水の上を
その日もいつもの様に朝の満員電車に揺られていた。
システム開発現場へ出勤するために当時乗っていた路線の、某駅から少し出たところには大きな川が流れており、電車は川に架けられた鉄橋を渡ってゆく。その日も電車は鉄橋に差しかかり、ゴトンゴトンという大きな音が車内に響きだした。
(今日は朝イチで…)
その日の仕事を考えながら、ドアのすぐ前に立っていたため鉄橋の下を流れる川面をぼんやりと眺めていた。
電車はすでに川の中頃を通過していた。と、その川面の真ん中に
人がいた。
(……え?)
それは肩にかかるくらいの髪の、季節は真冬だというのに白っぽいキャミソールの様な衣装一枚の女性の後ろ姿だった。背を向けていたので顔はわからなかったが、少なくとも腰の曲がった老婆ではない、華奢な体格の女性だった。
その姿が、車窓から十メートル程斜め下の川面を、素足で飛び歩く様にふわんふわんと渡っていた。
女性の足元は中洲などにはなっていない、まさしく川の流れのど真ん中である。履き物を履いていない女性の足の下に、小さな丸い波紋が広がっていた。
薄い金色の冬の朝日を受けて、キャミソール一枚の後姿は川面にてんてんと波紋をつけ、川を飛び渡って行った。
満員電車の中、川面を渡る姿に気付いたのは私だけの様だった。車内はいつもの朝と同じ、静かな満員電車のままだった。
電車が轟音をあげて進むにつれ、川岸の雑木が目の前を遮り、川面は見えなくなっていった。




