暗躍する影
暗い室内・・・。
どこもかしこも闇に覆われたその部屋の中で、突然小さな灯りが灯る。
白い蜜蝋に灯されたその炎が、酸素を取り込んで大きくなった。ーーーとはいえ、それでも部屋全体を照らす程ではなく、僅かばかり周辺をぼんやりと照らすのみ。
「集まったか」
その部屋の中で、蜜蝋に火を灯した男が闇に紛れて呟くと、辺りから互いに頷き合うような気配が感じられた。
男も頷き、ぐるりと部屋の中を見渡す。
「ーーー何人か足りないようだな」
「確実な者のみです。横に話を流されては困りますから」
「ーーふむ。成る程」
淡々と説明する声に相槌を打ちつつ、ザッと部屋の顔触れを確認する。
ーーー3人か。
思ったより、少ない。
「・・・だが、まぁこんなものか」
感慨無く漏らし、僅かに顔を顰める。
「早いところ行動に移すべきかな」
その声に応えたのは、まだ歳若く、声にハリのある青年。
「慎重になっていますが、このままだと少々面倒です」
部屋の隅であくびを堪えているのを軽く睨むと、やれやれと言った風に肩を竦めた。
「あっちはあっちで、我らを牽制したいのだろうな」
つまらないものだ。こちらが黙っているとでも思っているのか。
忌々し気に呟くと、青年が、ああ、と声を漏らす。
「ーーーそういえば」
「なんだ?」
「いえ、後宮に側室が入ったそうですね」
相手が何を言いたいのか分からないため、男は頷くに留める。
「陛下が執着しているらしいですね?」
「・・・・・」
面白い、と言いたげな声音に、男は黙り込む。
執着ーーー?あの、男が?
死んだ女の影をひたすら追い続けていた姿が脳裏に浮かび上がる。
「まだ、分からん」
吐き捨てるように男が言うと、青年はクスクスと身体を揺らした。
「ーーじゃが、妃はどうなる?」
一番年配の男が投げた質問に、全員息を止めて、笑う。
「あれこそ道化もいいところだ」
「まぁ、お払い箱になる事も無きにはあらず・・・ですかね?」」
「・・・難儀な」
「難儀?でしゃばった女の末路がどうなろうと知ったことか。己の身も弁えず愚かしい」
弱り切った王。それを立ち直らせた女。
現在の、皇妃。
位の低い、男爵家の娘だったあの女を選んでしまったのは間違いだった。大人しそうな顔をしているのに・・・飛んだ誤算だ。
「顔に出ていますよ」
「煩い」
「ふふっ」
噛み付くように怒鳴ると、相手がクスクスと笑った。部屋が暗い為、それぞれの機微な表情までは詳細に知ることは出来ないが、相手の大体の表情と声色でその胸中を知ることは容易だ。
特に、相手は隠そうともしていない。
「不愉快だ。笑うな」
「これはすみません」
そう言いつつも、未だに面白そうだ。
気にするだけ無駄か。・・・全く。
「そんなことより、これからどうするんです?」」
「そうだな・・・取り敢えず様子見だろう」
「だけど先程行動に移すかと・・・」
「確かに」
「・・・じゃが、今はまだ早いじゃろうて。右も左も把握しておらぬ。まして、此度の側室の事が本当ならば、打つべき手筈も変わってくるのではないかな?」
「ーーーその通りだ」
「成る程、では・・・」
「動かん。気が熟すまでな。今動けば、尻尾を掴まれて終いだ」
「今は尻尾を出すわけには行きませんし・・・仕方ありませんか」
「勝手に動くなよ?今動いてしくじっても、助けんからな」
「・・・わかってますよ」
飄々とした具合で頷くのを眺めやり、男は今一度ぐるりと視線を巡らせる。
「ーーー異論はないな?」
「ええ」
「うむ」
返事に両目を閉じて、一拍おく。
「では、本日はこれにて解散といこうか」
厳かに告げて、男は燃え続ける蝋燭から垂れる蝋泣を見つめ唇を歪めた。
ーーー願わくば、この姿があの女に重なるといい。
それぞれが部屋から出て行ったのを確認し、男は揺れる灯りに息を吹きかける。
ボボッ
激しく左右に揺れ動く小さな炎。
それに目を細め、男は今度は強めに息を吹きかけた。一瞬大きく揺れた炎は、次の瞬間霧散する。
そこから漂う匂いに眉を寄せ、男は誰も居なくなった部屋から出て行った。
小さく扉の閉じる音がして、誰も居なくなった部屋に静寂が漂う。
ポタタッ
静かに、蝋燭から雫が垂れる音がした。
前投稿から、日にちが結構経ってしまいましたが、続きです。待ってくださっていた方、申し訳ないです。
最近忙しくて書く暇が・・・。うう(; ̄O ̄)
文章が変わっているようなそうで無いような。なるべく同じような文章を心掛けたつもりですが、??、と思われませんでしょうか心配です。