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来るべき日の為に

「一体何をしでかしたんだ」


壁に寄りかかったまま、リヴァルトはゼクセンを横目で見やった。


「いやぁ、うん」


ゼクセンがニヤリとほくそ笑むのを見て、少々腰が引けたが、耐え凌ぐ。


我が幼馴染ながら、何を考えていることやら・・・きっと碌なもので無いのは見たら分かる。


それだから余計に嫌なのだ。


「うんうん」


一人でニヤニヤしながら、何故か手を閉じたり開いたりして、最終的には、その掌に唇を落とす。


ーーーこいつ、本当に大丈夫か?


怪訝そうに見ても、ゼクセンはさして気にした風もなく、取り敢えず放っておこうと内心で思った。


わざわざ藪を突つくのも阿呆らしい。


それにしても、こいつがこんな顔をするのは珍しい。何だろうか、この幸せを噛み締めているように見える表情は・・・。


普段女相手に見せる顔とは明らかに違う。


ーーーあの侍女、メルリとか言ったか、難儀な奴に目を付けられたものだ。


他人事ながら哀れみを感じる。


まぁ、あの侍女の顔からすると彼女はゼクセンを何とも・・・どころか嫌われてるな、あれは。


しかしどんなに嫌がろうと相手が悪い。


なんせゼクセンだ。諦めるとは到底思えないんだが・・・。


まぁなるようになるだろう。




「何考えてんです?」


「ああ、可哀想な仔羊を心配していただけだ」


「仔羊?」


首を傾げるゼクセンに溜息を吐いて首を振る。


「別に何でもない」


「ーーーそうですか。ですが陛下、狼自身も行動に移らないと、仔羊なんか手に入らないですよ」


そのオオカミとはお前のことか、いや、この場合は聞く必要もないな。


「大変だな」


その言葉は、あの侍女に向けての言葉だったのだが・・・。


「ええ、大変でしょう?」


隣でニッコリと爽やかな笑顔を浮かべるゼクセンに、リヴァルトは両肩を落として溜息を吐いた。


相変わらずの性格をしている奴だ。自分の性格を分かっている癖にのらりくらりと・・・。


リヴァルトは殴りつけたくなるような衝動に駆られそうになったために、慌ててその笑顔から視線を外し、ロゼリアと侍女が去っていった方向を見つめた。


知らず知らず、彼の唇から落胆の吐息が漏れる。


ゼクセンがチラリとこちらを見たが、結局何も言わなかった。


「ーーー仕事に戻る。なにかあれば呼べ」


「はいはーい」


ひらひらと片手を振って、ゼクセンが執務室へと入って行くリヴァルトを見送った。





パタン


扉が再び閉じられると、辺りを支配するのは物音一つしない静寂の空間。


ゼクセンは壁に寄りかかり、腕を組んで天井を見上げた。


リヴァルトは椅子に腰を落として頭でも抱えていそうだな、あの様子じゃ。


あの皇妃様も、難がありそうだからなぁ。


ニコニコと微笑むその姿からは、どんな面持ちでいるのか掴めない。


もう少し、探る必要がありそうだ。


もう少ししたら新しい側室がこちらに来るが、その時どう思い、どんな風に動くのだろう。


あの様子じゃ、にこやかに微笑んでいそうな気もする。


皇妃としては最高の態度ではあるが、しかし・・・。


こんな風に考えていても、状況が止まっている今ではどうしようも無いことはわかっている。


それでもーーーー。


「焦るよなぁ、やっぱり」


大変なのは一体どっちだ・・・リヴァルトの奴。


ま、あの言葉自体は、メルリに向かっての言葉だろうが.。全く失礼な・・・。


大変なのは俺だろうに。


それにこの事を比べるならば、明らかにリヴァルトの方が大変なような気がするのだが・・・。これからまた一波乱ありそうだし。


まあいいか・・・。


兎に角、問題は山積みだ。


重臣達がどう動くのかも気にかかる。あいつらは基本的に今の皇妃を払い落としたがっているからな・・・。全員って訳では無いのが責めてもの救いかもしれないが。


自分たちで今の座に伸し上げておきながらおかしい話だ。


全く、ここにいると、退屈だけはしなさそうに無い。


「いいことなのか、悪いことなのか・・・わからないな」


ゼクセンはそう呟いて苦笑した。








王都から離れたとある屋敷ーーー・・・。


その一角の部屋で、妙齢の少女が荘厳な置物と調度品に囲まれるようにして立っていた。


傷一つない白魚のような細い指先には、質の良い便箋が握られてある。


と、いきなりその手が震えだし、握られていた便箋が、ぐしゃりと握り潰された。


その細い体も、同時に小刻みに震え出す。


「あの、馬鹿ーーーー」


顔をあげた少女の瞳が苛烈に煌めき、怒りもあらわに叫ぶ。


「絶対に殴ってやる!!」


「ーーー落ち着こう」


答えたのは若い男だ。


少女の声に、部屋の入り口から顔を覗かせたその男は、困ったように顔を歪める。


「これが落ち着ける訳ないでしょ!!」


握っていた便箋を激しく床に叩きつけ、少女は忌々しげに舌打ちをした。


貴族の女性にとってあるまじき行動だ。しかし 少女は特に気にせず、ウロウロと早足で部屋の中を徘徊する。


そしていきなり顔を男に向けると、にっこりと花が開くような笑みを浮かべた。


床に転がった便箋を拾おうと腰を屈めていた男は、その笑顔に不穏な気配を察して動きを止めた。


そのままの体勢で、顔だけをこちらに笑みを浮かべる少女の方へと向ける。


なんだか凄く嫌な予感がしたのだ。


「フレア、私少々出かけてくるわ」


「出かけるって・・・」


「勿論、阿保を殴りに!!」


止めても無駄だとはわかっていた。この少女は一度言ったら絶対実行するのだ。


だから彼は、勇ましくファイティングポーズを構える少女に、冴えない笑みを向けて言った。


「頼むから、節度ある行動だけには気をつけてくれ」


無理だと分かっていても、言わずにはいられない。


「問題ないわ!心配しないで!!」


少女はそんな男に軽く拳を振り上げてウインクした。


「ごふっーーー!!!」


「きゃあ!?フレア!?」


当てるつもりは微塵も無かったのだが、腰をかがめていた男の顎に、見事に入ってしまった。


見かけによらず力が強いその腕に、男がもんどりを打って床を転げ回る。


「きゃーーーー!!ごめんなさい、しっかりして、フレア!!」



のどかな昼下がり。


屋敷中に、悲痛な呻き声と、慌てふためく少女の声が重なって響き渡った。




はい、てことで出てきました。


彼女の名前はまだ先まで出てきませんが。意外にガサツなキャラになりそうな気が・・・あれれ??こんな筈じゃ無かったのに!!


ほほほとか笑わなそうです。軌道修正するべきか・・・。

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