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クルール城。
ここには半年後に結婚を控えた勇者のグレンが住んでいる。
実はそのグレンから、話をしたいと内々に手紙を貰っていた。
「でっけー城だなぁ」
そうカインは呟くと、正面の門番にグレンからの手紙を見せ中へと案内してもらった。
城内は長く続く廊下に同じような部屋の扉が並んでいた。その中の一つの部屋にカインは通される。
立派な装飾のシャンデリアに彫刻の施されたふかふかの椅子。ガラステーブルの上には、鮮やかな花が花瓶に入って咲き誇っている。
椅子に座り慣れない空間を味わっていると、がちゃりと扉が開き勇者グレンが姿を見せた。
「やあ、カイン。久しぶりだね」
にこりとカインに笑みをこぼした後、グレンはカインの向かいに座った。
「おう、勇者。今日は一体どういう内容だい?」
「うん。まずね、説明してもらおうかと思って。どうしてカインはメルダの所にいるのかを」
にこにこしながらカインを見ているが、勇者の目は笑っていない。どうやら凱旋の時のあの表情は、カインに向けられたので間違いがないようだった。カインはそんなグレンを見てふっと笑う。
やっぱり気にしていたか・・・。
だよなぁ、あの部屋でメルダと二人でいるんだもんな。
そりゃあ気になるか。
「メルダとは俺が宿に泊まった時に話をしてね。で、お前の凱旋をよく見える場所を提供してもらったから、誘って一緒に見ただけさ。なにか問題でも?」
「そう。じゃあ、なんで今もメルダの宿屋にいるんだい?」
「ん?俺ももうやる事ないから、住み込みで働かせて貰ってるんだ。いけないか?」
ふうん、とグレンは言うとにこやかだった笑みが消え、グレンを睨みつけカインに威圧を与えた。
「どうした?そんな怖い顔をして」
「なに企んでるの、カイン」
「え?」
その威圧は魔王との戦いの前にも見られた姿。カインはそのグレンのオーラに少し怯んだ。
「企んでって・・・別に」
「私の大事な幼馴染に何しようとしているの」
今まで軽く交わしていたカインだったが、グレンのその表情に軽く返す事が出来なくなった。
やばい。
これはちゃんと言わないとやられるパターンだ。
カインは慌てて表情を真剣な顔に戻すと、きりっとグレンを見る。
「勇者、すまん。俺はメルダに一目惚れした。俺はメルダと結婚したい!」
そう言ってがばっと上半身をテーブルに打ち付けるように頭を下げる。
「・・・・そう」
「お前が旅の合間にメルダの話をしていたのが気になって、会ってみたくてあの宿屋にお前を見る名目で行ったんだ。受付にいたメルダを見て俺の心は高鳴った!もう信じられないくらいに。どうしても、メルダと一緒になりたくてそれで・・・」
少しの沈黙が流れる。
恐る恐るカインがグレンの方を見やると、先程の威圧は消えていた。カインはほっとしながらゆっくりと頭を上げる。
「そうか・・・。カインがメルダとねえ・・・」
「メルダがお前の事を好いているのも知っている。でも、時間をかければ俺の方を向いてくれると思って、それで住み込みで働かせて貰って、俺を知って貰おうと」
「わかったわかった。カインがそれほどまでメルダを思う気持ちは。・・・そうだね。私はメルダの気持ちには答えられないから」
グレンは寂しげな笑顔をもらす。
「勇者はメルダのことを好きではなかったのか?」
「好き、というか大事な妹のような存在だよ。恋愛対象ではなかったけど、それでもメルダの幸せは一番に思っているよ。だからね、変な男と結婚されるのは困るよね」
そう言うと、カインをまじまじと見る。カインはその視線に少し怯える。
「カインかー・・・。まあカインならいいのかな。・・・うん」
「そ、そうか。ありがとう。・・・必ず幸せにしてみせるよ」
「てかさ、まだカインの片思いでしょ?ダメかも分かんないのに何言ってんの」
その言葉にぐさっと精神的ダメージを受けてしまうカイン。
「じ、じきに好きになってくれる・・・はずだ・・・。きっと、いや絶対。・・・でないと俺は立ち直れなくなる」
「あはは、それ見たいね。魔王の攻撃にも耐えたカインが失恋で立ち直れないところ」
カインは殴るまねをグレンにする。笑いながらカインの拳を手で受け止め、そしてカインにこう言った。
「・・・嘘だよ。私はもう自由に動ける身ではないからさ。メルダのこと、頼むね」
「ああ・・・。言われなくても俺が守るさ」
「カインがメルダの勇者になれるように、祈ってるよ」
「おう、必ずなるよ。あいつに好いて貰える様に努力する」
そう言うと、二人はお互いの拳をくっつけた。
それは仲間として旅をし、戦いが終わる度にいつも行っていた二人の合図。
その触れた拳から、カインは勇者からの勇気と激励を貰ったような気がした。