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私が彼の最愛になるまで、でも、実は……  作者: 沙霧紫苑


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2/2

私が彼の最愛になるまで、でも、実は…… 2話(全2話)

短編二つ目

こちらで終了です。


次は子らの世代で……

 一年後、私はすでにアウローラ・シオナールとなっており、少しだけ膨らんだお腹をさすっていた。


「アウローラ、働き過ぎはよくない。ちゃんと休みなさい」


「あなたこそ、殿下の婚礼の件でお忙しいのでしょう? 無理して帰ってこなくてもいいのよ」


「なんて冷たいことを言うんだ。君と我が子に会いたいだけだ。ところで、さっきのは誰だ?」


 ルキウスが帰ってきたときに、私の編集担当者に会ったのだろう。彼女は、最近、前任から引き継いだばかりで、彼と会うのは初めてのはずだ。


「新しい担当者よ。藍の面影の件でね。舞台の脚本も書くことになったわ」


 藍の面影は、私が幼い頃からライフワークとして書いていた物語だ。リヴェラ様とセラス様をモデルにした恋物語は、幼少期から始まり、二人が女神たちの前で永遠を誓うまでを綴る。

 既に物語としては完結しており、まもなく行われる殿下の婚礼に合わせて、出版予定。ついでに人気取りだとはリヴェラ様の談だが、舞台化をしてさらに妃のすばらしさを広めたいのだそうだ。

 私はそこに別の意図もありそうだと思ったが、敢えて火の中に飛び込む真似はしない。

 あぁ、と疲れたようなため息を吐いたルキウスは、リヴェラにも困ったものだと首を振った。


「まずは、安心して君に子を産んで欲しいだけなんだがな」


「大丈夫よ。適度に動かないといけないってお義母様が仰っていたわ」


「あの人は、父上と共にギリギリまで訓練に出ていたんだ。あんな化け物と君が同じなわけがないだろう……」


「誰が化け物だって?」


 その時、扉の所から声がして、開かれたそこにはルキウスの母が立っていた。

 彼女は先の将軍で、ルーメン中に知られる女傑だ。


「アウローラ、元気そうで何よりだ。愚息の言うことなど気にするな。お前は好きなことを好きなだけおやり」


「はい、お義母様」


 視界の端で、頭を抱えるルキウスの姿があった。

 くすりと笑うと、お腹の中で我が子も笑った気がした。



 今は、ルキウスに手を引かれながらシオナール邸の広大な庭園を共に歩いている。

 海に近いこの場所では、潮風に花の香りが乗っている。その香りはとても懐かしく、軍の訓練を遠く眺めていた頃を思い出すのだ。


「ねぇ、あなた。私ね、ずっと聞きたかったことがあったの」


 ん、と促すような視線を向けられ、私は続く言葉を少しだけ躊躇う。


「えっと……どうして……違うわ。いつから、私のこと」


 好きだったの? と問おうとした言葉は、彼の唇に遮られた。

 軽く、触れるだけのそれはすぐに離れたが、私が視線を上げると熱のこもった瞳があって、思わず息を飲んだ。


「初めて会った時、君はお茶会のあった庭園の片隅で本を読んでいた。と、思ったらペンを取り出して、何やら書き始めた。その視線の先にはリヴェラがいて、あぁ、この子はリヴェラのことが好きなのかと、思った。でも、ふと君が何を書いているのか気になって、そっと後ろに立って、盗み見たんだ」


「あ、あの時って……」


「そう、君はじっとリヴェラと、セラスを見て一心不乱に文字を書き綴っていたね。内容までは、ちょっと勇気がなくて……失礼だと思ったし、詳しくは見なかったんだけど、俺の予想が外れたんだと分かって、何故だか嬉しくて」


 五歳のお茶会が鮮明に思い出されていく。

 私はちょうど歴史の記録者としての力が目覚めたばかりで、何かを残さなくてはいけないと焦っていた。時の王と同じ年代に生まれたのなら、彼のことを遺さなくてはと、彼のことを記録すると決めたのが、あの場所だった。

 だが、すぐに私の意識は別の者へと移ってしまった。王となる人の隣に立つ、少しだけ年上の少年に……。


「何故だか分からないけれど、あの時に直感したんだ。君が、俺の運命だと」


 同じだった。

 彼の姿を見た瞬間に心が奪われた。

 運命だと、思った。

 けれど、自分に自信のなかった私は、彼の隣に立つ資格はないと勝手に思い込み、遠くから眺める場所を選んだ。

 それでも、私を見つけてくれたのは、やはり、ルキウスだった。

 あぁ、もう、認めてしまおう。


「私も、私もあの時に、あなたが私の運命だと思ったの。けれど……っ」


 自信がなくて、と、続くはずだった言葉は、また彼の唇にさらわれた。


「けれどは要らない。君が俺の運命で、俺が君の運命なら、その他のことは些細なことだよ、アウローラ」


 私が彼の最愛になるまで、でも、実は……

 出会ったときから、最愛でした。




 ――――おまけ


「あぁ、これは拷問か? 愛しい妻の告白を聞いたのに、君とそれ以上の情を交わせないだなんて……。生まれる前から息子は俺の壁となるのか。あぁ、なんてことだ」


「あら、いつからこの子が息子になったの?」


「……教えない」


「まぁ、拗ねてしまったのね、可愛い人」


「そんなこと言っても教えない」


 後に、貴族としては珍しい子沢山としても有名になったこの代のシオナールだが、晩年になっても夫婦の仲は睦まじく、子らも敢えて邪魔をしようとはしなかったとか……。



ご覧いただきありがとうございます。

少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです。

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