二回目の襲撃、変わらぬ唐傘妖怪
ーーーーー翌日、人里の広場。
ーーーーsaid 八雲紫
晴れ渡る青い空、そこには雲一つ無い。
……そう、鋭く照らす太陽以外に何も無いのだ。
「……そうですか、人里にもまだ訪れてはいないのですか」
「ああ、全く藍さんの役に立てなくて申し訳ない。
私もフランが心配だから可能ならば探しに行きたいが、寺小屋を放っておくわけにもいかないからな……」
本当に申し訳なさそうに藍に謝る上白沢慧音。
それを受けた藍は、まるでどうすればいいのかと言うように、チラッと私の方を伺ってくる……。
……レミリア達が重々しい表情で白玉楼に戻ってきたあの日、フランは私達の前から姿を消した。
それからというもの、あの時白玉楼にいた面々の分かる範囲内でフランと関わりのある者達に連絡を取り、日々こうしてフランを探し続けている。
しかし、今私の前で俯く二人を見て分かるように、捜索の成果は全く無いが…………。
「このように俯いていても仕方ありませんわ。
あの日から一ヶ月、フランを早く探し出さないと私達が動ける範囲からいなくなってしまいますもの」
「……その通りだな、このまま俯いていてもしょうがない。
それじゃあ私はこのまま人里に休みに来る旅人や小傘から、フランに関して有力だと思われる情報を受け取ってまとめておこう。
そうだ! 御二人ともせっかくこの辺りまで来たんだから紅魔館に一度寄ってみたらどうだ?
やはりフランのことで尋常じゃないほど行動を起こしているのは紅魔館の者達だからな。
彼女達の持っている情報で御二人が何か気付けることがあるかもしれないぞ?」
「そうね、私と藍は一度紅魔館に行きますわ。
帰りにまた寄りますから、何かあったら教えてくださいな」
そう言った後、藍と共に軽く会釈する。
そして体の左側に紅魔館へ繋がるスキマを開き、そちらに体を向けた瞬間…………。
ーーーガシッ!!
「えっ?」
「フフッ、お寝坊さん、一人御案内だよ」
「っ!!!? フ、フラ……!!!!!!」
ーーードシュッ!!!!
……突如スキマの向こう側から伸びてきた手に左手を掴まれ、その手の持ち主に気が付いた時には、既に別の手に胸を貫かれていた…………。
「ゆ、紫様ぁぁぁぁぁ!!!!!?」
「その声、フランか!!!?」
後ろで藍がこちらに駆け寄りながら叫んでいるのが分かる。
……そして、慧音が呼ぶ懐かしい名が、スキマの奥にいる少女を正しく指していることも…………。
「……細工はこれでよし、それじゃあお別れだね、八雲紫。
それと、この御札はもらってくよ」
「……ガフッ……フ、ラ……ン…………!!!?」
たった数歩の距離、その距離を藍が詰める間に、フランは私の体に『何か』をして手を引き抜いた。
そして私の懐から一枚の御札を抜き取ると、フランはスキマの奥へ身を引いていく……。
「ま……フ、ラ…………!!」
「紫様、気を確かに!!!!
紫様!! 紫様ぁぁぁ!!!?」
フランがした『何か』のせいなのだろう、私の体から妖力が抜け落ちていき、私の体も意識を失いながらその場に崩れ落ちる。
ギリギリ間に合った藍が私の体を支えてくれたのを感じながら、私は閉じていくスキマに手を伸ばし…………そこで、意識は闇に落ちた。
ーーーーside 藍
「紫様、紫様ぁぁぁ!!!?」
「藍さん、一度落ち着け!!
ここでは治療が出来ない、寺小屋の中に運ぼう!!!!」
紫様を抱えて叫ぶ私の肩を掴み取り乱す私を止めつつ、迅速に対処しようとする慧音さん。
それを見た私も一瞬の間を置いてから落ち着きを取り戻し、段々と騒ぎを聞き付け集まってきた人達の目につかないようにしながら、紫様を抱えて立ち上がろうとするが…………。
「っ! 体が重い!?
……そうか、妖力が…………!!」
「おい、大丈夫か!?
ほら、手を貸すから早く中に!!」
紫様を抱え上げようとして、いつもより力が出ないことに一瞬戸惑う私。
しかし、それが紫様が弱っているからだとすぐに思い至った私は、慧音さんの手伝いをありがたく思いながら頭の中で現状を整理し始めた。
……突如スキマの奥に現れ、紫様を攻撃したフラン。
私からはその姿こそ見えなかったが、聞こえてきた声と紫様が必死に呼んでいた名から、スキマの奥にいたのはフランだと断定できるだろう。
事実、慧音さんも声でフランだと分かっていたのだから。
……そして次に問題となるのは、『何故フランは紫様を攻撃したのか?』、だ。
何か目的があって攻撃をしたはずだが、そうは言っても今のままではフランの攻撃の目的は分からない。
しかし紫様の妖力が極端に少なくなっていることから、フランが紫様に攻撃以外の『何か』をしたのは分かる。
恐らくはその『何か』が本当の目的で、紫様への攻撃もそのついでなのだろう。
……しかしフランのことだ、ついでだとしてもあの攻撃には意味があるはず。
それが何なのか、私には全く思い付けなかった…………。
「……よし、今から布団を持ってくるから一旦ここに寝かせよう。
傷は…………大丈夫なようだな」
「私が本来持っている妖力を分け続けましたからね。
しかし、まさか私に妖力を供給出来ないまでになるとは……」
慧音さんの案内で寺小屋の客間に着く頃には、私が供給した妖力のおかげで紫様の胸の傷は既に治っていた。
……しかし、この状況はかなりおかしいものだ。
本来なら主が式に妖力や霊力を供給するというのに、今は式である私が主である紫様に妖力を供給している。
その上紫様は名のある大妖怪なのだ。
その大妖怪が他者に妖力を貰わなければならない状況など、滅多にあり得ない。
「……フランがした『何か』は、私が全力以上の力を出した時と同等の事なのか…………」
いつかフランを殺しかけてしまった時、あの時も先程言った『滅多にあり得ない』状況だった。
その時は私の暴走が原因だったが、今回の原因であるフランの『何か』もまた私の暴走に匹敵するものなのだろう。
妖力を奪い取る手段は札や術を使えば簡単なことだが、相手の妖力の多さによって準備の労力が大きくなるからだ。
「だったら尚更、何故フランは攻撃なんて余計なことを…………」
「おーい、布団を敷いたからこっちに紫さんを運んできてくれないか?」
「あっ、ありがとうございます!」
思考を一旦打ち切り、慧音さんが敷いてくれた布団に紫様を連れていく。
そして紫様を布団に寝かせた私は、先程考えていたことを慧音さんに伝えてみた。
「……ふむ、攻撃をした理由……いや、攻撃を付け加えた理由が何なのか、か…………」
「紫様を行動不能にするなら、妖力のほとんどを失うほどの事をするだけで十分なはずなんですが……」
妖力を失わせるだけなら、術を使える状況に持ち込むのは大変だが術を使えば簡単に出来る。
フランが紫様を襲った時、完全に紫様の不意をついていたのだから術を使うだけで済めたはずなのだ。
「確かに、攻撃するならもっと徹底してやるべきだな。
妖力をほとんど失わせたというのなら、全く攻撃しないで去るか、徹底的に攻撃するかの二択しかないはず……」
「前者は攻撃する側に余裕がない時、後者は余裕がある時の常套手段ですからね。
そこから考えると、フランの中途半端な攻撃は別の意味を含んでいるとしか…………」
そこまで私が言うと、私と慧音さんの間に沈黙が訪れる。
……全く、この寺小屋の前で楽しく話をしていた頃がひどく懐かしく感じてしまうな。
あれからたった五十年くらいしか経っていないというのに、その五十年でこれほど変わってしまうものなのか…………。
「……こんな時、小傘が入れば気分も軽くなるんだがな…………」
「あぁ、あの弄りやす……独特な雰囲気は和みますからね」
「ねぇねぇ、今わちきを呼んだ?」
「「あぁ呼ん…………って小傘!!!?」」
まるで狙ったかのように現れた小傘に、思わず揃ってすっとんきょうな声をあげてしまう私達。
……個人的には、弄りやすいと言いかけた所を聞かれたかもしれないという驚きと気まずさもあったが。
「やったぁぁぁ!!!!
二人の驚き、ごちそうさま!!!!」
「……あぁ、そうだ、小傘はこういうやつだった…………」
私達二人が驚いたことにかなり喜ぶ小傘。
それを見た慧音さんは、何かを諦めたような表情でボヤいていた。
……小傘め、本当に空気を変えてくれたな。
いっそのこと小傘にさっきのことを話してみるか。
「よし、そんなに嬉しいなら驚いた私達のためにお願いを聞いてくれないか?
私達は小傘の役に立てたのだからもちろん聞いてくれるよな。
あぁ、拒否権は無いぞ?」
「……あれ、わちき驚かす相手間違えた?」
今更気付いてももう遅い。
年頃の女二人にはしたない声を出させたんだ、じっくり付き合ってもらおうか……?
ーーーーー
以上、二話連投でお送りしました!!
……暗い場所、正体不明の若い女妖怪、盗まれた御札…………着々と準備が進んでますね。
三人目や紫の容態はどうなるのでしょうか?
そして筆者の進路は?
……ヤバい、真っ暗すぎる…………!!!!
それではまた次回にてお会いしましょう!!