フランスの英雄
時は18世紀後半、ヨーロッパはフランス。
フランスは大きな混乱を迎えていた。
豪華絢爛な王と貴族の時代は終わり、民衆たちが自ら歩む政治へと変わり始めたとき。それまで自分たちを縛っていた支配層への不満が民衆を突き動かし、長年続いた絶対王政を終わらせたのだ。
しかし、喜んでいたのも束の間、この革命の影響を恐れた諸外国は、新たにできたこの国をつぶそうと多くの戦争を巻き起こした。新しくできたばかりのフランスという子供は、戦争に負けないために、国を守り抜くために、強い主導者を必要としていた。
「今回もまた、オーストリア軍に敗退です。このままではフランス存亡に関わります」
議会に現在の戦況を報告する声が響く。その報告の声は最早聞きなれたものであり、諦めの雰囲気さえ
議会には漂っていた。この間はイタリアを奪還され、勝利どころかこれ以上の損害回避のためにいかに条約を締結するかを思案する者までいる始末である。会議場全体が重たい空気に包まれている。革命時の活気ややる気にあふれていた顔はどこにもない。その時だった。
「き、緊急の報告ですっ」
慌てたその声にその場の全員がそちらへ向く。
「何だね、敗戦報告ならばもう聞きたくないぞ」
「い、いえ、あの……ですね」
「どうした、早く言いなさい。緊急なのだろう」
「は、はい。それがですね、現在エジプトに遠征しているはずのナポレオンが大急ぎでここに帰ってきているようなのです」
会場中がざわめく。誰もナポレオンがここに向かってくる理由が分からないのだ。なぜならエジプト遠征はナポレオン自らが提案したことであり、唯一うまくいっていると言える戦いなのである。戦いの最中に何かあったのか、不安にかられる。
「理由は、何故あいつはそんなことをしているのだ」
誰かが使者に対して問いを投げかける。しかし、使者がそれに答えることは無かった。
「それはな、議会が頼りにならないからだ」
そう言って入って来たのは、少数の側近を引き連れたナポレオン、その人であった。
「これより、私がこのなんの役にも立たない議会を倒し、新たにフランスを率いっていく議会を作ろうぞ」
その言葉とともに、瞬く間に議会を制圧してしまった。もし、このクーデタが失敗に終わっていたならば、ナポレオンは反逆罪により処刑されていたことだろう。そしてフランスの歴史にも大きく傷がついていたことだろう。
ナポレオンはフランスの民衆に、真の先導者として迎えられた。
「皆の物、これより我々はオーストリアと戦いに行く。これまでは無能な議会により辛酸を舐めさせられてきたが、今日からはそうはいかない。このフランスの土地はあの革命の時、我々民衆の血と、汗により固められた。この何より大切な土地をこれ以上身勝手で、王政という遅れた政治体制の国に踏みにじられるわけにはいかない。我々『フランス人』という民族が結束し、戦えば、負けることは決してない。我々の辞書に不可能の文字は無いのだ‼」
「こんなエピソードがフランス革命にはあったと思うんだけど」
さっきの世界史の授業に影響されてか、前の席の青木が自分の妄想を話してくる。
「ふむ、君のその想像力は素晴らしいと思う。だがね、かなりツッコミたいところがあるね」
もう少し煮詰めればそこそこの話になりそうだが、所詮高校生が一時間習ったことで妄想したに過ぎない。残念ながら、設定に厳しいところや、歴史的知識の足りない部分が大いに目立つ。だが、僕が最もツッコミを入れたいのは。
「ナポレオンは『吾輩の辞書に不可能の文字は無い』とは言ってないらしいよ」