変転、目指すべきもの
ーーー程なくして、レイファが部屋から退室したあと、ロゼリアは暫く一人にして欲しいと言って、寝室に引きこもった。
メルリは隣の部屋に控えている。
灯りを灯していない薄暗い部屋の中で、何をするでもなく、ロゼリアはベットに横たわり、ぼんやりと天井を見上げていた。
聞こえるのは、自身の息遣いだけ。
他に聞こえるのは窓越しに囀る小鳥の鳴き声以外、何もない。
太陽は頭上を通り越し、幾分優しい光を地上に注いでいる。そんな時間帯に、病人でもないのにベットに横になっているなど変な感じもするが、心はそれどころでは無かった。
グラグラと揺れる不安定な足場の上に立ち尽くし、ロゼリアの心は揺れ動く。
押し寄せる不安と羨望の波にさらわれないように、進んでは戻るを繰り返しだ。
一定の距離間を保ちつつ、なくならないそれ。
『好きですか?』
あの問い掛けに応えるべき言葉を、どうしても口にすることは出来なかった。
相手は陛下では無い。言ったって、構わなかった筈なのに・・・。
ーーー好きです、なんて。
あんな風に、素直に言葉に出来る事が羨ましくて仕方が無い。ただただ焦がれる。
レイファに会ったのは、まだ一度。
それも、時間からすればほんの数刻。
今からこれでは、この先一体どうなるのだろう。
ロゼリアはレイファが陛下の隣にいるところを見ていない。平静でいられるか不安だったので、陛下とは別々にレイファに会いたいと言ったからだ。勿論、そんな理由では好きだと言ってるも同然なため、その際は別の理由を述べたけれど。陛下が、レイファにどんな表情で、どんな風に話しかけるのかロゼリアは知らないのだ。この先きっと目にする機会はあるだろう。ーーーその時、陛下の態度の違いを自身と比べたりしてしまうはずだ。
そんな自分にも、情けなく感じてしまう。
嫌なら皇妃の座をさっさと明け渡してしまえばいいのだが、どうしても踏み込めない。元々、そう簡単に妃の座を下りられる訳ではないというのはあるが、何よりもーーー・・
まだ、隣に在りたい。
そう願っている自分がいるから・・・。
どうしても、思いとどまってしまう。
「結局、私は臆病」
自分の気持ちを伝える事を怖がり、傍に在れなくなる事を恐れ、ずっと前に進めない。
これでは駄目だと、理解しているのに。
それでも、どんなに拒もうと状況は移り変わる。時は止まってはくれない。
残酷なほどに無情。
この気持ちが募るほど、終わりは酷く。
この気持ちが募るほど、忘れるのは難しい。
それでも、時が癒してくれるのならば、変わらざるを得ないだろう。
それならば、
「少しずつ、変わりましょう」
ロゼリアは瞼を閉じて、浅く息を吐き出す。そうすると、さざ波が立っていた心が幾分、穏やかになっていくように感じられた。
・・・そう、少しずつ。
いきなり全てを変えるのではなく、少しずつ、今の自分を変えていく。
そうすれば、変える事が出来るかもしれない。
今の、自分を。
この、気持ちを。
だって、人は変われる生き物だから。出来ない筈は無い。
陛下と結婚し、ロゼリア自身も変わったように、この気持ちも消してしまう事は可能なはずだ。本当ならば、消したくは無い。
それでも、持ち続ける程にはロゼリアの心は強くは無いのだ。
初恋、だった。
初めて、人を愛した。
「我ながら、無謀な恋をしたものだわ」
自重気味に呟くと、思ったより大きく寝室に言葉が響いた。
・・・泣きたい。
ーーーけれど泣けない。
泣くことを、まだ許してはいないから。
全てが終わった時にのみ、あの日、陛下の為に出来る事をと、そう思った日に、ロゼリアが自身に嵌めた枷。
大丈夫、大丈夫だ。
まだ、始まったばかり。
今からこそがむしろこれこそが、私が陛下に出来る事の本題。
この気持ちを無くし、心から、彼らを祝福し、身を退く。
それが、陛下にとっては不本意な妃であろう私が出来る、最後の事柄。
「・・・そう、最後、これで、最後」
だから・・・
「頑張らないと」
そう今はまだ
「頑張らない・・と」
コロンと身体を横向きにして、全身を丸める。
ロゼリアは両手を握りしめ、その腕に顔を埋めた。
枷は未だ、深く手首に嵌ったまま。
この先、行き着く先は一つ。
その先に着いたら、その時はーー今、我慢していた分、沢山泣こう。
沢山、笑おう。
『妃』
耳に残るこの声も、その時には薄れているだろうけれど、思う存分、泣こう。
だからその時までは
この枷が外れるまでは
ーーー強い自分であり続ける。
今日はここまでです。
拙く読みにくい小説だと重々承知していますが、こんなお話でも応援して下さり有難う御座います。
感想嬉しいです。作者非常にチキンなので、感想のページを開く前、心臓バクバクいってます。こっええーーー!!何か書かれてたり・・・うう・・胃が・・・みたいな(笑
応援や楽しみにして下さる方々の為にも、作者も頑張ります!本当にどうもです!!