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さて、ここからが私の趣味と実益を兼ねた、楽しくて辛い時間です。
今回もあの部屋から借りた一冊の小説を移そうと思います。
「さて、今日もがんばりますか」
写本は翻訳がない限り、孤独な作業になります。
本を読み込んで、地の文や登場人物の心情をつかみ取り、作者がどんな気持ちで書いたのかをイメージすることが大切です。複数人で写本をしようとすると、解釈の違いで齟齬が発生してしまいますので。
私は、一文字一文字丹精をこめて書いていきます。初めはこの国の言葉があまり上手くありませんでしたが、今はおば様並みに綺麗に書くことが出来ます。
長く机に向かって紙に字を書いて行くと、手が痛くなってしまいます。なので休み休み、時間をかけながら書いて行くのです。
書いている途中、筆を持った指が痺れているのか自分の意志と違う文字を書いてしまいました。
「う、失敗しました……」
写本は、失敗との戦いでもあります。
鉛筆ではなく筆で描かなければいけないため、失敗すればそのページ分の努力は水の泡になります。要するに、書き直しです。
他にも、誤字脱字があれば訂正し、言葉を広く分かりやすく解釈し、息遣いに合わせるようにスペースを空けていく、結果的に地味な作業になります。
「これで、やっと1割……」
天才的な才能はいらない。チートもいらない。だけど、そんなに努力しても、結果には繋がりにくい。一度でもインクを零せば、全てが水の泡になる。こんなに書いても、終わる気配を全く見せない。
写本は楽な仕事ではないのです。
それでも私は本を写し続けます。私には才能がないから、残した結果もなければ、大きなことをした経験すらないのです。私が持っているのは、忍耐と、今まで読んできた本の知識と……。
だからこそ、写本は私にとって天職でした。つらい仕事ですが、読んでもらえる本を作るというのはとても楽しいです。上手く移すことが出来れば、結構収入になりますしね。
「ここまでですね……」
いつの間にかかなりの時間がたっていました。すでに眠気で倒れそうです。私は惰性に身を任せ、ベッドに倒れこみました。痛いです……。




