それぞれの攻防
午後になり、ロゼリアはメルリと共に執務室に向かっていた。
執務室の目と鼻の先程で、ロゼリアは後ろにいたメルリの足が急に止まった事に気付いた。
「どうかした?メルリ」
「ぐ・・・」
ロゼリアが不思議に思い後ろを振り向くと、メルリが盛大に顔を歪めて前方に視線を注いでいた。
「?」
もう一度前を見ると、執務室の扉の前で、一人の青年が腕を組んで立っていた。
あれは確か陛下専属の騎士だ。
銀髪の、少し離れたここからでも美形だとわかる顔立ちをした青年は、面白そうな表情でこちらを見つめている。
と、その顔が一瞬だけ凶悪そうな笑みを浮かべたような気がして、ロゼリアは目を見張った。
気のせいだろうか??
しかしもう一度目を凝らしても、青年はただ静かな微笑みを浮かべているだけだ。
やはり気のせいだったのかも・・・。
「メルリ、行くわよ?」
頷いて、ロゼリアは後ろで立ち止まったままのメルリに振り返る。
「あ、申し訳御座いません。はい」
はっとしたように、メルリがこちらを向いて頷く。
その顔は未だ苦渋と言って差し支えないような表情ではあったが、ロゼリアは首をひねりながら執務室の方へと歩き出した。
「これは、ロゼリア様。陛下になにか御用でしょうか?」
「ーーーーええ。陛下は中におられるかしら?」
「ああ、はい。少々不機嫌かもしれませんが・・・」
「構わないわ」
それぞれにこやかに微笑みながら、会話が進んでいくが、ロゼリアは内心メルリの態度が気になってしょうがなかった。
メルリは先程から熱心に床を眺めて微動だにしない。目の前の青年の存在など気付いていないかのようだ。
「そうですか。それではどうぞ?」
「あら、ごめんなさい」
銀髪の騎士がそっと執務室の扉を開けてくれた。
「ーーーそちらの侍女殿も?」
青年がロゼリアのすぐ後ろに居るメルリに笑みを向ける。
ロゼリアは隣で俯いたきり顔を上げないメルリを心配そうに見やり、ついで目の前で柔かに笑う青年を見上げた。
明らかに、おかしい。
何故かはわからないが、この二人、知り合いなのだろうか・・・。
そうは思ったが、口にするような雰囲気ではなく、ロゼリアは内心ため息をついた。
「ーーーいえ」
そんなロゼリアに、メルリは青年の方を見ずに小さく頭を下げる。
「ロゼリア様、申し訳御座いませんが、メルリはお部屋の方でティータイムの準備をしながらお待ちしております」
「え・・・?」
ここに来る前は執務室の扉の前で待機してくれるって言っていたのに、一体何故。
やはりーーー
「ーーーーー?」
今、目の前で優しそうに微笑むこの青年が関係しているに違いない。
いくら男嫌いでも、ここまであからさまに拒絶することはなかったはず・・・。
あ、もしかして・・・
もしかしなくても、この人ではないだろうか・・・メルリにアタックしている人物とは。
メルリからすれば、迷惑千万だろう人物。
「・・・ティータイムの準備に取り掛かるにはまだ少々早いのではありませんかね?」
「ーーーー間違えました。掃除です。お部屋の」
「それは午前中に終わったと、他の侍女の方が話してましたが?」
「空耳です」
ーーーーああ、なるほど。
どうやらこの方がそうらしい。
メルリは心底いやそうな顔で、素っ気ない返事を返し続けている。
ここは、一肌脱ぐべきかもしれない。
ロゼリアはそう思って、銀髪の騎士に向き直る。
「私が陛下と話す間、メルリが暇だと思うので、あなた、メルリのお相手をしていて下さる?」
「っひ?!ロロロロっロゼ・・ロゼリア様?何をーーーー!!」
すがりつくように腕をつかまれて、若干心が痛むが、これも全てメルリの為だ。
「勿論、喜んで」
「貴方も喜ばないで下さい!!」
見るところ優しそうだし、拒否られ続けているのに特に気にしていないのをみると、忍耐力も持ち合わせてる筈だ。
ロゼリアはニッコリと笑って、そっと縋り付くメルリの腕を問答無用ではずした。
「メルリ、待ってて頂戴」
「は、ですからお部屋でーーー」
「勿論、ここでよ?」
「そっそんな!?ロゼリア様!」
涙目のメルリ。
それ程までに嫌らしい。何故だろう、とても優しそうな方だが・・・。
ロゼリアは疑問に思いつつ、ニコニコと笑う騎士に小さく微笑んで、執務室へと進んだ。
後に残されたのは、唖然と閉められた扉を見つめているメルリと、そんな彼女を興味深そうに眺める青年。
その青年の顔が、突如、意地の悪そうな笑顔に変わる。
「ーーー随分、嫌がるもんだね?」
「・・・・」
ギギギッという音がつきそうな動きで、メルリが青年の方へ顔を向ける。
それを見た青年、ゼクセンの表情が、殊更楽しげに歪められたーーー・・・。
視点がコロコロ変わっているようですが、大丈夫でしょうか・・・。
次はロゼリアになると思います。多分ですが。ーーーメルリ、次までそのまま頑張れ!!