プロローグ
初めて出会った貴方は、とてもとても冷たい目をしていた。
「お前を愛する事は無い」
皇妃としての私しか、貴方は必要とはしないと、開口一番に言われたのを今でも忘れられずに覚えている。
本来、貴方の傍にいたのは私では無かったから、貴方にこう言われても仕方がないと思ったわ。
貴方は未だに忘れられないのでしょう?
まだ、愛しているのでしょう?
他でもない、彼女の事を。
先日亡くなられたという側室が、彼の寵愛を一身に受けていたと聞いたのは、ここに来てすぐの事で、本当ならば、今日、ここで微笑んでいたのは彼女だった。
貴方もきっと笑って彼女の手を握ったことでしょう。
でも、彼女は死んで、代わりに私が仏頂面の貴方の隣にいる事になってしまった。
貴方はいつも沈んでた。心の拠り所を失い、絶望に目を塞いでしまっていた。
私は思う。
私が貴方に出来る事はあるだろうかと。
ボロボロになった貴方に、私が出来る事は………。
「陛下、お早うございます」
「陛下、お休みなさいませ」
「陛下、今日はとってもいい天気ですわ」
「陛下、ご機嫌が優れないのでは有りませんか?」
「陛下」
「陛下」
「陛下」
誰もが陛下を腫れ物のように扱う中、私はせっせと、人形のような貴方に呼びかける。
貴方からの返事は「ああ」だとか「そうか」だとかばっかりで、会話にさえならないけれど、それでも私は根気良く話しかけ続けた 。
貴方は私を愛さない。
でも、それなら、私以外では……?
貴方には休息出来る止り木が必要だと、私は考えたの 。
彼女はもういない。ならば、別の方を愛するようになるまで、貴方が、人を再び愛することが出来るようになるまで、彼女の代わりに私が貴方の傍にいます。
貴方はいい顔をしないだろうけれど、あなたの妻として、これくらいしか私が出来ることはないだろうから。
怖がらないで
泣かないで
絶望に落ちてしまわないで
私がずっと、傍にいるから。
貴方が再び、人を愛するその日までーーーーーーー。