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「おはようございます!いやー今日もいい天気で、商売日和ですね!!」
朝早くから、明るくて大きな声が響く。その声でメルダは起こされる。
「相変わらず朝強いやつ・・・」
布団を頭までかぶり寝なおそうとするが、外から聞こえてくる大きな笑い声にメルダは寝る事が出来ず、がばっと起き上がった。
「もう!うるさい!!カイン!!!」
ここはクレール王国の城下町。メルダはこの町の宿屋の娘だ。朝早くから元気な声を出し、町の人と話しているのは、魔王討伐で勇者の仲間として一緒に戦ってきた戦士のカイン。勇者凱旋のパレードの日から、この宿屋で住み込みで働いている。
メルダは勇者である幼馴染のグレンの事が好きだったのだが、魔王討伐の褒美としてグレンはこの国の王女と結婚する事になった。気持ちも伝えられず落ち込んでいたメルダだったが、カインの助け?によりその気持ちに区切りをつけることが出来た。が、その後なぜか帰る場所のないカインにお願いされ、この宿屋で働いているのだが・・・。
「おお!おはようメルダ!随分と早いな!」
アマルダが外に出ると、カインはこれまた大きな声でメルダに話す。
「アンタの声が大きすぎて、寝れなくなっちゃったのよ。まだ朝早いんだから、もう少し声のボリューム下げてよね!周りにも迷惑でしょうが」
「はははっ、すまん。つい天気がいいと声を張りたくなってしまうんだよ」
カインは毎朝宿屋の周りを掃除していた。別にお願いしたわけでもないのに。
住み込みで働く事に反対されるかと思いきや、逆に両親には歓迎され、しかもくやしい事に顔もいいものだから、母のイルムに至ってはカインにメロメロである。現にカインがこの宿屋で働くようになってから、女の宿泊客が増えた。よく働いてくれるカインを逃すまいと父のクルドはメルダの婿に、と期待をしているようだ。
それに対してカインもまんざらではないらしい。メルダの気持ちをよそに、勝手に話が進んでいる事にメルダは内心戸惑いながら生活をしている。
「さて、受付に入るか。メルダも手伝ってくれよ」
カインは笑顔でメルダにそう言うと宿へと入っていく。
寝られなくなって不機嫌でいたはずなのに、どうもカインの笑顔を見てしまうと自分の不機嫌な気持ちもどこかへ行ってしまう。そのくらい、カインの笑顔は爽やかだった。
・・・にしても、魔王を倒した仲間の一人が今は宿屋の住み込みって凄い落差よね。
本当に、カインはこの生活で満足してるのかしら。
もっとカインの全てを生かせる仕事があると思うんだけどな・・・。
受付で客の対応をしながら、ふとそんなことを考える。
魔王なき今、確かにこの世界は平和にはなった。とはいえ街を離れれば、魔王の手下であった魔物の生き残りが少なからずまだ存在するし、山賊などのならず者も存在する。魔王を倒してきた実力があるのだから、その能力をいかんなく発揮出来る職業はあるはずなのだ。
「どうした?ぼおっとして。熱でもあるのか?」
カインの問いかけにはっと意識を取り戻す。
「あ、ごめん。ちょっと考え事」
「仕事中だぞ、ちゃんとしろよ」
・・・なんてこった。カインに注意されるとは。
メルダは気持ちを切り替える。
「メルダ、悪いがこの後一日暇を貰ってもいいか?」
「え?別に構わないけど」
「すまんな。ちょっと野暮用で」
カインからこういったお願いをされるのは初めてだった。どういった用?と聞こうとも思ったメルダだったが、よく考えれば住み込みで働いてからカインは殆ど休みなく働いていた。用を自分から言わないということは、知られずに一人でリフレッシュしたいのだろうな、と思った。
「気兼ねなく、ゆっくりして。両親には私から伝えとくから」
そう言ってカインに笑顔を見せた後、メルダは受付の仕事を続けた。