真夏のボランティア活動記
ボランティア活動当日。集合場所に到着した晃輔とななは揃って声を上げた。
「あっつ……」
「そうね……」
朝早くから電車とバスを乗り継いで、晃輔とななは渡された資料に書いてあった場所までやって来た。
夏とはいえ、朝早いのでそこまでは暑くないかと思ったら、バス停から集合場所からまでの距離が意外とあり、その間にかなりの汗をかいてしまった。
絶えず流れてくる汗を拭きながら晃輔が辺りを見渡すと、ボランティアらしき人が既にちらほらといるのが分かる。
晃輔がタオルで汗を拭いていると、なながズイッと近付いてきた。
「……えっと、何?なな」
いきなり近付いてきたななは晃輔の顔をじっと見つめてくる。
晃輔は至近距離で自分を見つめてくるななに、どきりと心臓が跳ねた。
「ちょっと動かないで」
そう言ってななは晃輔の顔に手を伸ばした。
真面目な表情のななを見て、晃輔は顔が熱くなるのを感じながら、思わず目を瞑る。
「……!?」
「……よし、取れた」
「………………?」
「何その顔……ゴミが付いていたから取ったんだけど……嫌だった?」
ななは面白くなっている晃輔の顔を覗き込んでそう尋ねてくる。
「!……いや、全然……あ、アリガト、な」
変に緊張してしまい変に片言になってしまった。
ゴミを取ったななが晃輔から離れると、晃輔は心拍数が早くなった心臓を落ち着かせるように深呼吸する。
すると、突然晃輔の視界からななが消えた。
「きゃあっ!」
ななの後ろからあおいが抱き着いてきたのだ。
後ろから抱き着かれたななが前に倒れそうになったので、晃輔が慌てて支える。
そうすると当然、ななとの距離が近くなるわけで。
晃輔の目の前にななの顔があり、それに気付いた二人はお互い顔を真っ赤に染め上げた。
晃輔とななは恥ずかしくなりお互い顔を逸らすと、それをにやにやしながら見ていたあおいが大きな声を上げた。
「こー兄!お姉ちゃん!おはよー!」
「あおいか……おはよう」
「おはようあおい。暑いから離れて」
「はーい!えいっ!」
「うおっ、ちょっと待て、あおい!」
晃輔が反応するよりも先にあおいが抱き着いてきて、困惑する。
毎度毎度抱き着かれると色々と身が持たないので止めてほしい。
それとも、あおいは一々抱き着かないといけない呪いでもかかっているのだろうか。
「……朝から見てつけてくれちゃって」
横から聞き覚えのある声が聞こえてそちらを向くと、晃輔たちの前に見覚えのあるメンバーたちが呆れた表情で三人を見ていた。
「あ、藍子ー!?」
ななが悲鳴みたいな声を上げる。
「み、みんなも……い、いつから?」
「ななが晃輔にめっちゃ近付いて顔に触れてるところから」
晃輔が尋ねると希実は愉しそうに笑っている。
「……!?」
「おいこら、ほぼ最初からじゃねえか。言えよ」
晃輔が苦言を呈すると、皆は顔を見合わせた。
「いやー、邪魔しちゃ悪いかなーって」
「朝からいちゃいちゃしてるなーって」
「やかましわ。ってか、何でお前らここに居るの?疑問なんだけど」
面倒くさくなった晃輔は気になっていた疑問をぶつけた。
すると、泰地が困ったような表情で晃輔とななの顔を覗き込む。
「あれ?もしかして何も聞いてない?」
「「聞いてない」」
即答する二人にあおいはけらけらと笑っている。
「えっと……俺たちも晃輔のお兄さんから連絡を貰ってたんだよ」
「もしかして、泰地たちも割と直前に?」
「?……いや、結構前だけど。多分ゴールデンウイーク開けてからぐらいだったはず……」
「「え」」
「てっきり、晃輔たちはもう知っているものかと思ってた……」
「いや、知らないんだが?というか、これについての連絡受けたの本当に近々だぞ、俺たち」
「……マジか。う〜ん、晃輔のお兄さんから連絡を受けたのがゴールデンウイークぐらいで、その後少ししたら、事故ではあるけど、また晃輔たちと関わるようになって………………いや待て。もしかしたらこうなるように仕組まれてたのかも……最初から……そう言えば、あのマンションの近くに行くことになったのも……」
泰地が何かぶつぶつと独り言を呟いて考え込みはじめた。
泰地の話を聞いて晃輔とななも同じ結論に至ったが、確証はないので言うのは憚れた。
仕組まれたにせよ仕組まれてないにせよ、それをやったであろう本人がいないので考えるだけ無駄だ。
今度あった時、嶺を問いつめれば良いだけの話だ。
「にしても、結構人多いんだな……」
晃輔が辺りを見渡すと、つられてななやあおいも辺りを見渡す。
するとその中に見覚えがある人物がいてあおいは目を丸くする。
「あれ?凛ちゃん?」
あおいと同じクラスで仲良しの榎木凛が管理棟の前にいる。
あおいの視線に気が付いたのか、凛がてくてくとこちらにやって来る。
「あおいちゃん!やっほー!」
「やっほー。えっと……凛ちゃんもボランティア?」
「?……ううん。私のお母さん、この大会の運営する人だから……毎年お手伝いに来てるんだ……あおいちゃんたちはボランティア?」
「うん。そうだよ」
「あー、だからか……藤崎さんが来ているんだね……」
凛は納得したようそう呟き、凛は管理棟の方を指差す。
すると凛が指を差した方向に色々な人に囲まれて困った表情をしている嶺が見えた。
話し掛けようとしてあおいが嶺の所に行こうとすると、声が掛かり大会スタッフやボランティアが召集された。
どうやら管理棟でミーティングをやるそうだ。
結局いつものメンバーで仕事をすることになって、晃輔は安堵した。
***
大会の運営者から説明や諸注意を受けた大会スタッフやボランティアは、そのまま各自自分に与えられた仕事を行い始める。
晃輔たちは初めてなので、晃輔たちよりも既に二日早く仕事を始めている先輩に説明を受けながら仕事を行っていく。
「ー以上となりますが、大丈夫ですか?基本的にはお配りした資料通りの事を行います。不明な点があったらいつでも質問してくださっても構いませんよ」
凛は晃輔たちに優しく教えてくれた。
ここに来る前に資料は読んだが、それでも若干分からないことがあったので、こうして丁寧に説明してくれると本当に助かる。
皆真剣な表情で凛の説明を聞いている。
「私たちは、朝は車いすの方用のテントを設営。それが終わったらジャグの準備。外は大変暑いので、ジャグはすぐ減ると思います。なのでジャグの交換や中身の継ぎ足し。あと、車いすの方のサポートがメインとなりますね」
ここまでは大丈夫ですか、と凛は微笑む。
すると、黙って話を聞いていた土井が凛に尋ねた。
「ごめんね。テントの設営やジャグうんぬんはわかるんだけど……サポートって具体的に何をやればいいの?資料は読んだけど、あまり分からなくて……」
土井がそう告げると、他のメンバーも、うんうん、と頷いていた。
皆の反応を見た凛は穏やかに微笑むとその説明もしてくれた。
「初参加の皆さんは分からなくて当然だと思います。車いすの利用者にも色々な方がいて……そうですね、良い例がすぐそこにありました。皆さんあそこにあるスロープ見えますか?」
そう言って、凛は窓の外に見えるスロープを指差す。
晃輔たちは凛が指差した方向へ顔を向ける。
「ここのテニスコート場は、管理棟からテニスコートまではスロープ使わないと車いすの利用者は行けません。勿論、自力で上れる方もいらっしゃいますが、自力では上れない方もいらっしゃいます。私たちのサポートとというのはそういう方のお手伝いなどをすることなのです」
凛がそう言うと、なるほど、と納得した様に皆が頷いている。
「あともう一つは……飛んできたボールを選手に渡していただくこと……あと、試合中は非常に暑くなるので、体を冷やすために、選手の方が氷嚢などを持ってきて欲しいとお願いされることがあると思います。そういうのにもできるだけ応えていただけると、お互い嫌な思いはしないかと思います」
「なるほどね。サポートってそう言うこと何だね」
凛の説明を受けて、泰地たちは納得した様に頷いている。
凛も何処かホッとした様子を見せているので、凛としても良かったのだろう。
「それじゃあ、まず、私たちはテントの設営から動きます。皆さん、大変だとは思いますが、今日から二日間よろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!』
元気良くそう告げた晃輔たちは、早速大会の準備に取り掛かった。




