相対
「失礼致します、お初にお目にかかります、皇妃様。私、レイファ・オルゴールと申します。どうぞ、お見知りおきを」
そう言ってにっこりと眼前で微笑み頭を下げる美女に、ロゼリアは微笑みを向ける。
「ええ、こちらこそ初めまして。顔をあげて頂戴、レイファ様」
「有難う御座います」
その姿に思わず見とれていたロゼリアがハッとして言うと、レイファはまたにっこりと笑みを浮かべる。
成程。
ロゼリアは一人でに頷いて、その花のように艶やかな笑みを見つめた。
これは陛下でなくとも惚れるのではないかしら。間違う事の出来ない妙齢の美女である。
緩く波打つ黄金色の髪、両の瞳は深い瑠璃色。背はロゼリアと比べるとやや低い。そしてこちらが羨ましくなるほどのプロポーション。出るべきところは出て、引っ込むべきところは引っ込んでいる。
見事、という他ない。
ロゼリアの容姿と比べるのも失礼というものだ。メルリあたりに言ったら間違いなく否定されるような言葉を思い浮かべながら、ロゼリアはレイファを見つめる。
勿論、睨まれていると思われると後々困るので、緩く微笑んだまま。
「やっとお会い出来ました。陛下にお話を伺って、一度、皇妃様にお会いしたかったのです」
「ーーまぁ。陛下が私の事を?お恥ずかしい。・・・それとレイファ様、私の事はロゼリアとお呼びになって」
「有難う御座います」
そう言ってぺこりと頭を下げる。
なかなかに、態度の丁寧な方だ。
「立ち話もなんですので、お座りになって?」
部屋の入り口にいつまでも立たせておくわけにもいかず、ロゼリアはレイファを部屋へ招き入れた。
「レイファ様?」
ロゼリアが入室を促しても、レイファが入口から動かないため、訝しげに名前を呼んでみる。
「ーーいいえ、何でもありませんわ」
そう言いつつも何かを警戒しているかのように部屋に入ろうとはしない。
何かを・・・。
私、もしかしなくても警戒されてるとか?
・・・会ったばかりで、それも変よね。気にしすぎだろう。
内心ハラハラしながら、レイファが部屋に入るのを待つ。
すると、レイファが一瞬チラリと右の方を見て、ロゼリアの部屋へと足を踏み入れた。
「ーーー失礼いたします」
レイファが部屋に入ると、メルリが扉を閉めてお茶の準備をし始める。
ロゼリアは部屋のテーブルに座ると、こちらを見ているレイファに席を勧めた。
彼女はチラリと閉まった扉の方を振り返り、再びこちらに視線を向けると微苦笑を浮かべて、
「有難う御座います」
と小さく頭を下げた。
レイファが礼を言って席に着いた途端、部屋の中に沈黙が漂う。暫く互いを見つめあいながら、ロゼリアは顔を引きつらせてしまわないように心掛けた。
そんなに見つめられても困るのだけれど・・・一体どうしたものか。
「あ・・・あの?」
ついつい気圧されながら聞くと、レイファが慌てて目線を外した。
「あ、申し訳御座いません。私ったら不躾に・・・」
そう言って恥ずかしそうに俯くと、片手で口元を覆う。
かと思うと、いきなり顔を上げてロゼリアを凝視し、次いでソワソワと辺りを見回した。
「一つお聞きしたいことがあるのですけれど、お聞きしても?」
そして好奇心に瞳を輝かし、レイファがロゼリアの方に顔を近づけてくる。
内緒話でもするのだろうか?
「え・・・ええ」
戸惑いながらロゼリアが頷くと、彼女はパアッと顔を輝かせた。
「本当ですか!?ーーじゃ、聞きますけれど、陛下のこと、どう思っておられますか!?」
「へ、陛下?」
「はい、好きですか?」
ーーな、何と答えればいいのかしら??
これは何?もしかしなくとも私を試しているのかしら・・・。
今一、質問の意図が掴めない。
「お嫌いですか?」
「ーーーいいえ!」
「では好き?」
「・・・・・」
どうしよう。
好き。
愛している。
だが、それを目の前の彼女に言って、どうしようというのだろう。ーーいや、どうにもしないが。
第一、陛下が心を向けている相手にこちらの気持ちを言っても、虚しい気持ちにしかならない。
陛下が愛しているのは、ロゼリアではない。
目の前の、彼女なのだ。
・・・牽制、だろうか。
「ーーーあ・・レイファ様はどうなのです?」
答えられずに、ロゼリアは質問を返す。どんよりと、心が曇っていくのを感じながら。
「・・私は、そうですねーー・・・」
レイファは白いテーブルに視線を落として唇を開いた。
「ーーー好きですよ」
暖かい響きと共に、言葉を紡ぐ。
「好きです。人として」
瞬間、ロゼリアは微笑んだ。
完璧に、皇妃の顔で。
「ーーーそう」
ガンガンと頭の中でこだまする反響に目を瞑り、穏やかに笑う。
レイファが息を呑む気配がした。
「ロゼリア様?」
「はい?」
微笑んだまま小首を傾げると、レイファはじっとロゼリアを見つめてくる。
ロゼリアも動じずに相手を見つめ返すと、瑠璃色の双眸が揺らぐと同時にこちらの視線から外された。
「いいえ、何でもありません」
「ーーーそう?」
結局、何だったのだろう。
あの質問といい、先程のあの双眸・・・何かを探るような、そんな目。
疑問に思い、テーブルに視線を落としたロゼリアの目の前に、湯気が立ち上るミントティーが入れられたカップが、静かに置かれる。
顔を上げるとメルリがこちらを心配そうに見つめていて、ロゼリアと目があうと微笑を浮かべた。
「ロゼリア様、どうぞ。レイファ様も」
メルリはそう言って、ロゼリアの反対に座るレイファにも微笑んで、ミントティーを置く。
「あら、有難う、メルリ」
ロゼリアはカップの中で揺れるミントティーを眺めた。隣でメルリが軽くお辞儀をすると、しずしずと後ろへ下がる。
「メルリ?」
「ーーー?」
不意に、ポツリとレイファが呟いた。
ロゼリアは顔をあげる。
「ええ、こちら、私に仕えてくれている娘で、名をメルリ・ラダーと」
「ご紹介に預かりました、メルリ・ラダーと申します」
メルリがぺこりとお辞儀するのを見ながら、レイファは目を細めて呟く。
「ラダー・・・」
何かを思い出すかのように、レイファが何度も繰り返し呟くのを、ロゼリアはメルリと交互に見つめて首を傾げた。
「・・・レイファ様、メルリがどうか?」
だが、彼女はゆるゆると首を振ると、何でもありません、とメルリを見つめたまま言う。
それ以上は何も言わない。
不思議に思ったが追求するほどでも無かったので、手に持ったカップを口につける。
「.....主従揃って」
「ーーーえ?」
何事か微かな声でレイファが囁く。聞き取れなかったロゼリアが不思議そうに声をあげると、彼女は罰が悪そうに一瞬、顔を顰めた。
「いいえ、何でもありません」
何もかもを隠してしまう大輪の花。
そんな笑顔を向けられたロゼリアは、腑に落ちないながらも、頷くしか無かった。
それにーーー
正直、
上手く会話を成せているのかわからない。
『好きです。人として』
先程からグルグルと頭の中で響く声。
折角、陛下と共に彼女との顔合わせをするところを、色々と理由をつけて一人にしてもらったというのに・・・結局、悩む羽目になるとは。
神様とは、何て意地悪なお方だろう・・・。
側室、美人さんです。
ここであれ?と気づきました。ロゼリアと他の面々もですが、書いてない。容姿の描写が。
まぁいいかとも思いましたが、レファをロゼと比較的してもわからないですよね。
ということで、おいおい登場人物の紹介?のページでも一番上に載せときます。今出てる人だけですが。ページ変更とか出来るのかな?その場合は、途中にページが載っちゃいますが。