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逃げるが勝ちはけだし名言である

「ちょっと、たんま。誤解をとかせていただきたい」

「急に何かしら。にゃメルごニストでない人間のはなすことなど聞くに値しないわ」


怒って先ほどまで隠していたファンの狂気が滲み出てしまっている。

仕舞い込まなくて良いのだろうか。

説明不足で、疑われる理由がはっきりしていない。


俺に限っていえば結果的にその辺の理解はあるから良かったものの、

一般人からするとやり込められておしまいであろう。

そのくらいの覇気をまとっている。


俺は深呼吸をした後で、一気に言い放った。


「これから推測を話させてくれ。おそらく、引っかかっているのは今朝のやりとりだろう。

にゃメルごニストであればかのキャラクターと限定ストラップであることに緊張して、敬意からうまく話せなかったことは理解できる。しかし、愛好者でないのだとすればあの時点ですんなりとみせていれば万事解決することができていたはずだ。そんなところだろうと思うがいかがか」


彼女は怒っていた表情が嘘のようになりを潜め、戸惑いと共に口をひらいた。


「ええ、概ねあっているわ。その口ぶりだと誤解だったのかしら」

「わかってくれたようで良かった」

「ごめんなさい。にゃメルごんのことで気が動転していたわ。出自の関係で敵も多いから…これも言い訳ね」

「まあ、なんだ。とりあえずこれ返すわ」


彼女は俺の手からストラップを受け取り後生大事に両手で包み込んだ。

昆虫を死に至らしめる小学生の無造作な包みかたでは決してなく、

菩薩を彷彿とさせるような慈愛に満ちたものであった。


ともかく、俺の用事は済んだのでさっさとトンズラしようとしたのだが、

彼女は気掛かりなのか意を決したように言葉を続ける。

「今朝のことは申し訳ないわ。ボディーガードの件もごめんなさい」

「もう済んだことだ。大事はないのでこれで失礼させてもらう」

「ところで、ファンじゃないと言いながらにゃメルごニストへの理解度と言い慣れている口っぷり。あなた一体何者かしら」


なんですんなりと帰してくれないのだろう。

しかも、シャーロックホームズの観察眼から導き出された推測のような口ぶりで何をいっている。

俺は何の変哲もない高校生でドラマの名脇役ではない。


「見ての通りこの高校に通うことになったしがない1年生です」

「…(ジー)」

「知り合いがにゃメルごニストなだけです。俺には愛好心はないです」

「そう?あなた名前は」


めんどくさくなってきた。

正直、この手合いとは関わりになりたくない。

妹だけでお腹いっぱいなのだ。


「…山田のぶです」

「そう山田くんというのね。ストラップの件ありがとう。これからよろしく」


そういって彼女は手を差し伸べてきた。

俺の心拍数と警戒心は最大レベルまで上がる。

握手でドギマギするのは前提としてガチムチ黒グラサンが怖いのだ。


「あ、あのー、お付きの方にひねられたりしません?」

「ふふっ、失礼。大丈夫よ。彼なら今ここにいないし、悪い人じゃないのよ。それに今差し伸べているのはわたしだしね」

「それなら、よろしく」


ギュ



フラグって何でこんなに忠実に活動してくれるのだろう。

腕が軋んでしまうほど痛い。

大丈夫って何のことだったのか。


隣には大男が聳え立っている。


「また、あったな坊主」

「…奇遇ですね」


すんごいデジャビュである。

このまま説明する間もなく、コンクリートと一体化して魚の餌になるのかと人生を諦めかけた時、

鶴の一言が響き渡る。


「金田!手を離しなさい!」

「しかし、お嬢」

「二度はいわないわ」

「へい…」


金田氏はしぶしぶといった様子で俺の腕を解放した。

しかし、サングラス越しにもその眼光がこちらに注意を払っていであろうことは疑いもない。


「この方は山田のぶさん。限定ストラップを届けてくれたのよ」

「あのストラップをですかい。そいつは失礼いたしました」

「…」


勘弁してほしい。

高校生がヤ○ザに土下座されるの図。

変わり身の速さが尋常ではない。

さすが、この人もにゃメルごんに関わる人物の怖さを心得ているようである。


「金田、わかっているわよね」

「大恩人に対して非礼の数々、申し訳ございません。こうなってはこちらの誠意をみせるしかありますまい。あっしのこのにゃメルごん限定ストラップを進呈いたしますのでどうぞご容赦を」


俺は唖然としてその様子を眺めるしかできなかった。


(この主従どうかしていると思うのは俺だけだろうか。

正直、いらない。

大の大人が涙を流しつつ渡してくるケジメストラップなど持っていられない。

それと、よくやったとばかりに頷いているそこのポンコツ令嬢。

俺は愛好者じゃないといってるよね。何だこの展開)


「…限定ストラップだけでは足りないとおっしゃるのですかい。仕方がねぇ…」

「いえ、限定ストラップすら結構です」

「「っっ!!」」


とにかくこの場をおさめたい俺は本気で断りを入れたら、

アホ主従どもが【なんて懐が深いんだ】とでも言わんばかりに

キラキラした視線を向けてくる。

どう収拾をつければいいのか頭が混乱してきたが、

ともかくこれ以上関わることがないように後腐れなく別れよう。


「あの、本当にもう結構なので、これで失礼します。特にお礼とかホント不要なので。それでは!」


言いたいことだけ言って、

脱兎のごとく逃げ出した。

もう振り返りはしない。後ろで何か言っているような気がするが、関係ない。


この時、俺は平和な日常に戻れると信じきっていた。

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