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食堂にて

あらすじやキーワードを少し変えてみました。

 ホームルームの後、僕は昼食を取るべく美空と食堂に向かった。


「どんな感じ?」


 廊下を移動中に、美空からの質問。


「ついて行けそうにない……」


 正直な感想だった。


 いや、だってさ。担任は情緒不安定なろくろ首だし、クラスメイトはどいつもこいつもマイペース過ぎるし、いかれた魔剣使いはいるし、聖剣使いってことで何人からは奇異な視線を送られるしで大変だぜ。


「ふーん。ま、頑張って」


 それだけかよ。あっさりしてんなあ。


「でもさ、『普通の学校』に行ったらこんなもんじゃ済まないよ?」

「……だよなあ」


 聖剣に選ばれたあの日から、僕の人生……というか、僕自身が狂い始めた。今更、普通の生活に戻るのは無理だと思う。なんというか、感覚がズレてんだよな。ふとした瞬間にそれを思い知るっていうか。


 まあ、今はこの環境に慣れるしかないのか。


 食堂につくと大賑わいの中、自販機で食券を買った。僕はカツ丼、美空はラーメンにした。

 学園の設定上、奇怪な名前のメニューばかりだと思っていたが、割と普通のメニューばかりで安心した。一つだけ異彩を放つかのように、『スライム丼』なる名称のものがあったが見なかったことにしよう。


 ……やたら視線を感じるのは、美空が美人だったからだと思いたい。僕なんて誰の目にも映っていなかったと祈ろうか。悪い意味で注目されるのは絶対に御免被る。


「さあ、座って座って」


 僕と美空は四人用のテーブルに向かい合うように座った。


「そういえばさ、副会長さん。いつもああなのか?」

「いつもああなのよ」

「あれが素?」

「あれが地だよ」


 溜め息を吐きだしつつ絶望していると、近くに誰かが接近する気配がした。


「よ、美空。ここ良いか?」


 声を掛けてきたのは、赤毛の少年。ジャック・オ・ランタン10世だったよな、確か。後ろにいる少女は、行脚天外。特徴的な名前だったから覚えている。


 ジャックはサバ味噌定食、行脚天外は天ぷら蕎麦だった。……悪霊や占術師のイメージには全く合わない食べ物だな。


 この学園の方々は幾度となく僕の幻想をぶっ殺してくれるぜ。


「いいよ。座っちゃって」


 反応から見ると、美空とは知り合いらしい。僕の隣にジャックが、美空の隣に行脚が座った。


「あれ? 狭間は?」


 狭間――生徒会庶務の紅狭間か。美空は生徒会全員と繋がりがあるようだから、彼とも関係があるんだろう。この二人も彼と接点があるということだろうか。


「生徒会の方に行ったよ。午後の用事もあるだろうし」

「お腹大丈夫かな?」

「大丈夫だろ。購買の菓子パン買い尽くしてたぞ」

「なら大丈夫か」


 買い尽くしたって……。あの童顔、マジでハングリー。あの身体のどこに入るんだよ、そんな質量。そして、それで納得してしまう美空もどうなんだ。『いつものこと』ってやつなのか?


「つうか、美空さ、聖剣使いとやけに仲良さそうだな」

「まあね。彼にこの学園を紹介したの、私だもん」

「何だ、知り合いだったのかよ」

「まあね。手続きとかは、千夜せんやさんにやってもらったけど」

「うわあ。聞きたく名前聞いちゃったぜ」


 仰々しい動作で頭を抱えるジャック。だが、視線を僕に向けた。その目は興味に彩られていた。


「しかし噂は聞いているぜ、聖剣使いさんよ」

「う、噂?」

「自覚なしかよ……。そりゃ神器使いだぜ、神器使い。こういう異形の集まる学園に一人いるかいないかって話なのに、その内の一人が編入してくるってんだ。話題にもなるだろうぜ。実際、噂に疎い俺の耳にも入ってんだからよ」


 しかし、話題になるってのは歓迎できない。僕って普通の学園生活を送るためにこの学園に来たんだよね。いや早くも破綻しつつあるけど。

 まあ、だからあんまり注目の的にはなりたくないんだよね。


「ちなみに、この学園には神器使いが多かったりするんだよねー。数だけでいえば世界一で、質でも上位さー」

「学園にいる神器使いって、こいつで何人目だっけ?」

「聖遺物って神器に入るー?」

「入らないよ」

「だったら七人だねー。まあ、北欧神話に偏っているけどさー」

「こうして数えると、多いね」

「二年生の芥原あくたばら先輩がグングニル使いで、さっきの和道がレーヴァティン。三年生にミョルニル使いがいるんだっけか? 詳しくは知らんけど」


 ……まさか『最強の雷鎚』ミョルニルに、『遥かなる神槍』グングニルの名前をこんなところで聞くことになるとは。


 てか、あの魔剣使いの同級生の魔剣って、『終末の炎剣』レーヴァティンだったのか。あの傲岸不遜な物言いも、あの剣に選ばれたという自信から来るのか?


「えっと、他の神器って何だっけ?」

「ギリシャの三大神の神器が例の才女三姉妹で、『十種神器』を飼育委員長がまとめて持っていたと思うよ」

「そんなもんか」


 素人の僕にはよく分からない会話だ。えっと、『ギリシャの三大神』ってのは、天神ゼウス、海神ポセイドン、冥府神ハーデスで良いんだよな。だとすると、その神々の神器と呼ばれるそれの正体も察しがつくというものだが。


『十種神器』というのも、名前からして日本神話の神器なんだろうけど、三種の神器くらいしか知らない僕にはどんな神器なのかも分からない。


「あれ? ヴァジュラっていなかったか?」

「それは別の学園だよ。確か、ニュージャージーの学園だったと思うけど」


 こういう学園が外国にもあるのかよ。いや、むしろ日本にしかないという発想の方がおかしかったか。

 そして、同じ学校だと錯覚してしまうくらいに交流があるみたいだ。


 ……ヴァジュラって何だろう。話の流れからして神器、つまりは神が使っていた武器だってことは分かるけど。今度ネットで調べておこう。


「でも気をつけた方がいいぜ、えっと……名前なんだっけ?」

「天井勇輝だ。よろしく」

「そうか。では、あまっちと呼ぼう。俺はジャック・オ・ランタン10世。気軽にジャックと呼んでくれ」

「分かったよ、ジャック」

「私は行脚天外だよー。テンちゃんって呼んでね?」

「い、いきなりあだ名はレベル高いから、行脚さんと呼ばせてもらうよ」


 あんまり女子と絡んでこなかったから、そんなに対人スキルが高くないんだよ、僕は。それに、癖がありそうだけどこんな美人の子にいきなり親しくするのはちょっと躊躇いを感じてしまう。


「美空は美空と呼んでいるのにかね」

「えっと、まあ。そこそこ長い付き合いだからな」

「そうそう。長くて深い付き合いなのですよ」


 美空の言葉に、ジャックは溜め息を吐き出して、行脚はにやにやしていた。


「……ひょっとして会長さんが荒れてたのって」

「こういうことだったんだねー」

「だとしたらやばくね?」

「私達が心配することではナッシングー」


 何かを納得した様子のお二人さん。


 首を傾げていると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。そちらを見てみると、覚えのある姿があった。


 入学式の前に、校門の所で見かけた悪魔と吸血鬼の集団だ。今朝のようにいがみ合っていた。まあ、あれはじゃれ合いみたいなもんなんだろう。……流石に食堂で殴り合いはしないだろうし。


「この腐れ吸血鬼どもが! 俺達の視界に入ってくるんじゃねえよ、汚らわしい!」

「黙れ、この変態悪魔どもめ! お前らこそさっさと消えうせろ!」

「誰が変態だ! 処女の血液を飲んで興奮するような奴らに、そんなこと言われたくないね!」

「うるせえよ! ビッチ萌えとか訳分からん文化があるくせに何言ってやがる!」


 公の食堂でこいつらはどんな会話をしているんだ。悪魔や吸血鬼って奴は世間の迷惑ってのを考えないのか? 美空を知っているとそうなのかもしれないと思ってしまうけど。


「? 何、勇輝」

「いや何でもないぞ?」

「……ふーん」


 デコをグーで殴られた。結構痛かった。


「はあ!? ビッチ最高じゃん!」

「ないわー! ビッチがいい女とかマジでないわー!」

「何だと!」

「うるせえよ! 節操緩い女のどこに萌えろと言うんだ、このバカどもが!」

「だったら、てめえらの族長の娘! あれは何だ! あれはビッチとか絶倫とかそういう次元じゃ済まないだろうが!」


 突然、美空の肩がびくぅと震えた。


「やめろぉぉお! あの人のことを出すな! あの人のことは俺達吸血鬼にはデリケートな話題なんだ!」

「いいや、言わせてもらう! つうか、何だよあの女! うちの魔王を逆レ○プしやがって!」


 飲んでいたお茶を吹き出してしまった。


「魔王を性的な意味で襲うなんてサキュバスでもしねえよ! ルシファー様、未だに女性恐怖症なんだぞ! 魔王が女怖いとか、もう笑えてくるね!」

「うるせえよ、俺達だって泣きたいよ! あの人のせいで、行く方々でケダモノを見るような目で見られるんだ……。そりゃ吸血鬼は性には寛容だよ? でも、あの人のあれは異常なんだよ……それにあの人、最近は『あの御方』の息子にも手を出しそうになってよ……」

「大丈夫か? もし大事に至ったら本気で滅ぼされるぞ?」

「嫌な心配すんな! 不安になるだろうが!」


 涙目の吸血鬼。見えば取り巻きの吸血鬼達も泣きそうな顔をしていた。悪魔達が申し訳なさそうな顔をしているくらいだ。


 美空も吸血鬼だからだろうか、沈みに沈んでいた。目が虚ろだ。大丈夫だろうか。ジャックや行脚も神妙な顔つきで瞑目している。見れば、食堂中が同じような空気になっていた。


 ここは話題を逸らそう。ちょうど気になっていたこともあることだし。


「そ、そういえば、天使ってこの学校にいたりしないのか?」

「は?」

「いや、だからさ。堕天使やら悪魔やらの関係者もいるんだろう? 対立する種族が色々ろいるみたいだし、まして僕みたいな聖剣使いがいるなら、神の陣営もいるんじゃないかと思ったんだけど……」


 その瞬間、その場にいた全員が呆然とした。「何言ってんだ、こいつ?」と皆の顔に書いてあった。


 やがて、何かを理解したかのように美空が口を開いた。


「ああ……勇輝は知らないのか。まあ、『こっち』に関わってからそんなに日が深くないもんね」

「ん?」

「なんだろうな。赤信号で『止まれ』をしない人間に出会った気分だ」

「え?」

「無理もない、のかなー? 私達は生まれながらにして『こっち』だったけど、彼は後天的にこっちの世界に関わることになったんだからー……いや、でも『あれ』に関して全く触れることなく今日まで過ごしてきたのかー」

「ん?」

「いやあ。私が生まれた頃には、もうそれって『こっち』の常識だったからさ。何か改めて説明するのも変な話だね。天動説が主流だった時代にタイムスリップしたら、こんな感じなのかな?」


 かつて、世界では“地球は太陽を中心に回っている惑星の一つ”とする『地動説』ではなく、“地球は宇宙の中心”という『天動説』が信じられていた。


 その時代では、『地動説』を口にするだけで処刑されるようなことさえあった。しかも、その間違いを、その妄想を人々を導くはずの教会が率先して教えていたというのだから滑稽な話だ。


 いかなる証拠があっても否定された。何故なら、とても信じられなかったからだ。地球が丸いなんて。地球が、自分達が中心ではないなんて。


 美空の口から告げられた衝撃の真実は、おそらく『地動説が絶対的に正しいと立証され、天動説を徹底的に否定された人間』と同じくらいの衝撃を僕に与えた。





































「百年くらい前にさ、神様って死んだんだよ? だから、それに伴って天使も絶滅危惧種で駆除対象なんだよねえ。何せ、『現代の神』の敵だからね」


 神様って死んでいるらしい。





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