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なんてことのない始まり

読み専から思い至り、ノリで書いてみました。

お付き合いいただければ幸いです。

俺、押上実みのるは二度と恋などしない


あの日そう誓った…


なんて大層な過去は持ち合わせていない。


いってみれば普通に恋をして普通に挫折した。

結果、なんとなく人間関係が億劫になった。


この二行で説明は事足りる。


悲しくはない、

総じて大概のパンピーはそんなもんである。


早朝にまどろみのなか今の状況について考えを巡らせていた。


今日から高校生。

高校生になるからといって特段、

浮かれていることもない。


所詮は中学の延長線上。

レールが決まったところをセコセコ歩んでいくのだ。

エネルギッシュな若人が正解だと思うなよ。


こだまにはこだまの趣があるのだ、

のぞみな人生が良いとは限らない。


このまま、驕らず、適当に漫然と日々を過ごすのだろうな。

気がつけばありふれたサラリーマンへステップアップすること間違いなし。

未来のかざらない自分に敬礼。


ふと、最小限の機能しかないことがみて取れる時計をぼやけた視界におさめる。

時間に縛られる現代人らしく、程よく間に合う時間にアラームをセット済みだ。

さいわい不快音がけたたましく鳴り響くまでは猶予がある。


覚醒の時はまだ先だ。

俺はまぶたを閉じて起きなくていい理由を必死に考えつつ、春のようきに身を委ねる。


すわっ!

せつな、悶絶した。


不意に腹部へ衝撃を受けた模様。

眠っている間にボーリングが自らへ落ちる仕掛けをするストイックさはないのだが。


俺でなきゃ泣いちゃうね。


とんでも状況だがさいわい?心当たりはある。

落ち着いて何事もなかったかのように寝返りをうつ。


そのままじっとしていると、


「お兄ちゃん。おきてー」

という声と共にからだが優しくゆすられる。


抵抗を諦め、目を開けて挨拶をする。


「おはよう」


目にうつるのは明るく元気などこか幼さを残した美少女。

たくらみが成功しましたと言わんばかりに満面の笑みである。


「ねえ、美少女におこしてもらう展開はどうだったかな」


「自分で美少女と言わないほうがいいぞ」


こいつは実妹の佳織。

平凡を地でいく兄とは違い利発的な美少女だ。


「とかいって、心の中では美少女と思っているくせにー」


いやんいやんという動きでポニーテールが縦横無尽に動き回る。

何こいつエスパーかな。

言っていることには肯定だが負けた気がするので本題に入ろう。


「・・・。さて、念の為きいておこう。あの悶絶もののおこし方はなんだ」


小悪魔はきょとんとした表情をした後に口に手を当てこう言い放った、


「え、おこしに来たくらいでそこまで感激されると流石に引くかな」


あ、だめだこいつ。

自分に自信ありすぎ。


朝からフルスロットすぎるだろ。

二徹にエナジードリンクでもキメてんのか。


ポジティブシンキングが天元突破している。


「ちっげーよ。愛するお兄様の腹にボーリング玉をめり込ませた正当性を問うている」


「たるんだ腹と考えに喝っ♪」


「どこのスパルタトレーナーだ。俺はボクサーじゃない」


にしし、と楽しそうに笑う妹に対してツッコミ続ける。

悲しいかな。こんなやりとりが意外と嫌ではない。

俺はシスコンなのだろうか。


「まあ、いいや。おこしてくれてありがとう」


「いいってことよ。次の起こし方にご期待!」


台風一過で一息つく。


「勘弁してくれ…」


二度寝の誘惑を振り切りアラームを解除。

腹を労わりながら気だるげに欠伸を噛み殺して洗面台へ向かう。

鏡にうつるのは覇気のない見慣れた地味顔だ。


撫でしつけていない後頭部のはねたチャームポイントをなおすことはない。


これが個性というものだ。

決してたるいからではない。

自然体に生きようではないか。


食卓へ移動しながら思い出した。


両親は旅行で不在である。

仲がいいことはいいことなのだが、自由奔放さ極まりない。

高校生にもなって入学式に参列して欲しいとは思わないが

せめて見送りするなど何かあるだろう。


父は頑張りなさいとThe普通コメント。

母など出かける前に言い残したのはゴミ出しよろしくの一言である。


全くもって我が家はどうにかしている。


あ、早く起こされた理由を忘れていた。

しかし、朝食の用意をしなければ。


とはいっても朝食の用意にはそれ程時間を要さない。

現代社会で朝にかっちりとしたものを食べている日本家庭など少数派だろう。


余談だがヨーロッパでは夕食をあっさり、

朝食をしっかり取るのがスタンダードなところもあるらしい。

用意の観点から夕飯にがっつりしたものだと

仕事帰りに大変かつ朝食を食べられないという考えらしい。

一理ある。


話がだいぶそれたが、

トースターと目玉焼き、サラダにスープと手早く用意する。


妹を食卓に呼び、早く起こされた理由を聞いたところ、

ド直球すぎて逆に新鮮な回答であった。


「もぐ、もっきゅ、おなかすいたから」


以上である。

あらやだ、じゃじゃ馬。

欲望に忠実な様は空き地の大将の気質である。


自分で用意することなど微塵も想定していない圧巻の回答。


悲しい事件であった。


おっと、いい時間だ。

着替えて登校の準備でもしますか。


初日から遅刻して変に注目をされることは望んでいない。

灰色の高校生活はバッチこいだが、

視線のレッドオーシャンを平然と泳ぐことはしたくない。


ガチャっ


ともかく、こうして新しい生活の一歩を踏み出したのであった。

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