可愛くても彼女は吸血鬼
どうも、東方転妹録最新話更新です!
……えー、今回は色んなテンションとフランらしいフランを書きたいと思った結果、素晴らしく妖怪らしい、吸血鬼らしいフランが書けました(笑)
更新時間がどんどん遅く……orz
それでは楽しんでいってください!
ゆっくりしていってね♪
ーーーーー数分後、地霊殿の食堂付近。
ーーーーside フラン
人生において、例えば冷蔵庫に名前が貼られたプリンがあったりだとか、自分用にお菓子が用意されていたりだとか、そういった自分の為に誰かが何かを用意してくれている時、普通は誰でも嬉しくなるよね。
勿論私だってそうだし、今私が驚いてしまっている原因のこいしだって嬉しくなるはずだよ。
……でも私は目の前にある一室、その扉に提げられたプレートに書かれている内容を見て喜びよりも先に驚きが来ちゃったんだ。
「『フランに捧げる生きの良い生け贄部屋、関係者以外近寄るべからず こいし』ね…………なんというか、愛されてると言えばいいんだろうけど、ねぇ?」
「表現が生け贄って、こいしったら……」
いくらなんでも生け贄って表現は、例えプレゼントだとしてもスケールが大きすぎると思うよ!?
こいしにとって私は邪神か何かなのかなぁ……?
それにしても中から逃げ出さないように堅牢に作られてるのか、吸血鬼の耳をもってしても扉の中から誰かの声が聞こえてくることはないけど、きっと中にはこいしが厳選して拐ってきた生きた人間がいるんだよね!
……ちょっとだけ、つまみ食いしちゃっても良いかな?
「ねぇパルスィ、ちょっと入って来て良いかな?」
「あら、食べに行くの? ……私も同伴して良いかしら?」
「うん! こいしに怒られちゃいけないから、1人だけ一緒に食べよっ!」
二人で微笑みながら頷きあってから、私は目の前の扉の取っ手に手を掛ける。
そして、まるで中にいるはずの人間に恐怖を与えるかのごとくゆっくりと扉を押し開けると、中はある意味想像できない光景が広がっていた。
「----さぁさぁ飲めや歌えや! これ程までの極楽はそうなかろうて!」
「いやー、拐われた時は死ぬかと思ったが、いざ来てみると本当に楽園じゃないか! あっはっはっ!」
「……えっ、何、これ?」
「宴を開いてるのかな? でも、どうして……?」
部屋の中には酒を片手に取り、もう片方の手には食べ物を持ったり男なら女性を抱いたりして部屋のあちこちで騒ぎ回っている人間達がいた。
あまりの様子にパルスィは戸惑い、私は頭の中で疑問符を浮かべて思考を重ねる。
……どれも健康な人間ばかりで、こいしに無意識を操られて今の状態になっているようには見えない。
それに心底楽しそうな様子を見る限り、この部屋に拘束されていても不自由があったわけではなさそうだから、きっと本気で楽しんでいるのだろう。
だったら次に考えるべきは、どうしてこいしは食べてしまうはずの拐ってきた人間にここまで厚遇しているのか。
生きの良い生け贄という表現から考えるなら、それこそ生きの良い人間を用意しておくためなんだろうけど……それ以外思い付くこともないし、きっとそれだけなのだろう。
「……ねぇパルスィ、自分がここまで厚遇されてても絶対に逃げることは出来ずにいつか食べられてしまうって分かってるなら、ここまで騒げる?」
「無理ね。 生きとし生ける全てのモノに嫉妬しながら、大切な誰かを想って最後の最後まで涙を流し続ける自信ならあるけど」
「そうだよね……それにしても、パルスィは本当に優しいんだね! 最後の最後まで大切な誰かを想って泣けるほどに、誰かを大切に想うことができるもん!」
「なっ!? ちょっ、そ、それは、その……!」
パルスィと繋いだ手の温もりに幸せを感じながら話を打ち切り、私は動揺が収まらないパルスィと共に1人の人間の元へと近寄る。
人間の側まで来たときにはパルスィも一端落ち着きを取り戻し、それを確認した私は背伸びをして騒いでこちらに気付かない男の肩を叩いた。
「----あぁ、楽しいなぁ! って、ん? 翼のある妖怪……?」
「ちょっと良いかしら? 単刀直入に聞くけど、どうしてそこまで騒いでいるのか教えて欲しいの。 妖怪に拐われて来たんじゃないの?」
「こっちは何もない金髪の女……? あぁ成る程! あんた今拐われてきたのか!」
肩を叩かれた男がこちらに振り返り、呟きながら私を見た後に、声を掛けたパルスィの方へと視線を移す。
すると酔っているせいなのか、特徴的な耳と目の色以外人間と大差ないパルスィを見て私に拐われた人間と勘違いしてしまった男性は、まるで引っ越してきた人に地域の慣習について話すように騒いでいる理由を話し始めた。
「いやぁ、俺らは黒い帽子の覚り妖怪に拐われてここに来たんだが、なんでもフランという妖怪が所望しない限り喰われないらしいんだよ! しかもそのフランとかいう妖怪はここには住んでいないらしくて、本当に時々遊びに来た時位にしか喰われることはないって話さ!」
「へぇー…………」
「それで? それでもいつかフランが来てしまったら食べられるのに、どうして騒げるのよ?」
「それはだな、黒い帽子の覚り妖怪が呟いていたんだが、そのフランという妖怪はほとんど自分の家で食事を済ませてくるそうだから、ここに来ても毎回食事をするわけではないらしい。 それを考えると、全員が全員そうだとは限らないが毎日これだけ飲んだり食べたり歌ったりしながら天寿を全う出来るかもしれないんだ! そりゃ騒ぎもするさ!」
「そう、そういうこと。 確かに本当に妬ましい位に面白い話ね」
「………………」
人生五十年、かの有名な信長が好んだ敦盛の一節で使われている言葉。
人間の寿命が五十年だとするなら、今目の前にいる男は後何年生きるのだろうか。
見た目から推し測るなら年は20を過ぎたところだろう、後30年は生きるはずだ。
そして今目の前にいる男は、ここにいる人間達はその30年を何もなく宴を続けながら生きるという。
……別にここにいる人間達がそのように生きようと知ったことではない。
しかし、それも私が関わっていなければの話だ。
私に喰われるかもしれないというのに、可能性が低いからと姿の分からぬ私を恐れることなく存在するなどと…………そのようなこと、決して許されるはずがない。
誇り高き吸血鬼、そして夜の王の親族であるというのに嘗められたままでいるなど、そんな体たらくを晒すことなど許されるわけがない。
「……パルスィ、1人だけじゃなくて、全員で良いよね?」
「良いわよ、『フラン』の好きにしなさい。 これは『フラン』の誇りの問題なんでしょ? さとりとこいしには私から言っておくわ」
「うん、ありがとねパルスィ」
ーー『カゴメカゴメ』
私の翼から展開され部屋全体に広がる弾幕、淡い緑色をしたそれらは突然のことに驚き固まる人間達を囲み、逃げ場を塞ぐ。
一歩でも動けば当たって弾けるように配置されたカゴメカゴメは人間達の一挙一動を許さず、部屋の中はまるで弾幕による鎖だらけのような様相を呈していた。
そしていち早く驚愕から抜け出した目の前の男が、震えながらその口を動かす。
「……あ、あぁ……も、もしかして……フ、フラン、さん……いや、フラン様なので、す、か…………?」
「そうだけど、貴方の口でフランだなんて呼ばれたくないよ? 私の名前はフランドール・スカーレット。 誇り高き吸血鬼の末裔、そして全ての生きるモノ達に恐怖を与える夜の王たるレミリア・スカーレットの妹」
「お、おぉぉ…………で、では、此処へ、は……しょ、食事に、参られ、た、ので……?」
「最初はそのつもりだったけどね…………でも、今は違うよ?」
「……そそ、それでは、今は……どのよ、うに……?」
「うん、それはね……」
右手を掲げながら、口許にゆっくりと笑みを浮かべる。
妖力と魔力を宿した右手の爪がほんのりと紅く光り、右手の動きに合わせて宙に紅い光の軌跡が出来ては消えていった。
男を始めとする人間達が私の右手に注目する中、横でパルスィが少量の妖力弾を生み出し、部屋を照らす火元へとそれらを飛ばす。
パルスィの妖力弾で火元が消えた瞬間、部屋が暗闇に包まれ、人間達が小さく悲鳴をあげた。
……そして最後に私とパルスィの瞳がそれぞれ紅と翠に光った瞬間、その瞬間が人間達の悪夢の始まりとなったのだった…………。
「……愚かな人間達に、私の恐怖を植え付けるのさ!!!!」
しかし植え付けた恐怖は、人間達の悲鳴と共に無くなってしまった。
ーーーーー
以上、吸血鬼フラン回でした!
……うん、フランとパルスィのイメージしか残らないけど、何気にこいしも凄いことしてましたね(笑)
フランのために地霊殿の財政が……さとりの理性が悲鳴をあげることでしょう!
それではまた次回にてお会いしましょう!




