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密談1

場所を変えました。内容は変わりません。




後宮内のとある側室の部屋でーーー。


彼女は今か今かとその時を待っていた。午前中、久々に顔を合わせた彼は、後で部屋に行くと言っていたのだが、結局来ないまま、日が暮れてしまった。


部屋の壁に嵌め込まれてある物物しい窓から覗く景色は、既に薄暗い闇に包まれており、彼女は人払いをした事が無駄に終わったと悟り、溜息を吐いた。


流石に、この時間にここを訪ねようとする程阿呆では無いだろう。


彼が殺人並みに忙しいということは知っている。


しょうがない。また明日にでも・・・。


【コンコン】


ーーーそう思っていた矢先に、小さく、控えめに己の部屋の扉がノックされた。


嫌な予感がして、彼女はブンブンと頭を振る。そんな馬鹿なと一笑し、扉に歩み寄って遠慮なく開け放つ。


「ーーー阿呆が居たわね」


呆れたように言ったら、相手は意味が分からずに首を捻って背後を見た。


「阿呆、あんたの事を言ったの!」


「顔を合わせた途端にそれか。昼間の様に笑ってくれてもいいんだが・・・」


ーーー間違った。


「ただの阿呆じゃなくて、救いがない程の阿呆みたいね。というか、何で私があんたに微笑んでやらなきゃいけないのよ」


昼間だけで十分だろう。


「ーーーああ。お前はそういう奴だったよ。忘れてたな・・・」


そう言って、目を細める彼。


それにイラッときた彼女は、手を腰に当てて眦を吊り上げた。


「ちょっと、何でそんなに遠くを見るような目で私を見るの!!失礼しちゃうわね!」


顔に掛かった黄金の髪を手で払う。


長い髪は好きだが、色々不便だ。いっその事、丸刈りにしようか・・・。


「辞めておけ。フレアが卒倒するぞ」


顔を向けると、何故か微妙な顔をした彼がいた。


「そう?」


「ああ、いきなり坊主になって帰ってみろ、下手したらあいつの事だ、両手を合わせて湖にでも飛び込みかねんーーその前に」


まず、女として坊主はあり得るのか??と彼は困惑した顔で呟いている。


そこらへんは気にしていないと言ったら、さらに微妙な顔をしていた。


「・・・て、そんな事より!!」


ビシッと指差す。


話を先に進めないと。


ついでに、こいつの常識は、非常識だと教えておかなければ!!


「何で、こんな時間に来るのよ?」


「ーーーまだ9時だが」


「ええ、()のね」


「いけなかったのか?」


彼はあろうことかそう言って、こくりと首を傾げた。美女の顔の傾けは癒しだ。そして、なまじ顔がいいから?彼がやっても何故が見惚れてしまう。ーーームカつく!!


「いけない?ええ、いけないってのこのおバカ!!いい?今、私はあんたの側室としてここにいるのよ?こんな時間にあんたがここに来れば、周りはどう思うと思う?」


「ーーーー?」


「〜っ!!よし、言ってあげる!!私とあんたが濃密な関係だと思われるじゃないの!!」


「あり得ない」


「そう、あり得なーーーって、真顔で言うな!!じゃなくて!!確かに私達からしたらあり得ないけど、周りはそうは思わないって言ってんの!!」


も一つ言ってやる。


「ーーロゼリア様もね」


その言葉に、彼の肩が震える。


全く、いい年して・・・。


「彼女は・・・その、昼間ーーー」


段々尻窄む声音。


はぁーーー。


長い溜息が漏れた。彼が言いたい事は分かっている。恐らくも、昼間の彼女の様子だろう。


「安心して、嫌いでは無いみたいよ?ーー好きかどうかもわからないけど」


「うぐっ」


「あのねぇ、手っ取り早く、告白すればいいじゃないの!」


こんなところでウジウジしていても仕方が無い事は分かっているだろうに・・・。


「ーーーそれは無理だ」


「無理?出来ない、じゃなくて?」


「ああ」


彼女は訳が分からずに首を傾げた。


「もしかして、ユーリ・・・ユリアナの()が?」


「ーーー確かにそれもあるが」


今一歯切れが悪い。


「じゃぁ、何で?」


「愛さない」


「ーーーは?」


何を突然言い出すのか。ーーーあ、もしかして。


「ロゼリア様がそう言ったの?」


好きかと聞いたら、答えなかった。もしかして、彼女にそういった事を言われたのだろうか・・・。


それはキツイ。


心配の種がーーー





「いや、私だ」




芽吹くどころか花開いた。


「ぐほっ!」


気付いたら足元で蹲る不審者に、突き出していた拳を解く。


「ちょっと、下覗かないでよ?」


「覗くか!というかだな・・・仮にも一国の王に手をあげるか!!普通!!」


「ヴァカとアホと変態を殴るのは乙女の常識なのよ?」


「巻き舌風に言うな!ーーーああもう」


溜息を吐きたいのはこっちだ。


「ーーーで、彼女に言ったって本当に?」


「ああ、はっきりと」


「どこで?」


「初めて会った時だ。挙式」


つまり?結婚式??


「生涯の伴侶になろうという瞬間に、そんな言葉をロゼリア様に贈ったと?ーーー救い様どころか救えないわね」


阿呆過ぎる。


そりゃあ言えない。


どのツラ下げて、好きです!愛してます!!

と言うんだ。


「諦めなさい。いっそ、彼女を手放してあげれば?」


「・・・・・」


「睨まないでよ・・・しょうがないでしょう?大体、あんたの自己責任、自業自得だと思うの」


「うぐぐっ」


「ーーはぁ、ロゼリア様も笑ってらっしゃるばかりで、私に敵意とか負の感情を向けてはこられなかったし。イマイチ気持ちが掴めなかったわ。というか、側室(わたし)も笑顔で迎えて下さったし、物凄くいい人よね、お妃様としては最高じゃない」


「妃としては・・・まぁ。いや!!私からしたら良くない!!」


「いいじゃない。初対面で最低な事を言ってんのに、嫌われてないんだから。懐が広すぎるわ。私だったらその場で半殺しにして帰ってるわよ」


「ーーーーいや、それはまずいと」


「だってあり得ないもの、あんた」


「うぐっ」


落ち込んでる場合?というか、そんな暇は無い。


「ーー下手したら、私とくっつくと思われてるかもね。一応、あんたが私を側室に指名したんだし。勿論それには理由があるけど、それを彼女に言うわけにはいかないんでしょ?」


「あり得ない」


「ということは、何か手を打つべきね」


「何を?」


「それをあんたが考えないでどうするの!!おバカ!!」


「ぐふっ!だ・・から、殴るな!!」


「うるさーい!!いい?とにかく、何か早急に手を打ちなさい。離れていかないように。私も一応彼女のことを色々探っといてあげる。ーーーそうね、今度お茶会でも開こうかしら?」


「サロンか?なら、私も一緒に・・・」


「アホ!あんたが行ったら、泥沼にしかならないわよ。女を舐めてると痛い目にーーー・・・ある意味もう遭ってるか」


「うぐぐっ」


「一々呻かないの!自業自得だとは思うけど、あたしも出来るだけ協力するから」


「あ・・・ああ」


「取り敢えず、何か考えときなさいよ?あと、言えないなら言えないで、それとなーく気持ちを伝える方法とかもあるだろうし」


「そう・・・だな」


「まぁ、成功するかはわかんないけどね?でも、甲斐甲斐しくあんたの世話をずっと焼いてくれてたんだし、少しなりとも、あんたに好意を抱いてるとは思うわ」


「そうーーだろうか」


「絶対そうよ」


「そう・・・か」


分からないけどね?完璧に良心から世話したって可能性もあるんだけどね?


まぁ、言わない方がいいだろう。


空気を読むのは大切な理だ。


嬉しそうにはにかむ笑顔を切ない気持ちで眺め、すぐに気持ちを切り替える。


「兎に角、両方、上手く運ぶわよ」


「ーーああ。同じ轍は踏まないから、安心しろ」


「そう?」


「ああ、絶対に踏まん」


力強く頷く彼に頷き返して、彼女はついっと扉を指で指し示した。


「以上、お話は終わり!次はゼクセンも連れてきなさい!後宮じゃ流石に無理だろうけど、あいつにも聞きたいことがあるから!!逃げたらただじゃ済まさないって言っといて!」


「ーーー本当に相変わらずだな」


苦笑する彼の脛を蹴り上げて、彼女はツンとそっぽを向いた。彼の顔が苦悶に歪んでいるが無視だ無視。


「ふんっ。当然でしょ!」


だが、こんなんでも、大切な幼馴染だ。


「ーーー済まないな、ありがとう」


彼からの、突然のお礼の言葉。


「〜〜〜〜〜っ!!」



その言葉に、彼女は顔を真っ赤にして、部屋から苦笑している彼を追い出し、荒々しく扉を閉めた。


本当に、面倒な奴らだ。


だけど同時にとても大切だから・・・ついつい手を貸してしまう。


特に、あの時ーーー必要な時に、手を差し伸べる事が出来なかったから。



『ーー忘れてとは言えない。忘れて欲しくない・・・。でも、でもね』



「ユーリ、あいつは、漸く思い出に出来たみたいよ?ーーーユーリが望んだ様に」


随分と長いこと口にする事の無かった、懐かしい愛称。呼べなかった名前。


止まっていた時間が、漸く刻を刻み出す。


儚く散った思いは、今、新しい花を咲かせている。


『でも、囚われて欲しくは無いから。彼にはもう言わない。愛してるとは、絶対、最後まで口にしない』


そう言って、本当に最後まで、好きな人の幸せを願って逝ったユーリ。


何となく、思う。


容姿が似ている訳ではない。


ユーリと彼女は全然似てない。微塵も。


でも、どことなく、彼女はユーリを思い出させる時がある。


考えて、考えてーーー。不意に気付いた。


「そうか」


似ているんだ。


彼女の纏う暖かな空気が、ユーリのそれとどことなく・・・。


ーーーそれに彼が気付いているのかは知らないし分からない。でも、だからって彼女をユーリに重ねて見ているのでは無いのだろう。


ユーリは過去の人物だ。


今の想いは、既にロゼリア様だけのもの。


ユーリへの気持ちは恐らく今も、色褪せる事なく、その胸の奥にあるのだろう。でも、それは過去としてだ。


既に彼は歩き出している。


ーーーだからこそ、同じ事を繰り返す訳にはいかない。


ユーリの死因は毒によるものだった。それに気付いた時には既に遅く、手の施し用が無かった。


恐らく、彼がはっきりとした行動を取らなかったからこそ、ロゼリア様はユーリの二の舞にならずにいる。


それが逆に色々と影で言われている要因ではあるけれど・・・。


でも、今までは・・・だ。


彼が気持ちを伝えられないのは、そういった事情もあって躊躇しているのだと思っていたがーーーまぁ、性格も問題だが、まさか、失言を伴侶に言っていたとは思わなかった・・・どうなることだろう。


これからのことを思うと、正直頭が重い。


私の方もこれから気を引き締めなければならないし・・・。


前途多難な日々が暫く続きそうだ。




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