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朝は、野鳥の囀りで目が覚めます。寝ぼけた私は、今日も目覚まし時計を探すため手を伸ばしますが、そんなものはどこにもありません。
「うぅ……、もうこんな時間……」
とはいえ、さすがに太陽の高さで大体の時間は分かります。もう働く時間です。動かない体に活を入れ、いつもの服に着替えて、私は借家の自分の部屋を飛び出しました。
「あら、先生。もうお仕事? 朝ご飯はいるかしら」
共有キッチンでは大家さん――私はおば様と呼んでいます――が朝ご飯の用意をしていました。
食卓の上には、パンにゆで卵、バターのようなものにおば様特製のソース。いつもの朝ご飯ですが、私はとても楽しみにしています。
「でも、食べる時間がありません……!」
慌てている私の姿を見て、おば様が一つの提案を出しました。
「それじゃあ、バスケットを作るから。ちょっと待っててね」
おば様はそう言うと、バスケットを用意しました。中にアブラナ科の野菜にスライスしたゆで卵を、バターを塗ったパンで挟み、乾燥させた肉を添えて入れます。
おば様の手際の良さは見ていて惚れ惚れとします。私は不器用なので、おば様みたいに何でもそつなくこなすことができません。
「ありがとうございます。それではおば様――、行ってきます」
私はおば様にぺこりと頭を下げる。
お辞儀をしてもおば様には意味が分からないのだけど。私の心は伝わるから。
「いってらっしゃい」
おば様の見送りを背中に受け、私は仕事場に向かいます。
ここは私の元々いた『日本』とは別の世界。16歳の私は『先生』として毎日を生きています。
私の名前はアオイ。『日本』では普通の高校生でした。
はずなのですが……。
ある日。私が目を覚ますと目の前には一面の草原が、どこまでも広がっていました。この時点で私は現実についていけません。パジャマ姿で草原にいる私。なんとシュール。私は混乱していました。
何とか勘を頼りに近くの町まで辿り着くことはできましたが、そのころにはパジャマはボロボロ、お腹はペコペコ、体はヘトヘトという状態で全く動けなかった私を助けたのが、おば様でした。
おば様は、私の命の恩人なのです。
心も体も限界を迎えていた私をおば様は自らの家へ連れ帰り、看病してくれました。そして、おば様とたくさんお話して分かったことは――ここが私のいた世界とは別の世界ということでした。
うすうすは気が付いていたんですけどね? 小説などでよくある展開でしたから。あのときは余裕がなかったのですが……。
そして次にわかったことは、私が今大変な状況に置かれているということでした。現在の一張羅であるパジャマは服という体裁は保っていましたが、至る所が破れていて、もう着ることが困難でした。おば様は直せるといっていましたが、その……。直すまでの服が問題だったのです。
私ではおば様の服はサイズが合いません。そのため、急遽おば様が古着屋でめぼしいものを見繕うことになりました。本当に申し訳ないです……。ちなみに、お金のことを聞いたら「後で払ってくれればいいよ」と笑顔で言いました。とびっきりの笑顔で。
さて、衣服の確保が出来た私が次に問題としたのが住居と食事です。帰る方法を渋々探したいところではありますが、もう日は暮れてそれどころではありません。ですが、この問題はすぐに解決しました。
おば様は大家さんもやっていて、私にも部屋を貸してくれたのです。
要するに、『帰る方法が見つかるまで、働いて家賃と借金を返しなさい』ということでした。
それから3か月――。
私は今日もこの世界で生きております。




