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ルーテことルテシアさんは農家の一人娘です。年が同じで親友なので、先生と生徒という間柄の今でも彼女の両親にはよくしてもらっています。
「ルーテっ!」
「アオイー! さっきぶりね、何かあったのかしら?」
学校では生徒の彼女も外に出れば気さくに私に話しかけてくれます。最初はそのせいで、私は泣いてしまいましたが……。
「ルーテ。遅刻した分の授業の内容、ツーレちゃんが写してくれたんだけど、ルーテがあまりに早く帰ってしまうから……、少しは補修もいるかなって思って」
「ああ! ごめんごめん、ありがとうね。それにしても、私はてっきりあの日みたいに怒られるかと思ったよー」
「……あの時は本当にごめんなさい」
「謝らないで! あなたはあなたの国のやり方に従っただけでしょ?」
ルーテが慌てて私を慰めようとする。
あの日、ルーテが初めて授業に遅刻をしてしまったときに私はルーテに激怒して、泣かせてしまったことがあります。
あの後、私はやりすぎてしまったと、とても後悔しました。
「私の国の言葉には『郷に入り手は郷に従え』という言葉があって、それはその土地の習慣に従いなさいという意味なの。それを忘れていた私が悪かった……」
「もういいってば!」
落ち込みやすい私の背中をルーテは優しく叩きます。ルーテは感情表現豊かで面倒見がよく、子供たちに慕われています。私も、ルーテみたいな人になりたかった……。
そんなこんなの内にルーテの家に着いてしまいました。
ルーテの家は木造の一軒家。この辺りでは、なかなかに立派な家です。
私とルーテは玄関からは上がらず庭へと回り込み、縁側の様な場所に行きます。そこには一人の少女が私を待っていました。
「こんにちは、先生」
私に挨拶をした後、うり科の果実を小さな口で頬張るのはツーレちゃん。
ツーレちゃんはルーテの二つ隣の家の娘さんで、ルーテと1歳か2歳離れています。普段はルーテの後ろに隠れておどおどしているような子ですけど、たまに驚くような行動力を見せます。
「ルーテに渡すための授業分、忘れて行きましたね?」
「……はうっ。コホッ、コホッ」
私の言葉にびっくりして、うり科の果実が軌道に入りかけてむせました。ツーレちゃんはうっかり屋さんなのです。
「ツーレ、大丈夫?」
未だにむせているツーレちゃんの背中をルーテは撫でました。はたから見ると姉妹の様でとても微笑ましい光景です。
「……もう、大丈夫。ありがと」
「良かった。……ツーレ、こちらこそ今日の授業を映してくれて、ありがとう」
「……教室に忘れていきましたけどね」
「アオイ! 余計なことを言わない!」
「はうぅ……、ごめんなさい」
「ツーレちゃん! 謝らないで!」
今度はおどおどするツーレちゃんを二人で慰めた後、私とルーテも縁側に座って果実を頂きます。日が当たっていたのかほのかに温かかったのですが、その分口の中に特有の甘みも広がっていきます。これは先程とって来たばかりだそうなので仕方がないですが、水で冷やしたほうがおいしく頂けます。
「冷蔵庫があれば楽なのにな……」
『日本』にあるすばらしき文明の利器に思いをはせます。ああ、親戚で集まってスイカ割りをしたものを、冷蔵庫で冷やしたスイカはおいしかった……。
ここには『日本』にあるような冷蔵庫や電子レンジ、米が無いので炊飯器なんか当然ありません。主食は私の国で言うパンを石窯で焼きます。文明の利器に慣れていた私はこちらの環境に合わせるのにとても苦労しました。今でも慣れません……。
「「れーぞーこ?」」
二人が私の零した言葉に反応しました。……冷蔵庫という言葉はないのでいちいち説明しないといけないんですよね。
「私の国にあった、物を冷やす道具ですよ。それを使うと、いつでも冷たい飲み物が飲めたり、氷を作ることができます」
「……アオイ、いつも思うんだけど、いろんな知識をどこで手に入れたの? 中央?」
「……ううん、ずっと遠いところ」
私の国のこと……、話しても良いのでしょうか。気味悪がられると思い、ずっとおば様以外には隠し続けていました。……でも、この二人には今後のためにも話すしてもいいのかもしれません……。
「そうですね……。二人とも、少し特別授業をしませんか?」
「はい? ……私は構わないですけど」
「はい! なんですか? 楽しみです!」
先生モードに入っていきなりの提案に、ルーテは驚き、ツーレちゃんは目を輝かせます。
私は一度、深く深呼吸をして、最初の一言を紡ぎました。
「――私の国の話をしましょう」




