ぬえの葛藤、三つ目の追跡班
どうも、東方転妹録最新話です!
まず、更新が遅れて申し訳ありません。
諸事情で帰りついたのが深夜1時となってしまいました。
さて、今回はぬえのシリアスとシュールなギャグでお送りしますよ!
それでは楽しんでいってください!
ゆっくりしていってね♪
ーーーーー同刻、人里のフラン追跡仮拠点。
ーーーーside ぬえ
仮拠点として設置した雨避けの下、その隅の方で私は膝を抱えて踞っていた。
私を始め、さとりやこいしがフランを引き込もうとしている敵の本拠地ーー諏訪神社から救助され、周りが騒がしいのに、私の耳には騒音のほとんど入ってこない。
いや、正確にはそんな音に気を向けられる余裕が、今の私には存在していなかった。
「…………負けた……何も、できなかった…………」
昼から始まった戦いは、過ぎた時間だけ見れば死闘を演じたとも善戦をしたとも言えるのかもしれない。
しかし、それはこちらも敵側もお互いにある程度の被害を負った場合の話だ。
……今回の私達のように、決定打どころかかすり傷も付けられずにひたすらに玩ばれ続け、最後の一瞬で逆に決定打を三人まとめて喰らっているようでは、死闘や善戦など話にならないだろう。
況してやフランが来るまで耐えられたわけでもなく、相手がフランに使っているであろう呪術が解けるまで気を散らさせた訳でもない。
ただ単に、私達自身もそうだし、私達の救出に無駄に時間と人員を費やさせてしまっただけなのだ。
「……私が……私が、前衛だったのに…………一番、アイツの首に近かったのに…………」
届かない矛先、打ち消される弾幕、焦る私を嘲笑うアイツの顔。
所詮貴様の槍と意志はそんなものかと、平安京を恐怖に満たした大妖怪とはこんなものかと、言葉にされずとも、あの見下した目が、軽やかに私の攻撃を捌く両手が、攻撃を避けながら楽しげに拍を取る足元が、アイツの全てが物語っていた。
……慢心していた、傲慢になっていた、フランの傍にいて、私達はこの世界で一番強いのだと無意識に思い込んでいた。
結局、私達は、私は世界で一番強いわけではないんだ。
ーーそう考えた時だった。
「っ!? 皆! フランが諏訪大社に着きましたわ!」
「何ですって!? 追跡班は一緒なの!?」
「いえ……一人だけですわね。 それに……」
「それに、どうしたんですか?」
「……それに、諏訪大社の表向きの主神と今回の騒動の犯人である本当の主神、二人を相手取って戦っていますわ。 しかも、たった一人で圧倒している…………」
『『『『『え、えぇぇぇぇ!!!!!?』』』』』
小さなスキマを覗いていた八雲紫が声をあげると、風見幽香と犬走椛が質問を重ね、驚愕の事実が伝えられる。
それに、一人でフランが戦っているということは、フランは自身に掛かっていた呪術すら自力で解いているのだろう。
ーー違う。
やっぱり私達は世界で一番強いのかもしれない。
……でも、それは私達がそれぞれ強いんじゃなくて、フランがいるから、世界で一番強いのかもしれないのだ。
紅魔館最強と言われるルーミアにだって能力有りならフランも勝てるし、フランの姉さんと違ってフランには吸血鬼としての弱点は意味をなさない。
それに今だって古代から存在する神の呪術を自力で打ち破っているし、何よりフランの周りには色んな妖怪や人が集まってくる。
……でも、私はそんな力は持っていない。
そんな弱い私がフランの傍にいることを望むなんて……。
「急いでフランを助けにいかなくちゃ! ほら男女、早く立ちなさいよ! さっさと行くわよ!!」
「誰が男女だこの糞尼!!!! 言われなくても行くに決まってんだろ、って服引っ張るなぁぁぁ!!!!!!」
「……休んでいる暇はありませんね。 八雲紫、スキマを開いてください」
「お姉ちゃんとぬえの支援は私がするよ! ほらっ、ぬえも準備して!」
蓬莱の姫と炎術使いの痴話喧嘩が響く雨避けの隅、そこで槍を抱え込むように踞る私に伸ばされるこいしの小さな手。
……私はこの手を取って良いのだろうか?
さっきだってさとりとこいしの支援を受けながらも、アイツの首に刃を届けることができなかったというのに。
槍も拳も弾幕も幻術も、何もかもがアイツに通用しなかった。
幾ら皆で行くとはいえ、そんな私が再びアイツの前に行った所で、きっとまた負けるだけだろう。
「あれ? ぬえ、大丈夫?」
『そこの妖怪さん、大丈夫?』
「っ……!?」
幻聴? 幻覚?
今、私が見ているものは……。
「あっ……そっか、さっきおもいっきり負けちゃったもんね」
『もしかして……やっぱり、人間に封印されちゃったの?』
「わ、私は……」
……間違いない。
今、見ているものはあの時の記憶だ。
色んな思いに心を絡め取られ、優しく純粋な心に仮面を付けて彼女が現れた時の……。
「でも今度こそは大丈夫だよ! 皆もいるし、フランだって自分で呪術を解いて戦ってるし!」
『もう大丈夫だよ! 私がここにいるってことは、貴女の封印が解けた、って言うより私が解いたから!』
「………………」
話している内容も違えば、話している相手も違う。
でも、その手が私に伸ばされているのは、間違いない。
私を、求めてくれているのは間違いない。
「さぁ、早くフランを助けに行こうよ! それでついでにフランを捕まえちゃって、帰ってからまた宴会しよ?」
『ほら、早くこんな薄暗い所から出ちゃおうよ! さっき過ごしやすい所見つけたから、そこまで行ったらお話ししよ?』
「……うん、そうだね。 行こうか」
伸ばされた手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
何も気にすることはないのだ、負けたって構わないのだから。
私の本当の姿を知って、ただ求めてくれる誰かがいる。
結果がどうなろうと、私を孤独から救ってくれるその気持ちに答えるだけ。
……彼女と最初に出会った時、そう感じたのを思い出した。
「よしっ! さぁ、フラン親衛隊準筆頭格のこいしとぬえの出陣だよ!!!!」
『ありがとう! あっ、自己紹介し忘れてたけど、私はU.N.オーエン、オーエンって呼んでね!』
「ふふっ……!」
段々とフランの記憶とこいしの行動がずれてきたことがとても面白く感じて、自然と笑いが込み上げてくる。
そして笑みがおもわず溢れてしまった瞬間、ふっ、と私の心から重たいものが消えていった。
強さなんて関係ない、ただ私を求めてくれる人達のためにやれることをやるだけだ。
フランが無事で、皆が無事なら負けたって気にしない。
『あっ……後、一応以前の名前を教えておくね? 私の前の名前はフラン、フランドール・スカーレットだよ。 まぁ覚えても覚えなくてもどっちでもいいよ』
「……まっ、覚えておくとするよ。 大切なことだしね」
「えっ、何を覚えておくって?」
「んっ、いつの間にか増えていた新しい役職名のことさ」
記憶を巡っていた私の呟きに、こいしが首を傾げながら疑問符を浮かべる。
そんなこいしの疑問を軽く交わしながら、しっかりと槍を握りしめ、私はスキマへと歩みを進めていった……。
ーーーーー同刻、諏訪大社周辺の里の外れ。
ーーーーside 雛
「うーん、すっごく大きな厄をあっちに感じますね」
「本当かい? まぁ怪しいなら見に行くとしますか…………フランさんの厄だと、本当に良いんだけど」
太陽が高く昇る昼からずっと、月が優しく照らす夜になるまでフラン追跡班の一つとして飛び続けたは良いものの…………私の厄を探知することのできる能力でフランさんの厄を探していたはずが、全然関係ない厄ばかりを見つけてしまい、結局フランさんを見つけることが出来なかった。
「ほんっっっっっとうに今度こそフランの厄なんだよね? また違ったりしたらものっすごい悪戯するよ?」
「ちょっ、てゐさん落ち着いて!? 雛さんも誰の厄かなんて分からないんだから!」
「すみません……厄を感じるとどうも厄を回収したくなっちゃって……」
「んー、でも今度は当たりかもよ?」
「「「えっ?」」」
同じ班のてゐさんと大妖精と話しながら厄の感じる方へ飛んでいると、にとりがキュウリのような何かを目に当てながらフランさんの厄かもしれないと言い出す。
それを聞いて思わず私達3人は固まってしまった。
「どうして固まるのさ? このキュウリ型望遠鏡でちゃんと確かめたから大丈夫だよ!」
「キュ、キュウリ型望遠鏡……? ってそんなことより、フランの姿が見えたの!?」
「うん、何か戦ってるのが見えたよ」
「「「た、戦ってるの!!!!!?」」」
にとりの爆弾発言に度肝を抜かされながら、今まではゆっくりとしていた空を飛ぶ速度を上げ、大きな厄を感じる方へ飛ぶ。
疲れのせいかにとりがやたらと平常心を保ったままなことに、どうして冷静になれるのかと静かな怒りが沸いてきたけれど、それすらも活力に変えて速度を上げ続けた。
「ひ、雛さん! 戦っているのにこのまま突っ込んでも大丈夫でしょうか!?」
「厄いですが、大丈夫だと思います!」
「幸運を呼ぶ私の勘も大丈夫だと言ってるから大丈夫だよ!」
「「多分!!!!」」
「ちょっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「ふぅっ、疲れたときのキュウリは最高だね」
「「「食ってる場合(ですか)!!!!!?」」」
どうやら大分疲れてしまっていたらしい。
本当にどうしようもないことばかりが口から出てしまうし、にとりに至ってはキュウリの時間に入ってしまったようだ。
しかしその苦労も後少しで報われる。
とにかくフランさんを保護すれば終わるのだから…………フランさんを保護したら、思う存分堪能して癒されることとしよう。
「さぁ、もうすぐ着きま「フランさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」す、って」
ーードヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!
「「「「あ、文さん(鴉天狗)!!!!!?」」」」
突風のように現れ、突風のようにフランさんがいるという方向へ消えていく文さん。
その背中からはとことん大きな厄が感じられたが、それを回収する暇もなく文さんは飛び去っていってしまったのだった…………。
ーーーーー
以上、ぬえの葛藤&自由奔放な追跡第三班回でした!
えー、何気にフランとぬえの出会いの回想が入りましたね(笑)
そして河童の自由なこと!
……でも、結局文さんが全部持っていきやがったorz
それではまた次回にてお会いしましょう!