寺では足元に御注意を!
どうも、東方転妹録最新話更新です!
えー、この話が予約投稿されている時には、作者は大規模ツーリングの疲れでぶっ倒れているでしょう。
そして今回フランも色々な意味でぶっ倒れます!
それでは楽しんでいってください!
ゆっくりしていってね♪
ーーーーー数十分後、命蓮寺。
ーーーーside フラン
依姫が手を一振りする毎に、薄く延びる光の波が霧を掻き分け風を切り裂き、空を飛ぶ私達の前に道を示す。既に竹林は終わり、今は足首にも高さが及ばない程度の低い草原地帯が下に広がっていた。
「……あっ、依姫! あれ、建物だよ!」
「んっ? ……あぁ、確かにあれは人工物だな。 それなりに大きいが……フラン、見覚えは?」
「んーと、あの形は……ごめん、もう少し霧を祓ってもらっていいかな?」
「あぁ、任せなさい。 それっ!」
依姫が、右手を一振り。 未だ建物のほとんどを包んでいた霧が消え、建物の全貌が私の視界に映る。古く、柱や壁の脆くなっている部分が見え隠れしつつも、しっかりと手入れが行き届いているのが分かる大きな寺。 それはよく私が遊びに行く寺で、ひっそりと、それでいてしっかりと人々と妖怪の人気を集めている寺だった。
「依姫! あれ、命蓮寺だよ!」
「あぁ、あの時話していた所ね。 ふむ、それじゃあ寄ってみましょうか。 さっきみたいに誰もいないかもしれないけれど」
「うん! 永遠亭と違って罠はないはず!」
「それが聞けて本当に良かった……!」
永遠亭からここまで来る道中、もう二度と落とし穴は見たくないと漏らしていた依姫が、私の言葉に本気で喜びを示していた。 そんな依姫の姿に苦笑しつつ、依姫の手を引いて命蓮寺の庭に降り立つ。 本来なら正門から入らないと白蓮や星からたしなめられるんだけど、今日は緊急事態なんだし、許してくれるだろう。
……というか、緊急時には誰か待機していそうな永遠亭には誰もいなかったわけだし、もしかしたら命蓮寺にも誰もいないかもしれないよね。 それなら怒られる心配はないかな?
「さて……緊急時に失礼する! 此処に誰かいらっしゃいますか!?」
「星ー? 白蓮さーん? 私だよ、フランだよー!」
庭を超え、屋根を超え、空にまで響いた私と依姫の声。 寺の中から返ってくる声は無く、不気味な程に静かな時が暫く訪れる。 些細な変化を見逃すまいと私と依姫は目を凝らし、耳を澄ませ、気配を探る。 少しして、最早此処には誰もいないのだろうと思い気を抜こうとした瞬間…………隣で息を潜めていた依姫が、刀の柄に手を掛けた。
「……っ! フラン!! 下だ!!」
「えっ、なっ!?」
依姫の声と共に揺れる地面。 すぐに反応し宙に飛び上がった依姫に遅れて、私も飛び立とうとした時には、すでに私は誰かの手に右の足首を捕まれていた。
「きゃっ!? し、しまった!?」
「フランが遅れた!? くっ……!!」
「……えっ? これ……う、嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!?」
反応が遅れ、体が強張り上手く力を込められない私を引き倒し、馬乗りになるようにのし掛かってきたモノ。 その様子を見ていた依姫が刀を引き抜きながら私の元へ踵を返して来ようとした時には、私の上に馬乗りになっているモノから驚きの声が上がっていた。
「……あれ? も、もしかして……ヤマメ?」
「フフフフフ、フラン!!!? 本当にフラン!? はっ!? げ、幻月とかいう奴に殺されたんじゃなかったの!!!? 無事だったの!!!?」
「う、うん、私は無事だっ……っ!! ヤマメ! 伏せて!!」
「へっ? あっ、ちょっ!? んんっ!!!!」
今度は私が、驚き焦るヤマメの双肩を掴んで自分に覆い被せるように引き倒す。 刹那、数瞬前にヤマメの首があった場所を鋭く煌めく刃が駆け抜け、風が悲鳴を上げて切り裂かれていった。 そして同時に、私の唇に柔らかな温もりが広がり、私の目には連続で押し寄せる驚きによって完全に呆けてしまったような固まった瞳が映り込んでいた。
……要は、依姫の剣筋からヤマメを守った結果、ヤマメとキスしてしまっていたのだ。
「くっ!? フラン、何故その狼藉者を庇って……ちょっ、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」
「……ぷはっ! あ、ああああああのフフフラン!? えっと今のは、暖かい事故というか柔らかな偶然というか……えと、その!! う、うわぁぁぁぁ!!!!!?」
「あー……ま、まぁ今のは仕方ないよね? うん、仕方ない仕方ない……あっ、えっと、そうだね……うん、その、気持ちよかったよ、ヤマメ……?」
「ひゃっ、ひゃい!!!? あっ、わ、私もきき気持ち良かったです!!!! はい!!」
振り返り、自分の背後で起きていた事態に叫び声を挙げて固まる依姫を背景に、上半身を起こしたとはいえ、未だに私の上に馬乗りになっているままのヤマメが百面相をしながら不思議な躍りを踊り始める。 もうどうしようもない程に狂ってしまった空気が私に冷静さを取り戻させ、とりあえず固まったままの依姫は放置して興奮状態に陥っているヤマメへのフォローをするに至れた。
……いやちょっと待って? 仕方ないって言った所までは良いけど、気持ち良かったよって…………フォローにならない感想を伝えただけじゃん!? 私もまだ全然冷静じゃなかった!?
「あ、あぅ……あっ! えっとねヤマメ! ど、どうして命蓮寺の庭から出てきたのかな!? その、地底に住んでなかったっけ?」
「は、はいっ! えっと、そのですね!? フランを殺したって吹聴し回っていた幻月に怒って、皆で襲いかかったら私は早々に負けて吹っ飛ばされたんです! そして気付いたら地面の中に埋まっていたので、声が聞こえる方に掘り進んでたらフランと接吻……じゃなくて! 出会いました!! はい!!」
「そ、そっかー! それで地面から現れたんだねー! あ、あははは……」
「あは、あはははは……」
形容しがたい程に変な雰囲気の中、どうにか空気をごまかそうと乾いた笑いをひたすら続ける私とヤマメ。 しかし私はどうにもさっきの唇の感触が忘れられず、それどころか体の火照ってはならない部分が火照り始めていることさえ感付いていた。 私の上に跨がるヤマメも同様なのかは分からないけど、乾いた笑いを響かせつつも時折私の唇や胸、下腹部等に視線が動いているようで、その事が余計に私のよく分からない雰囲気を悪化させ、同時に更に体を火照らせる。
……いつしか、私とヤマメの乾いた笑いは消え失せ、お互い緊張した面持ちをし、ただひたすらに見つめ合う。 そして、何かに操られるように、ヤマメが私にゆっくりと倒れ込むようにして顔を……いや、唇を近付けてきて…………互いの瞳が薄く閉ざされ、荒い吐息が触れ合い、熱を帯びた視線と共に混ざり合う。 そのまま…………。
「……なぁにフランに手を出そうとしてるんだ! この性犯罪者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!?」
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!?」
「あっ…………へっ、あっ! ひゃ、ひゃぅぅぅ……!?」
次の瞬間、私の意識を一気に理性が支配し、私の中に羞恥心を取り戻した。 我に帰った依姫が私の上にいたヤマメを全力で蹴り飛ばしてくれたおかげで、私は既に自由に動けるようになったはず。 動けるはずなのに、理性が取り戻した羞恥心によって私はその場で固まってしまう。
その結果、命蓮寺の庭には、地面に寝転がったまま全身を紅潮させ悶える吸血鬼と、横腹を抑えて声にならない叫びを挙げながらのたうち回る土蜘蛛、乱れた息を整えながら現状把握に努めようとする月の民という、何とも不可思議な光景が暫く広がるのであった…………。
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以上、ヤマフラフラグ建設回でした!
……偶然って仕方ないですよね!
馬乗りからの、キスからの、あはーんな雰囲気からの、鉄拳制裁!
……うん、仕方ない!(依姫が現場にいてくれて本当に助かった……!)
それでは又次回にてお会いしましょう!




