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変化の足音

「陛下」

「………」

「陛下、起きてください」

「………」

「陛下?」

「………」


 何度呼びかけても陛下が起きる気配は無い。珍しい、大抵二度ほど声を掛ければ起きるのに……。

 少し驚きながらも、ロゼリアは陛下の体に手を伸ばして、少し強めにその体を揺すった。


「陛下、起きてくださいまし」

「……ん?」


 少し掠れた声と共に、陛下の体が小さく震える。


「陛下、おはようございます」


 ロゼリアはいつもと同じ言葉を口にして、朗らかな笑みを浮かべた。


 陛下の前では、常に笑顔であるべし。

 それは、彼女が皇妃である自分に課した使命であり、その言葉はここ二年間で、彼女の骨の隋にまで浸透して、最早癖になっていた。


「ーーー妃か」


 むくりと起き上がった陛下が、顔を顰めて呟くようにいった。先ほど閉じられていた瞼から覗く不思議な色合いの青紫色をした瞳が、自分の姿を捉えると同時に細められる。


「ええ、なにかご不満でも?」


 にっこりと笑うと、気まず気に目線をそらされた。ーーーー彼が言いたいことは分かっている。


「今日は何も仰らないんですね、珍しい」

「お前に言ったところでまた来るのだろう?もうここに来るなとは言わない 。言うだけ無駄だと分かっているからな」

「ええ、そうですとも。拒むのでしたら最初から拒まなくては。今更部屋に入るななんて聞けませんわ」

「別に許可していた訳では……もういい」


 ため息をつくと、彼はゆっくりとベッドから立ち上がり、着替えをするためにクローゼットの前まで移動する。

 本来は召使いにやらせるものだが、洋服の着脱くらい他人にやらせなくても出来ると、彼は殆ど自分でやっていた。手伝ってもらうとしたら、儀礼式の際に着る、煩わしい王族の正装ぐらいだ。ロゼリアとしても、あればっかりは未だにどういう作りになっているのか疑問を覚える。あんなごちゃごちゃした正装が普段着でないことには、感謝の念を言いたい。誰に言うべきかは不明だが。

 だいたい子供でもないのだから、今更他人に着替えを手伝わせるのも阿呆らしい。


「それでは、陛下も起きたようなので、私はこれで失礼いたしますわ」

「ああ」


 彼は、朗らかに笑うロゼリアに素っ気なく頷いて、


「そうだーーー」


 と、再び口を開いた。


「はい?」


 部屋を出ようとしていたロゼリアは、足を止めて振り返った。

 何やら難しそうな顔をしていた陛下が、チラリとこちらを見た後、小さく頭をふって答える。


「ーーーいや、何でもない」

「………?」

「すまない」


 何に対する謝罪かはっきりしないまま立ち尽くすロゼリアだったが、洋服のボタンを外し始めた陛下の姿に我にかえり、慌てて部屋の外にでる。


「なんだったのかしら……」


 ロゼリアは首を傾げたが、結局わからなかった。分からないことでくよくよしていても時間の無駄だ。これは後で陛下に聞くとしよう。そう結論づけて、ロゼリアはいそいそと自室に戻ることにした。










 それから部屋に戻ったロゼリアは、メルリが用意してくれた朝食を食べたあと、食後のティータイムに移った。

 メルリは食器を片付けた後、朝の集会があるのでティータイムの準備が出来ないからと、少しあとでするようにと言ってきたが、自分でするからと言ったら顔をしかめていた。


「私の存在理由を奪うつもりですか」


 などと、至極真面目な顔で言っていたので、思わず笑ってしまった。

 その時の事を思い出して、唇に笑みを浮かべたら、誰かがバタバタと廊下を走ってくる足音がした。

 特に気にせず、紅茶の入ったカップを持ち上げたと共に、スパァン!!と勢いよく部屋の扉が開かれたので、ロゼリアは驚きで肩を跳ねあげた。



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