置いていかれたくはないのです
どうも、東方転妹録最新話更新です!
今回は地味に真面目な会話回になっております。
さらに、今回は特に独自設定部分が強く現れておりますので、苦手な方は御注意ください。
またさりげなく日露戦争について触れています。
繰り返しますが、苦手な方は御注意ください。
それでは楽しんでいってください!
ゆっくりしていってね♪
ーーーーー数分後、マヨヒガ玄関前。
ーーーーside 藍
九尾になるまで精神と体の鍛練を重ね、九尾になってからは三国を渡り歩き人の言うところの愛とは何であるのかを模索していた。
その間にも実に様々な出来事に遭遇し、実に摩訶不思議な有象無象に出会ったこともある。
……しかし、フランと出会ってからは摩訶不思議な有象無象というか光景に出会ってばかりではないかと、特に自分の記憶を辿ったわけでもないが強く思うことができるのは何故だろうか。
「藍さん! お願い、外に連れてって!」
「藍、外は今戦時中だからフランを外に出すことは出来ないわ。 私と話しているとフランが諦めてくれないから、どうにかフランを宥めて頂戴」
「は、はぁ……しかし、紫様? フランをそこから出してあげることは出来ないのでしょうか?」
「そうだよ紫さん! スキマの入り口で私を挟み込むなんて酷いよ!」
「駄目よ、もしも離してから藍に断られたらフランはどこか別の人の所へ逃げるでしょう? 念のためにスキマの中にもあの天狗達を入れて待機してもらっているから、無理矢理逃げようとしてもすぐに捕まえるわよ?」
夕食の仕込みをしつつ、最近私になついている茶色の毛並みをした子猫に人里で手に入れた牛の乳を飲ませていた時に玄関から大声で紫様に呼び出され、慌てて飛び出せば目の前には鼻血を垂れ流す紫様とスキマから上半身だけを出して、スキマの入り口に腰を挟み込まれていたフランの姿があった。
……正直、摩訶不思議な状況に置かれていながらも愛らしいフランの姿に癒され、それからはずっと子猫を撫でるようにフランの頬をゆっくりと撫でている。
鼻血を出す紫様の姿は…………断じて癒しとかではなく、本気で引いた。
そんな両極端な感想を抱いてしまう光景を横目に、二人の話を聞いてみれば、どうにもフランがまた家出癖を発症したらしい。
……そんなに紅魔館を飛び出したいなら、いっそマヨヒガに住んでしまえば良いのに…………。
「ふむ……フラン? 外の世界に出たい理由は何なんだ? 調べ事ならフランが頼めば、フランに会う時以外いつもグータラして結界の管理は私にぶん投げるわ博麗の巫女にちょっかいを出しに行って面倒事起こすわ、果てしなくどうしようもない紫様でも一生懸命に調べてくれるはずだぞ? 外は今、日ノ本の国と露の国が争っている最中だ。 私もフランが今外に出るのは心配でならないよ」
「ちょっと藍? 貴女いつの間にそんなに言うようになったのかしら?」
「藍さん……その、心配してくれてありがとう。 あのね? 私、今複数の属性の魔法を合成した合成魔法について学んでるんだけど、紅魔館にある魔導書だけじゃ分からないことが多かったから本物の魔法使いに会いたかったの。 でも幻想郷には知る限りでも白蓮さんしかいないし、その白蓮さんも法力と合わせて使うために身体強化の魔法を中心に学んでるみたいだから、合成魔法についてはあまり聞けそうにないし…………」
「そうか、学ぶ為に本当に魔法一筋で修練を積んでいる魔法使いに会いたかったんだな……」
話が進んでいく程に、少しずつ表情が暗くなっていくフランの上半身を優しく抱き締めつつ、学びを深めるために暗中模索しているフランに感動し、帽子の上からその頭を撫でる。
しかし、フランの話を聞いた私の心中は、フランを外に出さないことを決意していた。
外は今戦時中であるだけでなく、神や妖怪などの高次的存在が全て幻想の中に追いやられている現状がある。
人は科学に傾倒し、非科学的存在に近い我々を幻想だと思い込むことで我々への畏怖を忘れ、忘れることで畏怖に打ち勝ち、同時に科学により大きな力を手に入れた。
そのため私達のような存在は外で生きるのは厳しく、幻想郷のような隔離結界に覆われた安住の地ではなく外の世界に住む同胞達は最早ほとんどいない。
そんな中で魔法使いを探した所で見つかることもないだろうし、特に魔女は人間による魔女狩りが行われたせいでその数を減らしてしまっている。
故にフランが外に出ることへの危険はあっても、利益が生まれる確率はほとんどないのだ。
「……フラン、すまない。 やはりフランを外に出す訳にはいかないよ」
「そんな!? どうしてなの藍さん! 私は魔法使いを探したいだけなんだよ? それに前世の記憶もあるからこの時代の人間がどんな武器を持ってどんな戦い方をするかもある程度知ってるもん! 簡単にやられたりはしないよ!」
「フラン……最早、その探すべき魔法使いが外にはいないんだ。 力のある魔法使いは既にそのほとんどが各地にあるこの幻想郷のような隔離結界の内側へ入っていってしまっている。 そして今、幻想郷以外の隔離結界の中はほとんどが中で起きている妖怪達の縄張り争いによって荒れているんだ。 フランは人間には勝てるかもしれない、しかしまだ見ぬ強く恐ろしい神や妖怪達には負けてしまうかもしれない。 もちろんフランが強いことはよく知っているが…………レミリア殿の能力がフランには効果を持たない以上、万が一が起きる可能性がある」
「じゃあ……やっぱり、外には出られないの?」
「あぁ、そうなるな……」
そこまで話すと、私の顔を見上げていたフランの瞳が少しだけ潤み、数瞬後には私の胸元に顔を埋めて私の背中に回した腕に力を込めていた。
余程、魔法使いから合成魔法とやらを学びたかったのだろう…………しかし、どうしてそこまで合成魔法とやらを学ぼうとしているのだろうか?
もし単純に強くなりたいだけなら、合成魔法とやらでなく別の方向から強さを求めてもいいだろうに…………。
「なぁフラン? どうしてそこまで、その合成魔法とやらを学びたいんだ? 単純に強くなりたいのかもしれないが、そこまで拘っているんだ、何か別の理由があるんだろう?」
「……うん、ある」
「やはりあるのか。 ほら、一度顔を上げて私に話してみてはくれないか? 共に解決できるなら、私もフランの手助けをしたいんだ」
胸元に顔を埋めたまま、ぼそりと肯定するフランの頭を再び撫で、ゆっくりと顔を上げさせる。
少しばかりふてくされたようにも見える表情に思わず頬が緩みながら、そのまま私はフランに笑みを見せて静かに言葉を促した。
「……あのね、さっき藍さんと紫さんが言ってた外での戦争のせいかもしれないけど、最近ルーミアの闇を操る力がとっても強くなってるの。 それでね、さとりが地霊殿に行ってからは御姉様の組み手の相手役はルーミアがメインでしてたんだけど、そうしたらルーミアと一緒に御姉様もとっても強くなってたの…………」
「成る程、お互いに実力を高め合っていく二人の姿に焦りを感じたということか……」
「うん……それにぬえもね、時々ムラサ達に会いに白蓮さん達の所に行ってるんだけど、その時に手合わせとかもあったりするらしくて少しずつ強くなってるの。 美鈴も勇儀達によく連れていかれて、お酒の相手をしつつ力試しとか色々やらされてるみたいで、強くなってるし…………私だけが、紅魔館で昔のままなの……」
「それで、私達にとって手っ取り早く強くなれる術や式……いや、魔法だったか。 その合成魔法を習得しようと考えたんだな」
「うん…………」
自分達にとって最も大切なフランを蝶よ花よと大切にし、どんなモノからも守り抜こうと己を鍛える紅魔館の住人達の努力は、思わぬところでフランを不安にさせていたようだ。
フランとて強大な力を持つ吸血鬼の一人、その高貴であり可憐な振る舞いの裏で、当然己の強さに対する誇りと自信を持っている。
その誇りと自信を身内から脅かされているともなれば、焦るのも無理はないだろう。
ただし焦った結果、手っ取り早く強くなれる合成魔法への執念が生まれてしまったわけだが……。
「ふむ、強くなりたい気持ちは分かったよ。 しかしな、やはりフランを外に出す訳にはいかないし、いずれ幻想郷にも魔法使いは現れるだろうが、それも何時になるかは分からない。 今は、合成魔法とやらについて学ぶのはこれ以上無理だろう」
「……うん…………」
「だがしかし、強くなる方法は合成魔法だけではない。 フランは私や紫様が扱う式についてはあまり知らないだろう? 流石に魔法と比べれば直接相手を攻撃するようなものは少ないが、それでも充分武器となる式は沢山ある。戦いの補助や日々の生活に使えるものは魔法以上だろう。 フランが強くなることを望むなら、私と紫様で指導できるぞ?」
「えっ、ほ、本当に!? 良いの藍さん、紫さん!?」
「当然だ、幻と実体の境界や博麗大結界も管理できるように指導してあげよう。 良いですよね、紫様?」
「ここまで私が空気扱いされていたことに物申したいのだけれど……まぁいいわ、フランが望むなら幾らでも教えてあげるわよ? それこそ毎日付きっきりでね。 それと藍、後で話があるから覚悟なさい」
「やったぁぁ!!!! ありがとう紫さん、藍さん!」
スキマから見える上半身だけでも十二分に嬉しいという気持ちが伝わるほどに私の腕の中で喜ぶフラン。
そんなフランの笑顔を微笑みながら眺めつつ、内心で紫様に後で何をされるかを不安に感じていたのだった…………うん、フランがいるならと調子に乗りすぎてしまったな……。
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以上、フラン修行フラグ&さりげなくあの子登場回でした!
……ぶっちゃけ、フランに式を覚えてもらおうと思い付いた話でした。
そしてそろそろ幼いあの子をさりげなく登場させたかった話でした。
更に紫ファンの皆様、毎度のことながら扱いがぞんざいで申し訳ありません。
それではまた次回にてお会いしましょう!




