惹きつける力をカリスマという
遅れることなく無事、入学式の会場に到着した。
入り口付近で頭の薄いおじさんがスーツ姿で何かを一心不乱に探していた。
スーツ姿にも関わらず膝立ちになりキョロキョロ見渡している。
遅れてしまうので申し訳なさを感じつつスルーして入場する。
(この時期は落とし物が多いのかもな)
さきほど通りすがりのターミネーターにやられた
腕の痛みは増すばかりだが、注目を避けるため我慢をする。
保健室登校の選択をするのはまだ早い。
若者にとって最初の印象はあだ名というかたちで返ってくる。
正確には男子にとってというべきか。
高校生といってもガキのままなのである。
そうこう考えている間にも式は開始され、つつがなく進んでいく。
新入生代表はもちろん彼の令嬢である。
大衆面前での挨拶はお手のものと言わんばかりに
はっきりとした口調で言葉を紡いでいく。
カリスマとはこういった人物のことを指すのであろう。
思わず見惚れてしまうほどの存在感を放っている。
考え事をしていて忘れていたが、
いや考え事をしたがゆえに右手を顎に添えようとした際
激痛がはしる。
思わず大声をあげてしまった。
「っつぅ〜」
やってしまった。
周りは何だこいつはという顔をしている。
状況を理解できていないその他多数も少しざわつく。
挨拶をしている令嬢は一瞬顔をしかめたのちに
何事もなかったかのように表情を切り替え柏手をうった。
パンっ!
「以上を持ちまして挨拶とさせていただきます」
信じられなかった。
その場にいる全員が一瞬にして魅了された。
その場のざわめきを拍手一つで押さえ込むなど
フェ○リーロウを解き放つギルドマスターのようだ。
何事もなかったかのように挨拶が締めくくられ、
静寂の中にカツカツという規則的な音が鳴り響く。
(助けられた…のか)
元々痛みを与えられたのがボディガード出会った以上、
素直に感謝できなかったが
空気を一変させた彼女には感謝すべきと思った。
その後、校長からの挨拶という学生からの
批評上位イベントが執り行われた。
登壇した校長は見た感じ50代中ごろの品があるイケおじといった感じである。
落ち着いた様子でコップの水で口を湿らせたあとゆっくりと語り出した。
「あ〜、テステス。もう喋っても良いかな?あ、良い?ありがとう。
では、改めて諸君、合格おめでとう。
君たちに伝えたいことは沢山あるのだが絞って話そう。
老人の長話ほど耐えがたいものはないだろうからね。
人を頼ることを学びなさい。
個人でできることには限界があります。
人間社会は助け合いの文化で繁栄してきました。
そして、君たち一人一人には個性がある。
得手不得手それぞれあることと思う。
必ずね。
なればこそ、助け合うのです。
決して絶対的に得意なことでなくていいのです。
相対的に得意なことを知り、お互いの長所を出し合いましょう。
誰かの不得手は誰かの得意かもしれない。
そうやってつくられた未来はきっと明るい。
これからの人生をかけて学ぶことになるだろうけど、
今から意識して取り組んでみてもらえると嬉しい。
ふう、思いつきでもなかなか話せるね。
教頭に丸投げした原稿をなくしてしまって焦ったけど…
わたしからの挨拶は以上とさせてもらうよ」
宣言通り短く、なかなか良いことを言っていると感心していたが
最後の独白で台無しである。
この様子だと話したいことが沢山あるというコメントも疑わしい。
とはいえ、
品のある出立ちと余裕のある柔らかな物腰から不快感を抱かせない魅力がある御仁であった。
本音として教え導く信念を感じさせるものがあっただけに
心に響いた生徒も何人かいるのではないだろうか。
いたずら心というか飄々とした面が顔を覗かせていたため、
付き合わされる当人からすればたまったものではないだろうが。
おそらく、入口付近で探し物をしていたのが件の教頭だろう。
そういえば登校時に見かけたおじさんに似ていた気がする…
(苦労しているんだろうな。)
同じく落とし物という共通点で苦労したであろう同志に対して、
心の中で応援をしておく。
(毛ほども苦労がないといいですね)
その後は特に印象に残るような出来事は起こらず、
問題なく進行されていった。
教室に移動することになり、
ホームルームにて余計なことが起きないことを祈りつつ行動を開始するのであった。
◇
ガヤガヤ、ガヤガヤ
教室はやはり活気づき、いろんな声が飛び交っていた。
「やっぱり麗華さんは美人で憧れるよね〜」
「校長の話以外と聞けたし、結構お茶目だったな」
「ボクはタピオカブームが再び襲来することを予見している」
最後のやつの会話の流れが気になるが、
おおむね、入学式での出来事が中心で話されているようである。
(だれも俺の悶絶を覚えてないことを祈ろう)
複数人グループに自分の席を囲まれたりしていないことも祈りつつ
自席を確認すると問題なく空いていた。
ほっとしつつ、腰を落ち着けると同時に肩を軽く叩かれる。
「やあ、同じクラスになれたようだね。これからよろしく」
隣には爽やかスマイルが絵になるイケメンがいた。