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偽り悪女




 彼の言う通り、企みならある。


 もう二度と北ソルディア帝国に悲劇が降りかからないように、その原因の一つとなったシュトラウス王家を内部から弱体化、または何かしらの変革を起こさなければというものが。


 そのためには、無能な亡霊王女のままではなにも行動に起こせない。だから王女たちの前で魔法を使った。もう今までのようにはいかないと知らしめるために。


(ソルディアの滅亡を阻止して、愛する人たちの未来を守りたい。でも今の状況では夢のまた夢。私には何の後ろ盾もない。すべてを叶えるための基盤も、味方もいない。それなら……)


 ごくりと唾を飲み込み、私はある考えにたどり着く。

 それからドルウェグに向き直り、姿勢を正して言葉を発した。


「私の企みを聞いてくださいますか、ドルウェグ様」

「…………」


 あえて笑みを浮かべた私に、ドルウェグが無言の許可で返す。


「実は常々思っていたことです。ここ数年、朝刊の記事に載る政策の取り組みを拝見していましたが、どう考えてみてもシュトラウスの王に最もふさわしいのは、ドルウェグ様だと」

「なんだと……? お前、自分がどれほどのことを口にしているのか分かっているのか」

「ええ、もちろんです。ですが、ドルウェグ様もそうお考えなのでは?」


 大丈夫。私の発言をドルウェグが国王の耳に入れることはない。

 だってそれは、十年後の彼が教えてくれたことなのだから。


 国王はドルウェグを、そしてドルウェグは国王を、お互いがお互いを軽んじている。

 なによりこの先、国王に手をかけるのはほかでもない彼であると、私は知っているのだ。


 ドルウェグは近い将来、国王の暗殺を決行し、血塗られた玉座を自分のものとした。それによって急遽即位が決定し、水面下で手を組んでいた南カルト帝国と共に北ソルディア帝国へ侵攻を開始する。


(全部、全部、あなたが声高々に教えてくれたこと。だからプライドの高いあなたは絶対に、私を駒として利用する選択を取る)


 目には目を歯には歯を、悪には悪を。

 それはとある物語で読んだ文言。このシュトラウス王家では、私はそれをなぞらえないと生きてはいけない。

 弱さにつけ込まれ、足元をすくわれる訳にはいかないから。


 本心を無理に偽ってでも新しい自分を作り上げなければ、愛するすべてを救うことなどできない。


 幸いにもその手本になる人たちは、時が戻る前に受けてきた経験を含めて、目の前にはたくさんいた。

 高圧的な口調も、堂々とした仕草も、他人を下に見る態度も。すべて心と体に深く残っている。



『君が考え抜いて決めたことを、俺がとやかく言う気はない。いくらでも話は聞くが、決意を揺らがせるようなことはしない。……ん、なぜそこまで言い切れるかって? 分かりきったことを言うんだな』


 ……クラウド様。


「今はまだ私のことなど信じられないでしょう。分かりきった世辞や媚び売りだと思っていただいても構いません。ですが、これだけは胸に留めて欲しいのです。私がこの先、シュトラウスの王に望むのはドルウェグ様であると」


 あなたの命を救いたいがため、あなたの命を奪った者の下につくことを、どうか許して。


『君が下す決断はいつも誰かを慮ったものだ。だからこそ俺は、君を信じている』




 ――ルスタン大陸歴714年、冬。

 シュトラウス王国王城、玉座の間。


「ち、違う! 違うんだ! これはなにかの間違いだ! 私は後ろめたいことなどなにもしていない!!」

「後ろめたいことなど、なにもしていない? それは本当? スアロ子爵、ここをどこだとお思いです?」

「え……」

「ここは、シュトラウス王国です。魔導師至上主義、魔法の才ある者が何よりも尊ばれる我が国において、由緒ある魔導家系のスアロ子爵ともあろう者が非魔導者の女と関係を持ち、あろうことか秘密裏に子をもうけた事実。王国魔導師法では第二級クラスの重罪にあたります」


 手足を拘束され、床に這いつくばるスアロ子爵は、こちらをキッと睨みつける。


「なぜ、愛するものと結ばれたいと願うことが罪になる。なぜ、愛する子を育てることが罪になる。この国は狂っている。何が魔導師至上主義だ!」

「…………発言の証拠は十分ね。陛下、ご覧の通りスアロ子爵はシュトラウス王国を担う魔導師家門当主としてふさわしくはありません。妻子共々、私のほうで処分する許可をくださいますか?」

「許す」


 国王はすでに興味をなくした様子でスアロ子爵から目を逸らした。

 その後、脇に控えていた兵士らにスアロ子爵を牢へ連行するように指示を出す。


「待て! お前がいなければ私たちは今も平穏に過ごせていたんだ! お前のような悪女さえいなければ…………レティシャ・クレプスキュル・シュトラウス!!」


 背後から聞こえる叫びを無視して、私は玉座に座る国王を見上げる。


「あの者、無礼にも私を呼び捨てました。気分が悪いので今の発言も王族侮辱罪として加えてよろしいですか、陛下?」

「ふ、よかろう」


 にっこりと笑みを浮かべる私に、国王は仕方がないと言いたげな顔をしながらも、機嫌よく頷いた。





《第一章 終》


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