニューだよ?」

 少しだけ困り顔を見せる麻衣。まあ、うん、あれだ……確かに麻衣に取ってはそうかも知れんが、トリム的には地獄のマーチなみの強行軍だろう、それ。後、麻衣。お前平日の朝っぱらからそんなメニューをこなして学校に行って、その後で柔道部にも顔出してたのかよ。

「……マリア様。流石に私、そんなメニューは……」

「……ああ、うん。分かってる。お前には無理だよな」

 本人曰く運動苦手だしな、トリムは。そんなトリムに流石に麻衣のメニューをこなすのは不可能に近いだろう、うん。

「マリアさん、マリアさん」

「ん? どした、奏」

「麻衣さんの様な山猿に頼っているから失敗するのですよ。此処は私! 美容には人一倍気を使っているこの私に頼って下さらないと!」

 そう言って最近富に発育の宜しい豊かな双丘を張って見せる奏。

「なに? お前、美容に気を使ってたりしたの?」

「当たり前ですわ! だって私達は『アイドル』なんですよ? アイドルが美容に気を使わなくてどうするのですか」

 半ば呆れた様な表情を俺に向ける奏。いや、だってな?

「別にお前ら、一々美容に気を使わなくても普通に可愛いじゃねーか? 何をそんなに――どうした、奏? なんで顔を上に向けてるんだ?」

「……鼻血が出るかと思いましたわ。天然でやる『それ』、やめて貰えませんか? 嬉しいですけど、心臓に悪いので」

「……なんの話だよ?」

「こちらの話です! ともかく! 美容に気を使う以上、私は当然体型の維持にも注力しています! 特段激しい運動などは必要とせず、それでもその食品を食べているだけでみるみると痩せるという、素晴らしい食品が――」

「ああ、もういい」

「――あるの……って、マリアさん!? まだ話の途中ですよ!」

 いいよ、もう。そういう『これだけを食べればみるみる痩せます!』みたいな食品、存在する訳ねーだろうが。いや、もしかしたらあるかも知れんよ? でもな? そんな商品があるんだったら世のダイエット関連商品全滅だろ? そうなってねーって事は、んなモンは無いって事なんだよ。

「……あの~」

 ジト目を向ける俺の横から、遠慮がちに上がる声と手が見える。視線をそちらに向けると。

「……鳴海?」

「その……私も一個、良いダイエット方法知ってるんだけど……」

 聞く? と。

 首を可愛らしく傾げた姿のまま、鳴海がそんな事を言った。


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