とある騎士の助言
ゼクセンのそっくりさんが・・・紛れてました。はー、これは作者完璧に気付いてませんでした。どうもすみません(; ̄O ̄)
ヘタレだと思う。
もう、どうしようもないヘタレだ。
「なんだ、その目は」
執務室の中央に置かれている机の上には、かなりの枚数の書類が積まれてある。その書類に埋れながら、この国の王であり、我が剣を捧げた主人が不機嫌な声音で言った。
書類の間から覗く両眼が、これ以上無いほど細められている。・・・あんなに細めているのに、こちらの態度が見えているのが不思議だが、それを言ったらますます不機嫌になることは明確なので、利口な彼は唇の端を吊り上げるに留めておいた。
「なにか言いたいなら言ったらどうだ?ゼクセン」
部屋の壁に身体を預け不敵な笑みを浮かべる銀髪の騎士、ゼクセン・リュオークに、膨大な書類の相手をするのを一時的に中断して声を掛けたこの国の王であるリヴァルト・サンドラ・アルディンは、胡散臭そうな顔を向けた。
「いやいや、恐れ多くて言えませんよ。俺は小心者なので、心にそっと思うだけで充分です」
「つまり、言えないことを心の中で思っている訳か、貴様は」
「いやぁ、流石、リヴァルト陛下には何でもお見通しデスね」
「・・・お前」
「うわぁ怖い怖い。そんなに睨まないで下さいよー」
怒気を発しながら鋭い目つきで睨みつけられ、ゼクセン・リュオークは小さく肩を竦めた。
その態度はどう見ても馬鹿にしているようにしか思えないものだった。
「お前はいつもいつも言葉がすぎると思うんだが、どう思う?」
「そんなの、俺と陛下の仲じゃないですか。なんら問題ありません」
「ど・こ・が!!問題大有りだ阿呆!!」
「やだな〜カリカリしちゃって、思うんですけど、陛下はカルシウムが足りないんじゃ無いですかね?今度カルシウム抜群の食材でも調達して、料理長にでも陛下のカルシウム補給専用の料理でも考案するように頼んでおきましょうか?」
「余計なお世話だ!!!!!」
肩を怒らせて怒鳴るリヴァルトに、ゼクセンは面白そうな笑顔を向けた。
実際、彼は面白がっていた。
少し前のリヴァルトと、今の彼はまるで別人だ。以前の彼は、何を言っても無反応で、ガラスのような瞳をこちらに向けるだけだったのに・・・。
やはり、こうでないと。
「何をニヤついてる」
不機嫌そうに眉を顰めたその表情も、ゼクセンにとっては馴染みのあるものだ。
ゼクセンは、へラリと笑って、執務室の窓から空を眺めた。
青い色。
『支えてあげて』
脳裏に過ったのは、過去の約束。
守れなかった、果たすことが出来なかった言葉。
そして、ある意味で、守られた約束でもあった。
感謝してもしたりない。本当に、どんなに言っても、きっと笑って言うだろう。
何もしていないと。
だが、そんな人だからこそ・・・。
「そう言えば、あの件はどうなった?」
「ーーーーああ。問題ありません」
書類を片隅に追いやって、疲れたようなため息を漏らすリヴァルトに、ゼクセンは思考を切り替えて、真剣な声音で返した。
「でも、少しばかり怒ってましたよ、彼女」
「あれこそカルシウムが足りん。側室にしてやると言ったら、はたかれたぞ」
「・・・はあ」
「なぜそこで溜息が出るんだ」
恨めしそうにこちらを見る青紫の双眸から視線を外し、ゼクセンは前髪を掻き上げた。
彼のファンが見たら、気絶しそうな流し目を部屋の片隅に向けて、ぼそりと呟く。
「ヘタレの上に、鈍感ときたかーーー重傷だな」
「誰が鈍感だ!誰が!!」
「あれ、ヘタレは否定しないんですね」
「ーーーーっつ!!」
「いや、安心しました。ヘタレな自覚はあったんですねぇ。じゃ、次は鈍感だと自覚するとなおいいと思います」
「煩い!!誰がヘタレに鈍感だ!!」
「言い直さなくても・・・」
「言い直したんじゃない!!否定したんだ、阿呆が!!」
「ふざけないで下さいよ、陛下。俺が阿保な訳ないじゃないですか。誰かさんじゃあるまいし」
「・・・その誰かさんはまさか私のことでは無いよな?」
「勿論、今俺の目の前にいらっしゃる、リヴァルト・サンドラ・アルディン国王陛下でございます」
そう言って仰々しくお辞儀をするゼクセンにこめかみをひくつかせたリヴァルトは、執務室中に響く怒声を浴びせた。
「もういいから、仕事しろ!!」
「えー」
「えー、じゃない!!行け!!」
「あーもう。分かりましたよ」
怒鳴り散らすリヴァルトにひらひらと両手を振って、更についでとばかりにニヤリと笑いかけて、ゼクセンはのそのそと執務室のドアに手を掛けた。
「たっく本当に・・・」
リヴァルトはそんなゼクセンを睨みつつ、愚痴を零している。
「ーーーーリヴァルト」
部屋を出て行く瞬間、ゼクセンは後ろを振り返って、 主である青年の名を呼んだ。あえて、敬称は付けずに。
「・・・何だ」
普段は敬称をつけるはずのゼクセンが、仮にも一国の王を呼び捨てにした。
普段なら極刑に当たる行為だが、これは彼らにとってはある合図であった。
二人は、いや、もう一人居たが、一般に幼馴染と呼ばれる間柄だった。
幼馴染としてのゼクセンは、リヴァルトに敬称はつけない。例え王と、それを守る騎士であっても、根本的なものは、彼らの間では変わっていない。
ずっと、変わらない。この先も、彼らはあえて変えようとは思わない。
「一つ、忠告しとく」
ゼクセンはひたと相手を見据えて、はっきりと言葉を口にした。
「いつまでも受け身でいると、そのうち相手を失うぞ」
「ーーーそれはどういう」
「助言はした。いいな、手を離すな」
「待て、ゼクーーーー」
言い淀むリヴァルトの言葉を遮って、ゼクセンはすっと目を細めた。
ーーーー後は、お前次第だ。
そう言外に告げて、ゆっくりと扉を閉める。呆気に取られていたが、リヴァルトは、彼女の手を離さないでいられるだろうか。
勿論、最大限助力は尽くすつもりだ。
それでも、本人が動かなくては意味がない。
本当に俺の主はヘタレだ。
臆病になりすぎる。掴める時に掴まなくて、一体いつ掴むつもりだ。
廊下に出たゼクセンは、頭を振ると、向かいからこちらにゆっくりと歩いてくる2人組に気付き、緩く口元に笑みを浮かべた。
ーーーーこれはこれは。
新しい側室の事は、すでに城の者全員に伝えてある。それを知った上で、一体リヴァルトに何を言うつもりだろう。
遠目から見た彼女の表情自体はいつも通りだ。
ーーーーさて、帰ろうと思っていたが、これはどうしようか。
そう思って、二人ーーーロゼリアとその侍女を凝視していると、ロゼリアの後ろにいた侍女が、一瞬止まり、その視線がゼクセンと絡まる。
ーーーーよし、決めた。
ニッと凶悪な笑顔を浮かべて、ゼクセンはこちらまで歩いて来た二人に笑いかけ、話しかける為に唇を開くことにしたーーーーー・・・・。
やっとこさ陛下の名前が出ました。
そしてその陛下を護る騎士のお人も登場です。
主人公のロゼリア側が、話の都合上暗くなりがちになるので、なるべく明るいキャラ・・・明るい・・かは不明ですが、なるべく話を明るくするキャラクターをと思います。
ロゼもなるべく明るい子になるようにしてますが難しいですね。あんまり明るくても不自然だろうし・・・。そこらへんの匙加減は手探りですので悪しからず(; ̄O ̄)