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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

それ乙女ゲーム転生でやる意味ないんとちゃうんかという話

 悪態をつきたい気分になりながら、口に出す余裕もなく走り続ける。

 恐らく、負傷は致命的要因になりうる。

 それが深手でなくとも、だ。


 どうしてこんなことになってしまったのだろうか……?


 俺は、乙女ゲームとやらの攻略対象なんじゃあなかったのか。



----


 気がついたら、別人の体になっていた。

 それも、赤ん坊である。死んだ記憶はなかったが、それは長い時間をかけながらそういうものなのだろうと納得した。納得するしかなかった、ともいう。そうでもなければ、気が狂ってしまいそうな自分を押しとどめることができなかったのだ。

 必要なものは諦観であり、開き直りでもある。

 『こうなってしまっている理由がわからないのだから、仕方がない』

 そう思い込んでしまうことだ。

 そうして、疑問だらけの状況に折り合いをつけて生きていくしかなかった。

 今でも『どうして』とは思うし、『これは夢なんじゃあないか』と思うこともあるが、無視している。

 考えても答えは出ない。

 同じ状況であるという人物に出会ったことも、諦めることができた要因の一つともいえる。


 だって、だっていくら考えても、俺が満足行く答えなんて、誰も出してくれそうになかったのだ。

 誰も、俺も、出せそうになかったのだ。

 『ゲームに酷似した世界に転生する』なんていう、荒唐無稽な現象の答えなんぞは。


 この世界は、現代に近い日本が舞台のゲームに酷く似ているらしい。


 ゲーム自体の名前は聞いたこともなかったが、所謂女性向けゲームの一つである『乙女ゲーム』の一つであるそうだ。現代日本に則した設定だが、ゲーム的な設定もあるという、よく見るものの一つ。

 その中で、今の俺と同じ名前を持つ人物は攻略対象の一人らしい。


 そう聞いて、理不尽に悶える以外に思ったのは一つの納得である。

 納得については、自分の新しい体が以上に優れていたことと、微妙に複雑な家というか、家系というか、そういうものについての納得である。

 物語のような話だな、と逃避がちになりながら自分については思っていた。やたらイケメンだったし、顔。不条理に権力持ってたし、家。

 全く同じではないらしいのだが、それはゲームという空想から現実になったから、とでも考えるしか無い。


 ちなみに、その情報を教えてくれた人物は、名前は出ているが絵はない、所謂モブと称されるキャラクターだったらしい。

 現実になっている以上モブもくそもないと思うのだが、しきりに自分はモブだと主張していた。

 その様は、俺以上に今の現実を見ていない気がして気持ちが悪かったが、情報源は大事だったのだ。酷似しているのであれば、役に立つ情報もある。多少のことは割り切った。諦めがうまくなったものである。

 時折怯えるように『モブだ、私はモブだ』と唱えるさまは狂気さえ感じるが、諦めは必要なのだ。


 どうにか折り合いをつけて生きていくために、ゲームに起きるイベントは起きるかもしれないという前提のもと、ゲームに関わらずに生きようと計画を立ててきた。

 知らなければ流れである程度巻き込まれたかもしれないが、知っていればそれこそある程度はどうにでもなる。

 舞台である学園を回避して元を絶とう、という計画は結局駄目になってしまったが、『ゲームに出てくる人物に関わらない』『ゲームと同じ立場には立たない』はおおよそ成功した。

 知っているのだから、近づかなければいいだけだ。

 他の攻略対象とされる人物たちは、細かいところはしらないが、大体ゲームと同じだったという調査結果が出ていたのだから、避けるのも容易である。自称モブはなぜだかギャーギャー騒いでいた。

 異様に避けることもまた翻弄されているのではないか、という考えがないでもなかったが、それもまた諦めである。避けようとすると、微妙に修正されるような結果になりがちだったので、むきになったともいう。

 結果、多少人気はあるものの一般的な生徒の位置につくことができた。生徒会だとか、部だとか、裏で何かを企むとか、家柄関係のいざこざだとか、そういうのには一切関わっていない。


 しかし、気になることがある。

 一つは、少し前くらいからそのずっと感じていた『ある程度の修正』を感じることがなくなってきたこと。

 もう一つは、ヒロイン、広井 綺羅子が学園にいない。

 もうずいぶんと経つのに。


 まぁ、現実だし、そういうこともあるのだろう。

 ゲームにあまりに似ているからと、対策などしすぎたのかもしれない。

 現実が見えていないのは、この世界がゲームだと聞いて、信じこみすぎていたのは俺だったかと、苦笑を一つこぼした。




----


 そう、そんなことを思っていたのだ。俺は。楽観的にも。

 

 楽観的?


 いいや、違う。違うはずだ。

 転生も予想外にすぎるが、これだって予想外のはずだ。


 一体誰が、『乙女ゲーム』基準だと思われていた世界が『ゾンビゲーもびっくり状態』になると思うのだ。



 何も変わらないある日、唐突に授業にゾンビが乱入。

 それから、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。


 みっともなくも、俺は全てを見捨てて逃げるしかできなかった。

 見捨てたというよりも周りを見る余裕もなかったというべきかもしれない。

 気がつけば一人で逃げていた。ゾンビどもは、何故か人間を見ると追いかけてくるのだ。

 それから隠れつつ移動していたが、学校内はゾンビと呼ぶべきそれで溢れている。先程も見つかって、今やっと隠れることができて一息ついたところだ。

 少しだけ冷静になれた頭で観察した結果、体液が体に入ると感染するのではないか? という結論に落ち着いた。こうして自分がゾンビになっていない以上、空気感染ではないと思いたい。時限式は勘弁してくれ。


 スマートフォンで、一応つながったネットで情報収集したところ、どうもこの街だけではない様子だった。

 少なくとも日本各地で発生しているらしい。

 ニュースも中継途中で発砲音が聞こえたり、途中でキャスターが襲われたりといった、『それゾンビ映画とかゾンビ漫画の展開ですよね』と言いたくなる現実が展開されている。

 

 俺はゾンビに生き死に的な意味で攻略される対象だったのだろうか。


 そんな馬鹿な。

 転生した当時の如く現実逃避しながら、更に情報を集めていると、拡散されている動画を発見した。

 それは掲示板系各種に異常に多くリンクがはられている。

 重要な情報だろうか、そう思い、どこか震える気持ちを抑えつつ、リンクを踏んだ。

 どこか遠くで、自称モブの悲鳴が聞こえた気がする。

 どうすることもできないまま、動画は再生される。



 研究所めいた部屋の中で、同じくらいの年齢だろうか? 一人の女がくたびれた白衣を来て楽しげに笑っている。

 その笑みは、『欲しかったおもちゃを手に入れた子供』のような、自然に思えるものだ。


 『諸君、はじめまして。

 私の名前は広井 綺羅子、研究者の一人を自負している。

 今頃は、私の研究結果をお楽しみいただけている頃であろうか?

 そのゾンビと呼ぶべき者達と戯れているかな?

 どうか、どうか楽しんで欲しい。

 非現実的展開は好きだろう? 最近も一つのホラー映画が話題になっていた。

 どうだい、現実で、それを楽しむことができるというのは。心が踊るかね?

 私は非常に心躍る』


 その女が吐いた名前は、紛れもない聞いていたヒロインの名前だった。


 しかも、この異常な状況を作ったのはこいつであるらしい。

 乙女ゲームのヒロインがやることじゃないだろう。

 というか、乙女ゲームじゃなくてもおかしいだろう。

 何やってんだお前。

 大体なんなんだその口調。ちくしょう。


----


 私が転生という体験をするに至り、まず覚えたのは感動である。


 おお、おお、素晴らしい。これでまた研究ができる。


 その気持ち一つである。

 今の私になる前の私は、確か処分されたはずである。

 研究が危険視され、停止されるのを拒み、逃走し、一人で続けた結果である。

 天才というものはいつの世も理解されない。


 私がその時研究していたのは、人を変質させるウィルスである。

 あるウィルスに特定の環境と細胞を加えることによって生まれる『それ』は、生物の体内に入ると凄まじい速度で侵食を開始する。

 人間に植え付けてもまたしかり。

 侵食が脳に到達すると、その生物は『乗っ取られる』。身体能力や、再生能力の向上が確認できた。

 人間であるとあまり向上率については期待できないのは残念なところだ。

 しかし、人間に植えつけた場合、面白いのは、いろいろ実験してみた結果、『元の人間の意識がある』ようであるという点である。

 ある種の傾向性を持った人間などは、特に面白く、元の人格を維持して喋ることさえできる。行動は乗っ取られたままなので、そこが非常に面白い。愉快だ。

 乗っ取った後は、増殖しようとするようで、同じ生き物を襲いだす。



 こんなに素晴らしいものを、どうして前の世界の人間は理解できなかったのだろうか。

 こちらの世界の人間はどうだろうか。

 普通に発表してはつまらない。


 ということで、ばら撒いてみた。

 多数の生物を経た結果、どういう変化を及ぼすのかという点も研究せねば。

 楽しい世界のはじまりである。


 ふと思い出したのだが、子供の頃、てきとうに思考誘導実験を施した奴はどうしているだろうか。

 『私がヒロインになる』とかなんとかいいながら、私に掴みかかってきたから、少々遊んだのだが、途中で飽きて放置してしまった。

 今思えば、あれもある意味我が強いようであったし、適合する傾向性もあったかもしれない。

 実験しておくべきだったか。

 まぁ、いい。

 見つかれば捕まえてみればいいし、見つからなければそこまでの話しであろう。

本来位置はライバル、悪役キャラ

→幼少のころヒロインを見て暴走

→アレコレやられる

→自称モブ誕生


そして自称モブさんが最強のゾンビになって広井さんを打倒する……!

デンプシー! デンプシーだ自称モブさん……!


というところまで妄想しました。




そう、これは悪役キャラ系転生の人が主人公のオーソドックスな『最悪のバッドエンドから抜け出したい悪役系テンプレ話』だったんだよ!

な、なんd(ry


一人でやると虚しさただよう。切ない。


おわり

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