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不実戦記  作者: しぃ
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1章 ウェンティ

~人間と魔物の抗争の物語~

女性騎士・ウェンティと同僚剣士・エイガルを中心に様々な想いが交錯する。


ーーはじめにーー

処女作となります。

すべてが拙い形になっておりますが、何卒宜しくお願い致します。



 ここラヴァノ帝国では、昔から魔物による実害が発生していた。帝国の領土と隣り合わせになるように巨大な森が広がっており、そこに棲息する魔物が領土に侵入している事案が後を絶たない。


 記録によると、建国当初となる200年前は、魔物の目撃情報が月に一度ほどの頻度であったが、数十年ほど前、突如として”魔王”と呼ばれる魔物の王が現れ、状況が一変した。週に一度の目撃情報からすぐに毎日魔物が目撃されるようになり、次第に帝国に向かう商人や森の近場にある農地を治める農民たちが魔物に襲われたという被害情報が多々届けられるようになった。


 そこで帝国の中枢機関である帝国議会では問題解決に向けて幾度も議論を交わし、様々な政策を試みてきた。ある時は魔物が巣食う森との境に帝国の賢者達より集めた魔力を魔防壁に込めて結界を設けたし、またある時は石材で横幅の広いトーチカの様な砦を建設し、軍を派遣して魔物の侵攻を監視・防衛することもあった。


 だが、政策は悉く失敗した。魔防壁は一夜明ければ何者かに結界が破かれ、魔物に侵入される事態となったし、砦はある夜、襲った兵士から奪った武具を用いて武装した魔物たちによって死傷者が出る事態が続出した。


 そこで、帝国議会では対魔物を想定した特別防衛隊を設置した。魔力が高い人間を軍や住民から募り、魔法を駆使した戦闘訓練を三年間積ませることで対魔物に特化した編成部隊を設立した。部隊は駆使する武器に合わせて近距離と遠距離で別れる。近距離隊では各自で魔力を籠めた剣や槍を使う歩兵や騎馬隊などから編成される一方で、遠距離隊は魔弓兵や魔杖兵といったいわゆる飛び道具を扱う者から編成される。


 全部で第六部隊から編成され、第一から第三部隊が近距離隊、第四から第六部隊が遠距離隊となっている。

 戦闘訓練の結果から優秀な人物からそれぞれ第一部隊、第四部隊へ配属される。第一部隊、第四部隊に配属された者はそれ以外の部隊の指揮・指導も担うことになる一方で、待遇にも大きな差が現れる。宿舎では二人一部屋が通常だが、だだっ広い一人部屋が充てられ、賃金も他の部隊の倍近くになる。


 魔物の出現報告が入ると即座に第一、第四部隊に報せが入り対処するようになっている。

 ただ、どの部隊も魔物との交戦が無い間は街や森から市街地へ続く門扉、砦など順番に警備にあたることになっている。




 魔物の出現報告が無いある冬の日、帝国城前で大声が響いている。


 「魔物どもを滅ぼせ!奴らを許すな!」「帝国議会は何をやっている!我々国民は見殺しか!」


 今日も抗議活動が行われている。魔物に農地や田畑を襲われた者や家族や恋人を奪われた者など魔物に恨みを持つ者たちが『魔物を排除せよ!』と抗議文を記した大きな木版を掲げ、城門を取り囲む様に集まっている。


 「まったく、またか。おい、ウェンティ。早く対処してこい。」

 一部隊長のギラシがため息をつき、抗議集団のほうを顎で指しながら指示する。この2メートルにも届きそうな大男の威圧感は凄まじく、大抵の人間ならすぐに縮こまりそうである。魔物との戦闘で負った右眉毛の上にある傷が、怖さを増長させている。



 「え、私ですか。」

 そう言ってウェンティという若い女性が茶色のショートヘアの髪を掻きながらめんどくさそうな顔をする。

 右腕には、精鋭部隊の一部隊の中でも特に優秀な者に授与される腕章を巻いている。深紅の下地の上下二か所に黒色のラインが入っており、真ん中にはラヴァノ帝国の象徴である不死鳥の金色の刺繍が施されている。

 こんな事をするために防衛隊に入ったわけじゃないっての、と心の中で舌打ちした。


 「当たり前だろ、さっさと行ってこい! お前もいちいち突っかかりやがって面倒くさいやつだな。」

 ギラシはウェンティを睨みつける。


 ただ、その顔を見慣れた私には通用しない。

 私は魔物を狩るために防衛隊に入ったんだ。なのに、いつもいつも相手をするのはこう言った抗議活動をする”人間”ばかりだ。面倒くさいのはこっちの言い分だ。

 そういや、最近魔物を狩ったのはいつだっただろうか。18歳の成人を迎えて直ぐのことだからもう2年ほど前のことか。


 「おい、早く行け。」

 

 「はいはい、分かりましたよ。」

 私は軽い口調で返し、抗議活動をしている人たちの元へ向かう。


 駆けつけるなり、見知った顔を見ると私はため息交じりに言う。

 「また、あなたですか。皆さん、ここでこう言った活動はやめてくださいと何度言えばいいのですか、ゾルドさん。」

 彼はゾルド。白髪交じりの色黒の大男だ。郊外に大きな農地を構えていた大農家だったが、五年前に魔物の侵攻を受け、農地が荒らされた上に逃げ遅れた妻が犠牲になっている。今では活動家たちのリーダーで定期的に城門前に来てはこうして魔物どもを滅ぼせと言わんばかりに抗議活動を行っている。


 「貴様ら防衛隊は一体何をしているんだ!いつになったら魔王討伐に向かうというんだ!」

 ゾルドが活動家たちの人波を掻き分けてこちらへやってきた。周囲の人間たちも便乗して罵声を浴びせてくる。


 全くもってその通りだ!私だってさっさと魔王狩りに行きたいのだ、と言いたくなる。

 「お気持ちはわかりますが、ここで何を言っても状況は変わりません。連日、議会でも解決策を模索しています。」


 「嘘をつくな!俺たちにどれだけの被害が出てもお前たちは何もせんではないか。議会の連中がなんだ!あんな温室育ちがいくら寄り集まったところで何も変わらん。つい先日だって街外れの農民が魔物に襲われて死んでいるんだ。何のための防衛隊だ!さっさと魔王討伐に行けってんだ。このままじゃ貴様ら防衛隊もくその役にも立たんじゃないか!」


 ゾルドは声を荒げ、ウェンティをにらみつける。周りの活動家たちもそれに続くように再び罵声を浴びせかける。

 その台詞はうんざりするほど聞いた。それに私だってーーー

 そこまで考えると瞼を閉じる。まったく、これだから人間相手は面倒なんだ。


 「民を守れず申し訳ないと思っています。ただ、我々とて怠けているわけではありません。現に・・」

 ウェンティの精一杯の事務的な言葉を遮り、ゾルドは口を開いた。


 「もういい!やっぱりお前たちに何を言っても変わらん。バカにしやがって。」

 何も変わらないと思うのはこっちの台詞だ、とウェンティは辟易する。


 「お言葉ですが、ここでどれだけ喚き続けても何も変わりません。その点からすると貴方が仰る”温室育ち”と何ら変わりませんよ。」

 丁寧な言葉遣いは苦手だ。もう既に崩れ始めている。


 とにかくさっさと会話を終わらせたかった。気遣いをすることが面倒くさかった。何も考えず発した言葉にゾルドが顔を赤らめて激昂した。


 「貴様、自分が何を言っているの分かっているのか!俺たち国民ばかりが犠牲になってお前らは帝国中を散歩してばっかりだ!今度言う今度は許さんぞ!おいお前、名前はなんだ!防衛隊長様とやらに文句を言ってやる。」


 ゾルドが仰々と喚く一方で、ウェンティは淡々と答える。


 「ウェンティ・リードと申します。」


 すると、突然何かを思い出したようにゾルドは目を見開き、声を荒げた。

 「ウェンティ・リード?リードだと!・・・そうか、思い出したぞ!お前、リード家の一人娘か!魔物になぶり殺されたセナの娘か!」


 そう言うとゾルドは信じられんとばかりに、真正面からウェンティの顔を見つめた。


 「母親があんな死に方をしたのにぶらぶら歩いて回っていやがるのか。お前、何も思うところがないのか。」


 自然と私の眉毛が吊り上がるが、ゾルドは続ける。

「・・・はっ、そうか、結局お前も金か!なんて言ったってその腕章を付けているってことは、一部隊のエース様だもんな!それはただの見世物か!今頃母親が泣いているぞ。」


 無意識だった。気が付いた時にはゾルドの胸ぐらを掴んでいた。


「おい、てめえ。調子に乗りやがって!無駄口ばっかで奥さんが泣いてるぞ。それにーー」


 言い終わるより前に横から腕が伸びてくる。


 「おい馬鹿野郎。その腕を離せ。」

 割って入ったギラシがウェンティの腕を払った。


 「お前はもうあっちに行ってろ。まったくどいつもこいつも。」


 私はギラシを睨みつけると何も言わず、その場から速足で立ち去った。

お読みいただきありがとうございました。

少しずつでもすべての面で向上していけるよう頑張ります。

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