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対話



「……!? はっ、はあ、はあ」


 全身がビクッと痙攣し、驚いた私はすぐさま飛び起きた。


 なんだかまたひどい悪夢を見ていた気がする。

 ぼんやりとした意識を徐々に覚醒させながら、私は周囲をゆっくりと確認した。


「ここは……」


 視界に広がるきらびやかな室内にぱちぱちと瞬きを繰り返す。

 どうやら私は寝台に寝かせられていたらしい。だけど、どうしてこうなっているのか記憶があやふやだった。


「ようやくお目覚めか」

「!?」


 寝台横から聞こえた声に、すぐさま視線をそちらに向ける。

 そこにいたのは、備え付けの柔らかそうなソファに深く腰を下ろしたドルウェグだった。


「ド……ルウェグ……さ……ま」


 口の中が乾いた状態で発せられた声は、自分でも驚くほど弱々しく、頼りない。

 そんな私にドルウェグはそっと目線を送った。


「なぜ俺がここにいるのか、そもそもここは一体どこなのか、と言いたげな顔をしているな?」

「……っ」

「ここは第三王女宮の主寝室。三日前に共有宮の談話室で倒れたお前が運び込まれた場所だ。俺はお前の意識が戻るのを待っていた」


 シュトラウス王家では、王子、王女に専用の王宮が譲渡される。王子なら王子宮、王女なら王女宮と区別され、さらに第一王女宮、第二王女宮と居住者の肩書きによって名称付けられていた。


 でも、無能な王女である私には専用の王宮が与えられることはなく、旧管理塔が寝起きする場所だった。


「……第三王女宮なんて、このシュトラウス王宮にはないはずです」


 私はおそるおそる口を開く。

 ドルウェグと目を合わせるだけでも体が硬直してしまう。だけど状況を理解するには、私が目覚めるのを待っていたという彼に尋ねるのが今は一番いい。


「ああ、第三王女宮など今まではなかった。だが、お前がシュトラウス王家にふさわしい人間となったからには、相応の待遇を用意する義務がある」

「私が、シュトラウス王家にふさわしい……?」


 ちょっと……いや、すごく嫌である。不快だ。


「王女たちからある程度の話は聞かせてもらった。光魔法に加え、あのカッサンドラが使役していた黒豹の意識を覆し味方につかせるほどの強力な使役魔法を発動させたと。特殊属性に独自属性、王族ならば属性は三つ以上の習得が理想だが、すでに基本属性三つ以上の価値に値する」

「……」

「すでに陛下の許可は得ている。お前はシュトラウス王家の第三王女として正式に認められた」


 魔導師至上主義のシュトラウス王国にとって、魔法の実力は地位に大きく影響する。


 今までは無能だったから冷遇するしかなかったが、魔導師としての実力が発揮された以上はそうする必要もなくなったと、そう言いたいんだろう。


 ああ、嫌になる。

 こんなにも嬉しくない手のひら返しがあるだろうか。


「だが、実に不可解だ」


 ドルウェグはソファから立ち上がると、一歩前に出て私を見下ろす。

 探りを入れるような瞳に捉えられ、私はぎゅっとシーツを強く握った。


「無能であったお前がなぜ、あれほどの魔法式を扱えた? どこで習得した? いつからそれを隠していた?」

「それは……」


 本当のことを言う気はない。でも、納得させるための理由は必要だった。


「夜な夜な、王宮図書館で魔法式の理解を深めておりました。ロッドがなかったので実戦形式での練習はできませんでしたけど、学ぶための材料は豊富にありましたから」


 震えそうになる声を必死に堪える。

 悟られてはいけない。ボロを見せてはいけない。


「無能の身でありながら、独学で学び、習得できたというのか」

「ドルウェグ様もお分かりのはずです。魔法式の理解、習得とは、すなわち円型に浮き出る模様の配置や質量、魔素の練り込み具合。全部を知るということ。いくら魔素量に優れ、素質が十分にあるからとはいえ、根本的な知識がなければ魔法式の展開は不可能です。だから私は、長い月日をかけて、魔法式の理解に全力を尽くしました。無能と、そう言われないため、に……」


 そこで、ふと強い視線を感じ、私はドルウェグの様子を窺う。

 彼はただ、静かに笑みを浮かべていた。

 それは穏やかなものではなく、どこか意味深な表情で、口元を上げている。


「そして三日前に側仕えのロッドを奪い、魔法式の展開を実践したと。そういう訳だな」

「そう、です」


 声が震える。ドルウェグの浮かべた笑みの理由が分からず、ただただ不気味で恐ろしかった。


 理由が納得できるものではなかったのだろうか。夜な夜な王宮図書館で勉強していたからといって、そううまく魔法が使えるはずがないと、そう思われているのかもしれない。


「ご納得、いただけましたか」


 ドルウェグの反応を確認する意味も込めて、私は冷静を装いながら尋ねた。


「……やはり、血筋か」


 ドルウェグが何か言葉をこぼす。けれど、私には全く聞こえず、思わず首をかしげた。


「いや、ただのひとりごとだ。お前の努力の末に習得した力だというのなら認めてやろう。無断で王宮図書館に入り浸っていたことについては褒められたものではないが」


 ……あなたになんて褒められなくて結構だわ。


 怖いけれど、そんな悪態を吐けるくらいには私も成長したと思う。これもソルディアで過ごした日々のおかげだ。

 私を強くさせてくれるのは、いつだってソルディアの思い出なのだから。


「無断で図書館を利用していたことについては申し訳なく思っております。改めてお詫びいたします」

「……随分と人が変わったが。もしや、何か企んでいるつもりではないだろうな」


 平静を装い過ぎたのが逆に怪しくなってしまったらしく、ドルウェグが訝しげな眼差しを向けてきた。


 ぎくりと胸の奥が嫌な音を立てる。問われてから思わず数秒黙ってしまったので、さらに怪しさが増してしまった。


「なんだ、本当に謀りがあるというのか」


 ドルウェグの声音がだんだんと低くなるのを感じて、いよいよ冷や汗が背中を伝った。



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