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物語の中の魔女  作者: あすぎめむい
はじまり。序章の一ページ。
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5ページ目

この物語はフィクションです。実在するの名称、その他さまざまなことは一切関係ありません。たとえ名前が丸っきり一緒だとしても。また、今回の彼女の言葉は彼女自身の私見なのであしからず。

「――私の国の話をしましょう」


 そして私は、私のいた世界のことを少しだけ、話す決心をつけました。


 話すのはもう少し先にするべきだと思っていましたが、この二人には十分考える力があると思いました。それに……、私も心の底では話したいと思っていましたから。


「その前に二人とも、私のいつも言っていることは覚えていますか?」


「はい。『人から教えてもらったことだけを信じるのではなく。自分が見て、感じて、考えたことを踏まえてから物事を信じなさい』ですね」


「はい、よく覚えていましたね」


 私はこの言葉を骨身にしみるほど痛感しています。だからこそ、私が教えている子供達には過ちを犯してほしくない、そういう思いで何度も言い聞かせていました。


「これから話すことは、きっとあなた達の常識では測ることができません。なので、半分冗談で聞いてもいいですから、全てを偽りだと思考を放棄することだけはしないでくださいね」


「「はい!」」


 ルーテとツーレちゃんの肯定の言葉が重なります。私は幸せ者です、こんなにもいい生徒、いい友達を持てて……。


「先生!」


 気付いた時には私の目から涙が一粒、頬を流れていきました。


「大丈夫です、……嬉しかっただけですから」


 私は恥ずかしくて、後半の言葉を小さく呟きました。


「それでは、私の国はここからものすごく遠く――私は事故でここにきてしまったので、正確な距離は分かりませんが――、そこでは科学というものが発達していました」


「科学ってあれだね。アオイがこの前言ってた『てこの原理』ってやつ」


「それは科学の中でも力学ですね、それも私の国では初歩の知識なのです。私の世界では科学はすさまじく――、この世界で言うところの魔法に近くなっていました」


「「魔法!?」」


 この世界には魔法があるらしいですが、私はもちろんルーテやツーレ、長老やおば様ですら見たことがありません。中央の国にはしっかりと学問として存在し、その本がおば様の家にもありましたが、魔法使いはあまりにも重宝されるため地方まで普及しなかったのです。ちなみにその本、私は理解することができませんでした。難しすぎます。


「そうですね……、例えば私の国の科学を使えば、だれでもこの町から中央に一日で行くことができるでしょう」


 つまり電車のことなのですが。


「い、一日!? それは本当に魔法と遜色ないね……。そんなものがあれば中央の最新技術をすぐに、私達の町に届けることができるよ……」


 これが普通の人なら「そんなこと、あるわけないだろ」と一蹴されてしまうのでしょうね。最初に話したのがルーテ達で本当に良かったです。


「……どうすればいいのですか!?」


 ずい、と身を乗り出してツーレちゃんが訊いてきました。……いつも思うのですが、ツーレちゃんは引っ込み思案なのに知識にはとても貪欲ですね。……とても喜ばしいことです。ですが……。


「ごめんなさい」


「……え?」


「あなたの好奇心に見合う知識を、私は持っていないのです」


「……そんなぁ」


 私の言葉に、ツーレちゃんは気を落としてしまいました。あっちで私がしっかりと勉強していたら、詳しく教えることができたかもしれません……。


「他にも空を飛ぶ鉄の塊や、夜でも道を明るく照らす小さな塔など、私の国にはこの国に無い技術が無数にあります。……ですが、それは私達に利益だけを与えてくれるものではありませんでした。では問題です、それは何故でしょうか?」


「うーん」


「…………」


 ルーテはあごに手を当てながら、ツーレは青空を見ながら考え始めたので、私は果実を食べながら休憩をとります。日陰に置いたので大分ぬるくなった果実は、なかなかに美味でした。


 数分後。


「わからないよ……」「……わかりません」


 二人は同時にギブアップしました。まあ、まだ二人には難しかったかもしれませんね。


「私達は『過程』を見失ってしまったのです」


「「過程?」」


「そう、過程です。これも例を出しましょう。ルーテ、あなたは隣の町へ行くときに目的以外で何を考えながら歩きますか?」


 私が質問をすると、ルーテは「え? うーん」と少々考えた後、こう言った。


「周りの畑を見たりするよ。今年はどんなのが豊作でどんなのが不作か、どのような方法で収穫量をあげようとしているか、かな?」


「すばらしいです。……でも私達の場合『早く着かないかな』と、考えてしまうのです」


「え……?」


「楽なことをして……、結果だけを求めると……、過程――誰かの苦労や楽しみ――に気付かなくなる?」


 ツーレちゃんがぼーっと空を眺めながらも、頭の中は思考の海をかき分けていたようで、かなり答えに近づいていた。


「いいところに気がつきましたね。たぶん、私たちは楽をしていたせいで視界が狭くなっていたのです。成功した相手の苦労も苦難も知らず、その結果だけを疎み、欲し、そして……戦争まで起こってしまいました」


「アオイはそれでこの国に……?」


 深刻そうな瞳でルーテは私を見つめます。いや、あの……。少し誤解が起こってしまいました。早く解きませんと。


「あ、いいえ。戦争が起きたのは私が生まれる前のことなので、私は……一応平和な時代に生まれてきましたよ?」


「なんだ……、良かった」


 ルーテもツーレちゃんも、安心したのかほっと息を吐きました。……心配させてごめんね?


「でも、結局私たちは、今でもこの負の連鎖を断ち切ることは出来ませんでした……。だからこそ、私は二人に伝えたいのです。『本当の結果は、相応の過程を経ることで、真実の知識となる』ことを、それを怠ったせいで私の国が取り返しのつかないことになってしまったことを。私如きが大層なことを言う権利などないのかもしれませんが、それでも、この国が私のいた世界と同じ道を辿るようなことにはなってほしくない――、そう思えるのです」


「アオイ、『私如きが』なんて言わないで。あなたは十分立派だよ」


「……そうですよ。先生は私たちに大切なことを教えてくれるじゃないですか」


 私は、泣きそうになる自分の顔を何とか内に押しとどめ「ありがとう」と二人に笑いかけました。こうやってただ喋るということで、救われている私がいました。


「本当に……、みんなに会えてよかった……。これからも、私の友達でいて欲しいの」


「当り前じゃない。アオイ、水臭いよ。もっと笑って笑って」


「……先生はみんなの憧れだよ」


「ありがと、二人とも」


 時間は速く過ぎていく、それでいい。ゆっくりと、答えを見つければいい。焦る必要はないのです。

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