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偲ぶ心に見合わぬ勇気

「へーーー陛、下」


「・・・・・」


無言。


リヴァルトは僅かに片眉を上げた後、ただただ静かにロゼリアを見つめてくる。


ロゼリアの言葉を待っているのか、はたまた、話したくもない程ーーー・・。


「もう来たのか」


「え・・・?」


「ーー今日は随分と早いな。まだ日も出ていない」


リヴァルトが顔を動かし、真っ暗な部屋を見渡す。窓にはカーテンが引かれているが、そこから漏れる光はなく、外がまだまだ暗いことを窺わせる。


ロゼリアは内心でホッと胸を撫で下ろした。


先程の言葉は聞いてはいなかったのかもしれない。


だが、早々に近づく事は躊躇われる。何より、少しばかり気まずかった。


その為、リヴァルトが横たわっているベッドから二、三歩程離れたまま、ロゼリアは口を開く。


しかし、上手い言葉が思いつかない。


「あっいえ・・ただ、その・・」


「・・・・」


口籠っていると、リヴァルトが窓の方にやっていた視線を此方に向けた。


先程浮かんでいた不機嫌そうな表情は、今は鳴りをひそめ、今はどこまでも無表情にロゼリアを見つめている。


その顔が、少し、怖い。


まるでーーー人形のようで。


「へ・・・陛下は、後宮に行かれたとばかり」


何の感情も浮かんでいないその表情が嫌で、ロゼリアは慌てて言葉を口にしながら、リヴァルトに近付いた。そして、はっと口元を覆う。


私ったら・・・!!


話題が最悪だ。何故、よりにもよって、自分が聞きたくもない話を相手に振るのだろう・・・。


だが、口にした以上話を聞くしかない。


「ーーー陛下?」


「ーーーー・・・」


そう思い、陛下に顔を向けると、何故かこちらを珍しげに凝視していた。ロゼリアの話にも、答える気配がないところをみると、こちらの話を聞いていなかったのだろうか・・・?


ホッとして、数歩後ろに下がり、黙り込んでいるリヴァルトを不思議そうに眺めやる。


「陛下、どうか?」


少し大きめの声音で尋ねると、リヴァルトがさっと視線を外した。


そうして、あらぬ方向に視線を向けたまま、ロゼリアの方を見ようとしない。その顔はこちらからは窺い見る事は出来ず、かと言って、こちらが近付くのも、今のロゼリアには気まずくて・・・。


はっきりと相手の態度が分からないと、より不安感が増してしまう。


なにか気に触った・・・?


「陛下?」


首を傾げるロゼリアに、再びリヴァルトが視線をやって、けれどやはりすぐにこちらから視線を逸らす。


それを何度か繰り替えした後ーーー・・。


「・・・髪を、結っていないんだな」


そう、ロゼリアを見ないままに呟いた。


・・・髪?


「あ・・申し訳御座いません。お見苦しいところをお見せしてしまい・・・」


そういいながら、ロゼリアは自分の下ろしたままの髪に目をやった。


いつもメルリによって丹念に梳かれ結われてあるロゼリアの髪は、今日は下に下ろしたまま手を加えていない。


元々リヴァルトに会わないのを前提にここに来たのだ。いつもキチンと結われてある時ばかりを目にしているリヴァルトからしたら、少し不格好に見えるのかもしれない。


「部屋に居られるとは思いもーー」


「違う」


「ーーー?」


言い訳がましく言葉を続けようとしたら、途中で遮られた。しかし、何が違うのか分からず、ロゼリアは首を傾げる。


「そうじゃなくて・・・その・・」


「ーーーー?」


モゴモゴと何か小さく口を動かしているのだが、如何せん、声が小さ過ぎる。


「だから・・・ええと・・」


「あの?」


「ーーーっ、違う!見苦しいとかそういう事を言ってるんじゃない!」


意を決したように顔をこちらに向けて、リヴァルトは力一杯に叫んだ 。


だが、ロゼリアはリヴァルトが何を言わんとしているのか分からずに、困惑した表情を浮かべて首を傾げ、じっとその顔を見つめる。


ええと?つまり何が言いたいのかしら・・。


「つまりーーー私が言いたいのは」


「言いたいのは?」


ロゼリアは、リヴァルトの言葉を追従する。


「言いたいのは!」


「ーー言いたいのは?」


「言いたいのは!!」


「ーー言いたいのは?」


「言いたいのは!!!!!」


あまりに進まない会話。


リヴァルトは先程から口を開いては閉じるを繰り返している。



ーーーそうして、不意にガクリと肩を落として嘆息し、何かを小さく呟いた後、両手で顔を覆う。


「何で・・・こう・・」


悲観したように呟くその姿に、ロゼリアはおずおずと声をかけてみた。


「ーーーあの、大丈夫ですか、陛下?」


「・・済まない。気にしないでくれ」


「えっと?」


「とにかく、気にしないでいい。済まない」


何故か謝られた。


ロゼリアが困惑していると、顔を覆ったままリヴァルトは布団に潜り込み、身体を背ける。


ーーその肩が、何故か小刻みに震えているのは気のせいだろうか・・・。


「陛下、どこか具合でもーーー」


「もう寝る」


「え?ちょっ!陛下!?」


そのまま頭の上まで毛布を被るリヴァルト。


ロゼリアは訳が分からぬままに、その姿を呆然と眺めていた。


そうして、思う。


・・・やっぱり、見苦しかったのね。


ふっと息を吐いて、自分の間の悪さに肩を落とす。ーーまさか、顔まで覆われる程見れない姿だとは思いもしなかった・・・。


「申し訳御座いません、今度はきちんとしますから、陛下」


そう呟いて、ロゼリアは静かに寝室から出ていった。








ーーパタン


扉が静かに閉められるのを聞いたリヴァルトは、布団にくるまったまま小さく何かを呟いた。


その言葉は、寝室から出て行ったロゼリアの耳には届かず、彼しか居なくなった部屋に木霊する。





「髪を下ろしていても、よく似合っている」







ーーーその言葉を聞いていたのは、呟いた本人のみ。


ロゼリアは、彼が何と言いたかったのか知らないままに、自分の部屋へと歩を進めたのだった。



うん、駄目だ...。


あっれぇぇ??もっとこう、ぐいっといくはずだったのに。まぁ、彼らしいといえば...いや、話が進まないじゃないか!!



ーーてことで、ヘタレ脱出が不発に終わりました。そしてより深まった。溝が。

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