表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/30

招待

小鳥が空を飛び回るのを眺め、ロゼリアは持っていた日傘をくるりと回した。時刻は正午を過ぎて暫く経ちながらも、頭上には煌々とした太陽が輝く。


今、この場に居るのはロゼリア一人だが、見回りの兵士は何人か居るため、身の危険性は低い。皆無と言い切れないところが少々苦いところではあるが、皇妃が警備体制に口出しする必要は無い。そこらへんは陛下がきちんとして下さっている筈である。


ところどころから、侍女や城に滞在中の要人の笑い声や話し声が聞こえてくる。


昼過ぎーーーーロゼリアはくるりとバラ園を見渡しながら、微笑みを浮かべた。城の隅にひっそりと存在し、こじんまりとしたこの場所は、今では皆あまり足を運ばなくなってしまっていた。その原因としては、ここよりも城から近い場所に、新しく、広いバラ園が出来たせいでもある。しかし、今こうして周りを見渡すに、城専属の庭師が丁寧かつ丹念に心を込めて薔薇の世話をしているおかげか、どの薔薇も色鮮やかに咲き誇っていた。


ロゼリアは、昔から考え事は専らここで解決する。ここの雰囲気は実家である男爵家にあるバラ園の雰囲気となんとなくだが似ているところがあった。それもあってだろう、白波をたてていた心が自然と凪いでいくのを感じる。


不意に風が吹き、辺り一帯、バラ特有の強い香りが漂う。


ロゼリアは、植えてある芝でつくられた絨毯の上を、さくさくと踏み分けながら進む。良く晴れていて、天気は快晴、散歩するには丁度いい。日が高い事もあってか、この時間帯はあまり人がいない。城の方からは賑やかな声が聞こえてくるため、それを思うと何だか人のいない静かなこの場所は、少し異質な感じがしないでもない。


「・・・あら、ロゼリア様?」


「っきゃ・・・!」


一人でバラを眺めていると、背後から声を掛けられた。突然のことで驚いたロゼリアは、持っていた白い日傘を地面に落としてしまう。慌てて拾おうとすると、横からすっと白い手が伸びて、ロゼリアが持っていた日傘を掴み上げ、手渡してくれる。


「あ・・・ありがとう」


日傘を手渡してくれた人物の姿を認めると、少々意外な人物だった。


レイファ・・・様。


「ごめんなさい、驚かせてしまいましたわ」


じっとその姿を眺めていたら、彼女にすまなそうにそう言われたので、慌てて頭を振る。


「え?ああ、いえ、大丈夫ですよ」


「そう?ならいいのだけれど」


不躾にじろじろ見られていたにもかかわらず、彼女が気分を害した様子はなかった。その事にほっとして、ロゼリアは首を傾げる。


彼女も、バラを見に来たのだろうか・・・?一人で?いや、もしかしたら陛下と一緒だったり・・・。


そう思い、ついつい辺りをきょろきょろと見渡してしまうロゼリアに、のんびりとした声が掛けられた。


「一人です」


「え?!」


「私一人ですわ、ご安心なさって」


なっなんで分かったのかしら??


口には出していなかったのに・・・そう思いつつ驚いた顔を向けると、彼女は面白そうにくすくすと笑って、手に持っていた扇をぱらりと開く。


扇の先から、喜色の滲んだ瞳が覗く。


「実は私、この間からずっとロゼリア様にお会いしたいと思っておりましたの。先日はあまりお話し出来ませんでしたから・・・。先程城の一角から、庭を眺めていたら、ロゼリア様の姿を拝見しまして、思わず後を追って来てしましましたわ。」


「そ・・・そう」


一体何と返せばいいか分からず、曖昧に頷く。


話と言っても、正直ロゼリアの方は彼女と何も話すことが無い。共通の話題と言ったら陛下の事ぐらいしか思いつかないのだが、自ら泥沼に落ちようとする必要は無いだろう。


それともあれだろうか・・・よくある側室と正室の泥沼の戦いでもしようというのか。しかしながら、こちらに戦う意思は皆無だ。そして、彼女の方もその気はなさそうである。


「そうなんです、そうそう。ええ」


にこにこと微笑む彼女に戸惑いつつも、ロゼリアも笑みを返した。


「急に押し掛けたりして・・・ご無礼をお許しくださいませ。どうしても、もう本当に、どーしてもお話しがしたくて、気持ちが先走ってしまいましたわ」


何故か《どーしても》という所を力一杯強調する。


そ・・・そんなに?


戸惑いは大きくなる一方だ。


一体何をそんなに話したいのだろうか。


彼女と話したのはこの前だけ、会ったのもあの時だけである。それに、積もる話があるほど親しい間柄では無いし、そもそも積もる程の話は無いように思えるのだが。


ロゼリアが困惑しているのをよそに、レイファは楽しそうに話し始めた。


・・・今更だが、彼女はよく話す。


目の前で途切れる事無くすらすらと言葉を話すレイファに、ちょっとした感嘆の溜息を洩らしそうになった。ロゼリアは最初からずっと相槌しか打っていないような気が・・・いや、実際相槌しか打っていなかったが、それでも相手は特に気にしていないようだ。


ロゼリアとしても、特に話すことが無かったのである意味それでいい気がする。そして、何か忘れているような気がしてならないのだが、それが何か思い出せない。


もやもやしたまま時が過ぎていき、話も終盤に差し掛かった。




「---他の側室の方達を交えて・・・ですか」


「お気に召しません?」


「いいえ、そうではありません」


「それでは・・・」


「ええ、分かりました」


「ほかの方達には、私から知らせておきますわ、あらかたの準備も私が致します」


「え?ですが・・・」


「大丈夫です。それに私が言い出したことですもの」


「・・・わかりました」


「では、楽しみにしていますわ」


「あ・・・はい」


レイファは軽いお辞儀ともに踵を返し、城の方へと戻っていく。


歩き去るその後姿を見つめながら、ロゼリアは呆然と立ち尽くしていた。唐突に決まった他の側室の方を交えてのお茶会。


というか・・・最初からこれが目的だったのではないだろうか??


約束を取り付けた途端そそくさと戻っていったレイファの姿を思い出し、ロゼリアは長い長い溜息を洩らした。


そうして、日が傾いてきている空を見上げて、とある事に気付く。


「・・・そう言えば、これからどうするのか、考えを纏めるために来たんだったわ」 


思えば随分と長話、いや、長話と言えるのかは分からないが、していたものだ。


後から後から出てくる溜息を押し込めて、ロゼリアはレイファの去っていった方向を暫く眺めていた。



取り敢えずここまでです。


次回はゼクセン側と陛下、ロゼリア両方更新になる予定です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ