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東方転妹録〜悪魔なんて言わせない!!〜  作者: 愛式未来
第2章 ~雨降って、地固まるか?~
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紅魔の策、遅すぎた一手


ーーーーー紅魔館玉座の間。

ーーーーside レミリア



……馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!!!!?

フランが八雲紫どころかさとりを襲撃した!!!?

しかも誰かに手を貸した等ではなく、自らの手で直接だなんて……!!!!

……落ち着きなさいレミリア・スカーレット。

フランがさとりを襲撃したかもしれないという可能性も昨日から考えていたじゃない。

だから取り乱す必要なんて無い、無いんだから……!!!!



「……レミリア、やはり…………」


「大丈夫、私は大丈夫よさとり……!

可能性は予測していたもの、だからもう大丈夫!

それよりも今はフランを止めることを考えなければ、また誰かがフランから襲撃されるかもしれないわ」



今、私事で悩んでる暇などない。

まずはフランを止めることを考えなければ…………。


……まず考えるべきはフランが何故一ヶ月も経ってからさとりと八雲紫を襲撃したのか?

私見ではあるけれど、強いショックを受けた者が立ち直るにはかなりの期間を要する、あるいはすぐに悲しみを憤りの感情に転換してしまう場合の二通りのパターンが主なはず。

そこから考えれば一ヶ月という期間は、こいしの言葉にショックを受けて悲しみに沈んでいたにしては短すぎるような、それか逆に長すぎるような気がするのだ。



「……中途半端な時期に立ち直るなら何かキッカケがあったはずです。

レミリア、昨夜残されたフランの新しい名前だという『U.N.オーエン』を書くのに使われた血。

その血の持ち主が何かしらキッカケを与えたのでは……?」


「確かにそうね……。

血文字を書くのに使われたのだから、フランに何かしらちょっかいを出してから激怒されてそのまま抹殺されたか…………あるいは情緒不安定に陥っていたフランを丸め込んだか……」


「……私と八雲紫を襲撃するぐらいですから可能性は少ないですが、誰かに支えられて立ち直った可能性も無いとは言えませんね」



さとりと話している通り可能性は幾らでも出てくるけれど、一先ず違いないのはフランはその『誰か』がキッカケで悲しみから立ち直ったということだろう。

まぁ、それは最悪の方向に立ち直ってしまったけれど……。



「まぁ可能性の話は一先ず置いておくとして、今現在、その『誰か』がフランに協力しているのかどうかが気になるわね。

下手に力を持つ妖怪が協力していると厄介だわ」


「……レミリアが初めに言った通り、抹殺されているならまだ楽なんですけどね…………」



確かに抹殺されているなら本当に楽だ。

凶行に走るフランを落ち着かせて説得すれば良いのだから。

しかし、もし『誰か』が協力していたならば更に話はややこしくなってくる。

凶行に走ってしまっているとはいえ、落ち込むフランを見かねて善意で協力している相手ならまだ良い。

その相手もまた説得すればどうにかなるだろうし、フランも再び傷つかなくて良いからだ。

……だが、もし悪意があってフランに近付いた相手なら最悪だ。

そんな相手に説得は通じないだろうし下手をすればフランをけしかけて来るだろう。

だったらその相手を殺せばいいという話になりそうだけれど…………そうしてしまえば、少なくとも悲しみから救ってくれたその相手を信頼しているだろうフランが再び傷ついてしまう。

そうなっては元も子もない。


……この状況で私達が打つべき一手は、どのようなものだろうか……?



「……悩んでいても仕方ありません。

どの場合か絞ることが出来ない今、私達は最悪の可能性を想定して行動すべきでしょう」


「それも迅速且つ的確にね。

……よし、さとり、今から出掛けるわよ!

どんな場合であっても暴れるフランを止めなくちゃいけないんだから戦力が欲しいわ!!

それも数ではなく、単体で強い戦力を……!!!!」



最悪な可能性だけじゃなくてもフランとの戦闘は避けられないはずだ。

幾らそれが嫌でも暴れ狂うであろうフランを止めるには戦うしかない。

そんな中、生半可な力しかもたない弱小妖怪が幾ら集まってもフランの範囲攻撃の前に数撃でやられてしまうだろう。

弾除けにもなれず、大してフランを消耗させることも出来ずに邪魔になるだけならいない方がマシだ。



「……そうですね、まずは戦力を集めなくては。

しかしそうなると八雲紫が動けませんから、今私達に宛があるのは妖怪の山と永遠亭しかありません。

それだけで戦力が足りるでしょうか…………?」


「あら、妖怪の山の連中はフランと戦い慣れているんでしょう?

それに永遠亭の姫は不老不死なんだからちょうど良いじゃない!

あそこには薬剤師もいるんだし、集めておけば万が一負傷者が出てもすぐに治療が出来るわ!!

それと八雲藍も呼びたいけれど、八雲紫の傍から離れるとは思えないわね……」


「……八雲紫が動ければ八雲藍と白玉楼にも応援を頼めたのですが…………」



まぁ、例え戦力になろうとも今は動かせない者達を気にしていても仕方がない。

動ける者で早急に対処をしなければ……。

……そういえば拠点は何処にすべきだろうか?

紅魔館ではフランも自在に動くだろうから出来れば避けたいけれど、しかし紅魔館以外では私が戦えなくなってしまう。

妖怪の山では日光が射すし、永遠亭は純木造だから戦闘には耐えられない…………。



「……レミリア、やはり拠点は紅魔館にすべきです。

フランにとって戦いやすい場所でしょうけど、それはこちらも同じですから。

建物の強度や大きさからしても、ここが一番戦いやすいでしょう」


「…………そう、ね。

デメリットは出来るだけ排除しておきたいけれど全部を排除は出来ない。

そうなると次はメリットだから……やはりここが一番ね」



完璧な選択とはならなかったけれど、とりあえず今の状況で一番の選択であるはずだ。

そうと決まれば早速『ーーーードガァァァァァァ!!!!!!!!!!』……。



「「御義姉様、さとり(お姉ちゃん)!!!!

フランが紫さんを襲撃したって本当!!!?

……って二人はなんでイチャついてるの!!!!!?」」


「こいし、ルーミア!?」



やることが決まり遂に私とさとりが動き出そうとした時、突然玉座の間の扉をぶち抜きながらツッコミを忘れずに入ってきたルーミアとこいし。

それに驚いたさとりが思わず二人の名を叫んでいる。

……以前のように二人の息が揃ってるわね、これは良い傾向だわ!!

フランに二人の息のあった姿を見せるのは説得する際に良い材料になる!

それにしても二人とも良いタイミングで来たわね!!



「ルーミア、こいし、フランが八雲紫を襲撃したのは本当。

それに昨夜の襲撃もフランよ。

だから今から一手をこうじるから手伝って頂戴。

それと私がさとりを膝に乗せているのはさとりの鼓動と温もりを感じて落ち着くためよ、他意はないわ」


「ほ、本当にフランが紫さんを襲撃したんだ……!!

それにお姉ちゃんまで……!!!?」


「それで御義姉様、私とこいしはどうすればいいのだー?」



私が一つ一つ答えるとこいしは驚き、ルーミアは即座に戦士の目になった。

やはりこういう所で有事の際の実力が伺えるというものだろう。



「私達がすることは簡単よ、ただ強い戦力を素早く集めるだけ。

今から妖怪の山と永遠亭に行って紅魔館に戦力を結集するわ。

全員で一番実力を発揮しやすいのはここのはずだから」


「……私達四人の中で一番永遠亭に面識が深いのはレミリアですし交渉が得意なのは私ですから、私とレミリアが永遠亭に、こいしとルーミアは妖怪の山に向かいましょう。

本来なら私とこいしは速く飛べませんから紅魔館の防衛に回るべきなのですが、襲撃のことを考えると二人組で行動しなければ危険です。

ですからこの組み合わせにしましたが、如何でしょう?」


「うん、私はそれに賛成なのかー!!」



私が今からすることを話し、さとりがそれに細かい補足をした。

するとルーミアは素早く賛同してくれたけれど、何故かこいしは思案顔になっている……。

……何か不味いことでもあっただろうか?



「……御義姉様、御義姉様はきっと戦力を集めてる間は美鈴に防衛をさせるつもりだと思うんだけど、私は美鈴がお姉ちゃんと一緒に行って御義姉様が紅魔館に残って防衛をするべきだと思う!」


「あら、こいし、それはどうしてかしら?」


「だってまだ外は明るいもん!

幾ら御義姉様が強いと言っても日が出てる間に外で襲撃されちゃったらひとたまりも無いでしょ?

それだったら御義姉様程ではないとはいえ、並みの妖怪より遥かに強くて日の中でも戦える美鈴の方が良いよ!

それに美鈴って初対面の人と話すのは得意だしね!!」



……成る程、確かにその通りね。

今の時間は昼を過ぎたくらいだから、戦力を集めてる間に日が沈むようなことはない。

そんな中では満足に戦えない私が行くよりはある程度治療もできる美鈴が行った方が遥かに良いわ。


……自分が行くと一人で焦ってこんなことを見落とすだなんて…………一度頭を冷やす意味でも紅魔館に残った方がいいわね。



「……分かったわこいし。

私は紅魔館の防衛に努めるわね!

あっ、それとさとりは永遠亭に行った後は一度妖怪の山に向かって頂戴。

フランがさとりと八雲紫を襲ったということはフランが特に親しかった面々を無作為に襲ってるのだと思うから、もしかしたら先に妖怪の山で戦闘が起こるかもしれないもの」


「……確かにフランと特に親しいと言えば妖怪の山には鬼の二人や天狗の二人がいますからね。

ここの次に狙われやすいのは、妖怪の山…………」


「そうと決まれば早速行くのかー!

私は一度警備メイド達に指示を出してから玄関に行っておくのだー!!」



そう言うと玉座の間を飛び出していくルーミア。

恐らく警備レベルをあげるように指示を出すつもりなのだろう。

……それを見届けると、次はこいしが動き始めた。



「じゃあ私は美鈴を探してから先に玄関に行くよ!

御義姉様、防衛している間は気を付けてね!!

お姉ちゃん、結界用の御札の準備をよろしく!!!!」



そこまで告げるとこいしも玉座の間を飛び出していった……。

……二人ともはしゃぐように飛び出していったけれど、今紅魔館では二人以上で行動するように呼び掛けているのは忘れてるのかしら?

まぁあの様子だと確実に忘れているのでしょうけど…………。



「……ふふっ、あの二人は本当に困ったものですね?」


「さとり、それを笑いながら言っても困ったようには見えないわよ?

……私達だって大事なことを見落とすぐらい必死だもの。

あれくらいしょうがないわ」



私がそういうと余計に笑い出すさとり。

そして一頻り笑った後、さとりはしっかりとした眼差しをして私に向かって微笑んだ……。



「……そうですね、しょうがありませんよね!

よし、それでは私も行ってきます!!

レミリア、どうか、御無事で…………!!!!」


「えぇ、さとりも絶対に無事で帰ってくるのよ!

私の大切な者がいなくなるなんて絶対に許さないわ!!!!」



今ここで二人で交わした言葉、それを心に刻み込むかのように数瞬目を閉じたさとりは、目を開くとすぐに私の膝の上から降りてそのまま玉座の間を出ていった。






……そう、誰一人としていなくなるのは許さないわ。

ねぇ、貴女も本当はそうでしょう?










…………フラン。










ーーーーー同刻、妖怪の山の外れにある林。

ーーーーside 椛



「うぁ……ぐっ、うぅ…………!!!?」



意識が戻るのと同時に胸に走る激しい痛み。

ぼやける視界に目を凝らしながら必死に胸元を見ると、再生している痕は見られるが未だに塞がってない傷を確認できた。


……妖力は、まだ十分ある……。

だけど、傷が深いみたいだから……再生には時間がかかるか………。


ぼやけていた視界が段々と鮮明になってくる。

するとようやく傷の状態が詳しく分かってきた。

どうやら槍が貫通した場所にできた穴はもう塞がり始めたようだ。

今残っている傷は抉りとられたような状態だから、さっきはもう少しかかると思ったが、この様子だとすぐに再生するだろう。



「……ぐぅっ……!?

あ、文さんと……勇儀さんは…………?」



地面に落ちて意識を失う直前に勇儀さんが真っ二つに切り裂かれ、その実行犯であるフランさんに文さんが突貫していた所までは覚えている。

文さんがどうなったかは分からないが、勇儀さんは近くに落ちているはず。

早く、勇儀さんの容態を確認しなければ……!!



「ゆ、勇儀……さ……へん、じ、を…………!!」


「…………ぬ、ぅぅ……も…じ……?」



まだ起き上がることのできない私は、なんとかして勇儀さんの無事を確認しようと必死に声を出す。

するとどこからか聞こえてきた勇儀さんの声に、私は驚きながらも心の底から安堵した。

……よかったぁ!!!!

まだ勇儀さんは生きてる!!

早く、勇儀さんの容態を確認しないと…………!!!!



「ゆう、ぎ、さ……!!

体……は、御無事…………で……!?」


「ぐ、がぁ…………!!

う……腕は大丈夫、みたいだ、ねぇ……!」



どうやら腕は大丈夫らしいが、切り離された下半身は無事ではないようだ。

ただ、姿こそ確認はできないが頭上から聞こえてくる声は私よりしっかりしているから命に別状は無いだろう。

或いはこれが白狼天狗と鬼の違いなのかもしれないが。



「椛……傷に……妖力、を……集め、な?

自然に任せる、よりは、早く……治るぞ……」


「わ、かりまし……た……!」



勇儀さんに言われた通り、まだ十分にある妖力を妖力弾を作るような感覚で傷の辺りに集める。

するとどうだろうか、一気に痛みが引き、目視でも傷が凄まじい勢いで治っていくではないか!

……しかし、正直何故私は今まで妖怪として生きてきたくせに妖力を患部に集めれば早く再生できることに気付いてなかったのだろうか?

…………勇儀さんには見抜かれていたようだが、これは私の生涯の秘密としよう……。



「くっ、傷は塞がりましたけど……まだ少し痛みはありますね…………」


「おいお、い…………?

もう……再生したの、かい?

…………ま、あ……あの程度、なら、おかしくは、ないか……」



傷が塞がると同時に仰向けに横たわった状態から上体を起こす。

その瞬間胸に走る鈍痛に、私が眉をしかめながらぼやくと後ろから勇儀さんが驚きつつ納得している声が聞こえてきた。

……そ、そうだ!! ぼやいてないで早く勇儀さんの容態を確認しないと!!!!



「ゆ、勇儀さん、御怪我の方は…………っ!!!?」


「あぁ……形は大分、治って……きたよ…………。

まぁ、まだ体、の……中が、すげぇ痛いから…………内臓とかは、治ってないんだろう……ねぇ…………」



振り向いたすぐ目の先で仰向けに倒れ臥していた勇儀さん。

その体を見渡してみれば、槍で切り落とされたはずの右腕とレーヴァテインで上半身と泣き別れすることになった下半身の膝元までは再生が進んでいた。

……それにしても服までは再生できないから、勇儀さんがすごい状態になってますね。

切り離されて近くに残っている下半身から服を剥いで着させてあげないと……。



「勇儀さん、妖力を分けてあげますから少し待っていてください!

勇儀さんの袴を持ってきますから……」


「う、おぉ……すまん、助かるよ………」



先程言っていたようにまだ体の中が痛むのだろう、私に笑顔を向けながら御礼を言ってくる勇儀さんの顔は、やはり痛みで歪んでしまっていて痛々しい笑顔になっていた。

その姿に敬意を覚えつつ私はなんとなく空を見上げる……。

……すると見上げた先、遥か上空には、まだフランさんがいた!



「フ、フランさん……!!」


「………………」



見上げた先でこちらを見つめているフランさん。

能力を使ってフランさんの顔を見てみると無表情ではあるが…………どこか、その瞳は悲哀の色に染まっているように見えた。



「フ、ラン…………全く、あんな目をされたら……後で説教できないじゃないか…………」


「えっ、み、見えているんですか勇儀さん!!!?」


「目が、覚めた時から気付いてるに、決まってるだろう?

それにフランのことなら、何だって分かるさ……。

なんたって……フランは、私の可愛い可愛い妹分なんだから、ねぇ……!」



そう言うと声無き笑顔を見せてくれた勇儀さん。

それを見ていると、敬意の念と羨ましいという思いが混ざったような何かが胸の底から込み上げてくる。


……私だって、フランさんのことは分かる。

だって、私もフランさんのこと、好きなんだから……!



「……あ……あやや、か……顔、が…………怖く……なって、ます、よ……も、みじ……?」


「えっ!? あ、文さん!!!?」



複雑な想いに駆られながら勇儀さんの袴を回収し終えた時、どこからか聞こえてきた声。

それが文さんの物だと頭が理解した瞬間、私は思わず声を上げていた。

……しかし、どんなに辺りを見渡せど文さんの姿は見つからない。



「文さん、どこに……!?」


「も……みじ…………こっ、ち……!」


「う、上!?」



再び文さんの声が聞こえてきた方向……頭上にある木の枝に目をやると…………。



「あ、文さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!?」



……頭と胴体、そして二の腕までしか繋がっていない文さんが木の枝の間に引っ掛かっていた…………。










ーーーーー数分後。

ーーーーside 勇儀



「文さん、他に痛む所はありませんか!?」


「えぇ、もう大丈夫ですよ……ってあだだだだだだだっ!!!!!?

ゆ、勇儀さっ! あ、足はまだ、まだ治りきってませんからぁ!!!!!!」


「なんだ、まだ痛むんじゃないか」



椛が射命丸の名前を呼ぶ声を聞いて、私の再生が終わってから様子を見に行ってみれば下半身が無くなった射命丸とその射命丸に妖力を分け与え続ける椛がいた。

とりあえず椛から袴を受け取り、そのまま私も妖力を射命丸に分け与えていたのだが…………。

……射命丸といい椛といい、天狗にしては回復能力が高過ぎやしないだろうか?

椛は胸をえぐられていただけだったからまだしも、射命丸に至っては達磨状態からものの数分で見た目は完璧に治っているのだ。

足の中がまだ痛むようだが、これもすぐに治るだろう。



「も、もう大丈夫ですから足を離してくださって構いませんよ、勇儀さん。

本当に、本当に痛くありませんから!

あっ、待って、その力の込め方は足が潰れるぅぅぅ!!!?」


「あっはっはっはっ!!!!

そこまで叫べるならもう大丈夫だねぇ!!!!!!」


「……弄られている文さんの姿を見るとスカッとするのはなんでだろう…………?」



椛の発言を聞き流しながら射命丸を弄りつつ、私は笑いながら空を見上げる。

見上げた先にはまだこっちを見つめるフランがいて、その隣にはフランと同じ様にこっちを見つめる黒い娘がいた。


……むぅ、馴れ馴れしくフランの首に腕を回す所かフランにべったり引っ付くとは…………なんて羨ましいことを!!!!!!



「……あの黒い娘は誰なんだろうねぇ?」


「あのフランさんの隣にいる女ですか?」


「た、確かフランさんは彼女のことを『ぬえ』と呼んでいましたよ?

それにぬえという方はフランさんのことを『オーエン』と呼んでました。

……良かった、足は無事だ…………!」



私が呟いた疑問を椛が拾い、横で立ち上がりながら射命丸が答えてくれた。

もちろん射命丸の最後の呟きも聞こえている。


……ぬえ、それとオーエンねぇ?

フランがオーエンと呼ばれてるのは置いといて、素性の知れないぬえとやらがフランにべたべたしてるのは気にくわん、本当に気にくわん!!

というより羨ましい、とにかく羨まし過ぎる!!!!



「……フランは、可愛い可愛いフランは私の娘だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


「「はぁっ!!!!!? ってちょっ!!!?」」



天狗二人が変な声をあげているのは気にも止めずに私は飛び出す。

今なら射命丸の速さにも追い付けるんじゃないかと思うほどの速さで飛んでいると、フランとぬえまでの距離はぐんぐんと縮まっていく。

……そして普通の声量でもフランとぬえに声が届く距離まで来た時、よく見てみればフランとぬえ、そして私の間に半透明な結界のようなものが見えた。

だがしかし、私の力の前じゃ大して気に止めることはないだろう。

……そう思っていたのは間違いだと気付かされたのは、すぐだった。



ーーガァァァァァァン!!!!!!


「つぉぉぉぉぉ!!!!!?」


「あっ!? 大丈夫勇儀!!!?」


「ちょっ、マジで!!!!!?」



簡単に破れると思った結界のようなものは、実際はとてつもなく硬く逆に私が頭を強く打ち付ける羽目になった。

その衝撃は私も思わず声を上げるほど凄まじく、結界越しにフランとぬえが私を心配している。

恐らく二人とも私の頭の痛みを心配しているのだろう。


……だが正直、結界に頭を打ち付けたことよりも、この瞬間私を心配してくれているフランの顔を見逃したのが一番私にとって痛かった…………。










ーーーーside ぬえ



オーエンの張った結界に頭を打ち付けたまま落ちていく勇儀という鬼を、私は思わず見続けてしまった。

……結界があるって分かったならとりあえず一度は結界の強度を確かめるはずよね?

結界は半透明だから見えてたはずなのに、まさかそのまま突っ込んでくるなんて…………しかも攻撃された後だっていうのに笑顔だったし……。



「……ねぇ、オーエン?

アイツって本当の馬鹿なの?」


「えっと……鬼は力自慢が多いから、自信を持って突っ込んできたんだと思うんだけど…………。

勇儀、大丈夫かなぁ?」



うん、つまり本当に馬鹿だったということね。

それもオーエンが思わずフランに戻ってしまうくらいの馬鹿。

まぁ私はオーエンでもフランでも、彼女が傍にいるだけで良い訳だけど。



「それにしてもさ、あいつら回復するの早くない?

突っ込んできた馬鹿は本当に馬鹿だから回復するのが早いってのも分かるけど……」


「ぬえの中で勇儀は馬鹿に確定したんだね……。

……多分、結界の中に妖力が満ちていたからじゃないかな?

この山は妖怪の山だから元々妖力が満ちているし、それに鬼の四天王の勇儀や天狗の中じゃ優秀なはずの文お姉さんや椛がいたから結界の中が妖力で一杯一杯になってもおかしくはないと思うよ」



成る程、それなら回復が早かったのも分かる。

それにオーエンがここで休憩を取ればこの後も大丈夫だと言った理由もはっきりしてくる。

しかし、それでも結界の中より外の方が妖力が薄いからあの三人よりは回復しないだろうが。


……それにしても、あの馬鹿って鬼の四天王なんだ。

あれが四天王って位なんだから他の三人もやっぱり馬鹿なのかなぁ?

まっ、どうでもいいや。



「……そういえば、さっきのフランの反応、可愛かったなぁ……?」


「あっ…………!!

……ぬ、ぬえ、今までの会話の所々を忘れてくれないかな……?」


「あんなに可愛い姿を忘れるなんてとんでもない!!

私の頭の中に永久保存しないわけないじゃん!」



馬鹿が結界にぶつかった時のオーエンの反応を可愛いと言うと、フランに戻ってしまったことが余程恥ずかしかったのか顔全体を真っ赤に染めて俯くオーエン。

そんなオーエンを愛しく思いつつ、私はオーエンの両翼に自分の背にある触手を左右それぞれに絡み付けながらオーエンの紅く染まった頬を軽くつつく。

普段ならこれでくすぐったがったりするけど、今は一切の抵抗をせずにひたすら俯き続けるオーエンの姿に思わず私も頬が緩んでしまった。



「うりうり〜! アハッ!!

オーエンったら可愛いよね!!!!」


「あぅ……うぅ…………!?」



一回つつく度に反応するオーエン。

つい色々と襲いたくなるような衝動に駆られるけど、私はなんとか残り少ない理性で踏みとどまっていた。


……これでフラン云々でオーエンの機嫌が悪くなったりしないよね。

オーエンの機嫌は良い、私も可愛いオーエンを見れて得した、馬鹿はどうでもいい……これって最高じゃん!!



「……私にもフランの頬をつつかせろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」


「「ひゃっ!!!?」」


「「ゆ、勇儀さん、落ち着いてください!!!!」」



オーエンと戯れていたら突然結界の方から轟いてきた声。

その声にオーエンと一緒に驚きながら声のする方を見てみれば、さっきの馬鹿が両手を二人の天狗にそれぞれ拘束されながら結界に頭突きをかましていた。

……しかも、その両目からは血涙を流している。



「……馬鹿だとは思ってたけど、馬鹿は馬鹿でも大馬鹿じゃん、あいつ」


「……意地悪なぬえも大馬鹿だよ…………」



この直後、オーエンの可愛すぎる言葉に我慢できなくなった私がオーエンの唇に口づけしたのは言うまでも無いだろう。

……もちろん、その後すぐに耳を粉砕するような絶叫が辺りに響き渡り、絶叫の発信源の傍にいた天狗二人が絶命した虫のように地上へと落ちていったけど。






ーーーーー

以上、シリアスなはずなのにギャグな回でした!!




遂に紅魔館がフラン対策に乗り出しましたね!

……色々遅すぎましたが。

さて、この策は吉と出るか凶と出るか……?



妖怪の山ではひどいことになったりオーエンが葛藤したりした…………はずなのに、最後は勇儀とぬえに持ってかれました。



うん、やっぱりこんなのが書いてる方も楽しいです!!


受験が終わった今、筆者の気持ちがシリアスからハッピーに戻ったので東方転妹録もガンガンコメディorギャグに引っ張っていきますね!!





それではまた次回にてお会いしましょう!!

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