表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

11 小さな村の依頼者

 太陽が上りきり、少し傾きはじめた頃。シャフィとアークは狭い道を歩いていた。少し遠くに小さな家が見え始めている。あそこがシューロ村だろう。辺りの森は深く、漂う空気は厳かだ。古代遺跡があるという先入観からだろうか。


「あそこか」


 アークの声にシャフィは頷いた。


「そうだろう。いきなり行くと、驚かれるかな」

「……話が行き届いてるといいが」

「ああ」


 ちょうど化け蜥蜴の退治をした時だ。依頼を出したのは一人の若い村人で、他の村人は何も知らず、行って早々怪しまれた思い出がある。


 そんな不安を抱えながら村に近づくと、ちょうど手前の家から一人の女性が出て来た。子供も一緒だ。


「あの、すみません」


 シャフィがそう声をかけると、女性は驚いた様子で二人を見つめた。そんな様子に不安が大きくなる。


「ギルドの依頼で参りました。依頼内容は荷運びと聞いていますが、こちらはシューロ村でよろしいでしょうか?」

「えっ? ギルド、ですか?」


 女性が警戒しているので、シャフィもアークも一度足を止めた。きょろきょろと二人を交互に見る様子に、二人とも顔を見合わせてしまった。


「あの、ここは確かにシューロ村ですが……」


 そう、戸惑いながらも答えてくれる女性の足に、子供がしっかりしがみついてこちらを警戒している。シャフィとアークはちらと目配せしてしまう。危惧した通り、あの時の二の舞を踏んだようだ。


 相手は女性。そして子供も連れている。ここはシャフィが話をすることにして、アークから受け取ったカードを女性に見せながら、シャフィは少しだけ近づいて言った。


「そうですか。あの、これを見て頂けますか? ガリアのギルドにあった依頼です。依頼元のところに、シューロ村とあるのが分かりますか?」


 女性は恐るおそるといった感じでシャフィの様子を見ながらカードを覗き込む。そして怪訝そうに首を捻った。


「ええ……本当。この村のようですね」


 なおも警戒心が緩まない女性を見て、シャフィはどうしたものかと困惑しながらも尋ねる。


「あの、どなたかギルドに依頼をしていないか、確かめて頂くわけにはいきませんか?」

「ええっ……」

「もしどなたもご依頼されていないのであれば、誤登録ということでギルドに伝えて、削除してもらいますので」

「はあ……」


 荷運びは単純な仕事だ。ギルド初心者でも受けやすい仕事と言える。だからこそ、もしも依頼した覚えがこの村にないのなら、取り消しておかなければ、これからもよそ者が尋ねてくるだろう。そう思って申し出たのだが、女性は判断がつきかねるようで、おろおろと辺りを見回している。


 すると、女性の目がシャフィ達の後ろで止まった。誰か来たのかと振り向いたのと同時に女性が声を上げる。


「あんた!」


 やってきたのは、女性の夫らしい。男は困った様子でシャフィとアーク、そして女性をちらちらと見て、小さく溜息を吐きながら来た。


「依頼を出したのは俺です。あの、お名前を伺っても……?」

「えっ、あんたが依頼を?」


 なんだかきまり悪そうに、目を逸らしたままそう言う男に、女性は唖然と見つめて問いかける。が、男は妻の問いかけは聞こえなかったのか、じっとシャフィとアークと見比べていた。


「あ……わたしはシャフィ。そして、アークです。あなたは?」


 その様子に内心首をひねりながら、シャフィは男に尋ねた。やはり、何か別の依頼をされそうだ。


「俺はノーイックです。こっちはラフで、こっちはカルロ」


 ちらと視線を飛ばして指し示す。どうやら奥さんがラフで、子供はカルロというらしい。その大雑把な様子にアークの目が細くなった。呆れているんだろう。


「ノーイックさん。それで、ご依頼内容は荷運び」

「シャフィさんとアークさんって、あのシャフィさんとアークさんですよね?」


 内容確認を遮られ、なんだか妙な勢いで妙な確認をされ、シャフィの目は点になりそうだった。


「え? あの、とは?」


 ぱちぱちと瞬きするシャフィを見て、アークが溜息混じりにノーイックへ声をかける。


「どれかは知らないが、そうある組み合わせの名前じゃないだろうな」


 わずかに含まれた不機嫌さが伝わったのだろうか。ノーイックはアークをきょとんと見た後、少し慌てて弁解した。


「いや、いいんだ。多分俺の予想通りだから」

「……?」


 これにはラフとカルロも不思議そうに首を傾げている。が、ノーイックは先ほどから、妻と子供は目に入っていないようだった。しばし目線を泳がせた後、どうやら覚悟を決めたようで、少し引き締まった表情でノーイックは口を開いた。


「あんた達に頼みがある」


 シャフィとアークは目配せをして、それからノーイックに視線で先を促した。


「ちょっとこっちへ来てくれないか」


 言いながら歩き出してしまい、ラフとカルロはぽかんと男の後ろ姿を見つめている。シャフィとアークはちらりと目を合わせ、言われた通りにノーイックの後を追うことにした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ