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迷って、もがいて、そして前へ


「え、それって、どういう……」


 あおいの言っている意味が分からず首を捻る晃輔。

 その様子を見たあおいと泰地は涙で腫らした顔を見合わせて苦笑いしていた。


 すると、黙って晃輔たちの話を聞いていた希実と石見が口を開いた。


「それにしても、そんな事があったんだね」

「うん……イジメ事態はさあ、何処にでも誰にでも起こり得る話って言うのは知ってたけどさ……本当に……こう……」 


 石見が思うように言葉が出ず困っていると、見かねた昌平が石見の代わりに言葉を発する。


「イジメられている人を助けて、自分がイジメられるって……まるでヒーローだな」

「結末は最悪だけどな」


 晃輔は苦笑しながら昌平の賛辞を受け入れる。


 本当に、本当に最悪な結末だったと思う。

 一生懸命部活を頑張って、大会で入賞もして、その結果が……イジメをうけて心身共に体調を崩して部活を途中で辞めざる得なくなって……晃輔は一体何処で選択を間違えたのだろうかと思い悩んだりもした。


 やっぱりイジメられていた煌翔を助けた事だろうか。

 イジメられていた煌翔を助けて、晃輔にそのイジメのターゲットが移ったことだろうか。


 違う。それは全部違う。

 煌翔を助けたことは間違いじゃなかったんだ。

 煌翔を助けた事に後悔はない。


 もし、あの時煌翔を助けられなければ、煌翔はもっと酷い目にあっていたと思う。

 それこそ、自分が受けたような痛みを辛さを煌翔は受けていたかも知れない。


 そう考えると、辛かったは辛かったが、晃輔が煌翔の代わりにイジメを受けて良かったのかも知れない……なんてそう思うんだ。

 だから……煌翔を助けたことは本当に後悔はしていない。


「だとしてもだろ……本当に凄いな晃輔って」

「あ、ありがと」

「お、珍しく照れてるな」

「昌平うるさい」


 先程までは泰地の涙に貰い泣きして目を滲ませていたのに、いつもの調子の昌平に戻っている。

 昌平たちと同様に、静かに晃輔たちの話を見守っていた筋乃が口を開く。


「皆を守るために立ち向かったって言ってたよね……関原って人が言ってた通り、藤崎君は本当に正義の味方(ヒーロー)だったんだね」

「こー兄は本当に凄いんだよ……だから……もっと皆を頼ったっていいんだからね?」

「そうね。もう二度と同じ様な事が起きないように……晃輔はもっと人を頼るべきね」

「なながそれを言うの?」


 あおいに便乗する形でなながそう告げると、土井に見事なまでの正論で返されてしまい、ななが何も言い返せずにいると、皆涙で目を腫らしながら大爆笑していた。



***



「全く……酷い目にあったわ」


 晃輔がソファに座ると、既にソファに腰掛けていたななが独り言のようにそう呟いた。


「あはは……」


 晃輔が泰地と一緒に当時の事を皆に話した後、中断していたゲームをそれぞれ順番ですることになった。


 ゲームを始めると、何故かななの番の時だけコントローラーの調子が著しく悪くなり、何をやってもビリになっていた。

 最大八人までが選んだキャラクターを使って、相手をステージから落とし合うゲームでは、一人だけ面白いぐらいに火の玉やビームといった攻撃を喰らっていた。


 ゲームを始めて僅か一分でななの残機がゼロになっていた時は、あおいや希実がお腹を抱えて笑っていた。


 一ゲーム終わると、晃輔は部屋が随分静かな事に気が付いた。

 周りを見ると、先程まで晃輔と一緒にゲームをやっていた昌平たちが、まるで力尽きたかのようにソファや床で寝落ちしていた。


 昨日の夜もゲームをしていて寝た時間も遅く、更に先程の晃輔と泰地の話を聞いて皆貰い泣きをしていたので、恐らくそれらが重なった結果だろう。


 このままもう一泊されても困るので、お昼ご飯を作り終わるまで寝かせて、ご飯が出来たら叩き起こすと、全員眠たげな目を擦りながらも、美味しい、と言って完食してくれた。


 お昼過ぎまでいる、という約束だったので、約束通りお昼ご飯を食べたら皆帰宅していった。


「太陽、ね……」


 深々とソファに座ったななが独り言のよう呟いた。


「どうした急に」

「いや、さっき、あおいが言ってたこと何だけどね……」

「ああ……そう言えば言ってたな。あれ、どういう意味なんだ?太陽みたいなって」


 晃輔とななはソファの上でぐったりしながら、先程のあおいが言っていた事を思い出す。


「はぁ……やっぱり無自覚……多分、そういうところなんだろうな……私がこうすけを……」


 段々とななの語尾が小さくなっていき、最後の方はごにょごにょと何を言っているのか全然聞き取れなかった。


「えっと……なんて?」

「な、何でも無いから気にしないで……!」


 気になった晃輔がななの顔を覗き込むと、びくっと体が跳ねてななの顔がどんどん朱色に染まっていく。

 すると、ななはひざ掛け代わりに使っている愛用のブラケットを晃輔の顔に押し当てて、その視界を防いだ。


「いや、そんなことされるとめっちゃ気になるんですが……」

「気にしないの!良い?」

「……はい」


 晃輔が返事をするとななはブラケットを取ってくれた。


「よろしい……」


 ななは大きく深呼吸すると、その吸い込まれそうになる大きな瞳をこちらに向けて、じっと晃輔を見つめてきた。


「私ね、さっきの晃輔の話を聞いてね、思ったんだ……晃輔のイジメに比べたら、私なんてって、てね」

「それは……」

「分かってるわよ……そういうのは比較するもんじゃないってこと……」


 そう言うと、ななは晃輔から視線を外して前を向いた。


「たださ……頼って欲しかったなって」

「……ごめん」

「何で晃輔が謝るのよ……晃輔が謝ることじゃないんだから……悪いのは晃輔をイジメた関原たちと関原たち側に付いたあの顧問でしょ……」


 ため息をつきながらななはそう言うと、再び晃輔の方に顔を向けた。

 そして、ななは自分の手を晃輔の掌に重ね合わせた。

 掌からななの体温が直で伝わってくる。


「関原たちのイジメと、信じてた顧問に裏切られてからさ……俺、人と関わる事が怖くなって、人を信じる事が出来なくなった……」

「うん」

「自分は嫌われているんだって、ずっとそう思ってた……一応、ななに助けを求めようと迷ったりもしたんだけど……」

「私たちが疎遠だったから出来なかった?」

「……うん。確かに、あの時期はななとは疎遠だったから。でも……多分、巻き込みたくなかったんだと思う……俺のせいで、もし、ななが、大切な幼馴染が酷い目にあったらって思うと…………煌翔を助けておいて何言ってんだって話だけど……」


 晃輔が涙が出そうになるのを必死に堪えながら震える声でそう告げると、ななが突然身を乗り出して晃輔の身体を包み込んだ。


「!?……なな?」

「球技大会の時のお返し……あの時、また私は晃輔に救ってもらっちゃったからね……」


 突然の事に驚く晃輔。

 ななは晃輔の背中に手を回して、ぎゅっと晃輔を強く抱き締めた。


 とても温かった。

 最初は身体が強張っていたが、徐々にその強張りが溶かされていく。


「……今度は私が言う番ね」

「?」

「晃輔、本当は凄く辛かったんでしょ?今は私たちしかいないから……だから、泣いていいわよ」

「え」

「皆でいる時、泣くの堪えていたでしょ?……もう一度言うわ……ここには私たちだけしかいないんだから……見ないであげるから、泣いていいのよ…………もう、大丈夫だから」


 優しく告げられたその一言が決定的だったらしい。


 ななの温もりと優しさに当てられたのもあって晃輔の中で何かが音を立てて壊れる音がして……そして、一気に涙が溢れてきた。


「怖かった……関原たちの肩を持つ顧問に相談しても意味ないし、泰地たちは動けないし……本当に一人だと思った。もし、ななに頼ってそれでななまで酷い目にあって、ななにも嫌われたらどうしようってー」

「バカね。私が晃輔を嫌うわけないでしょ?」


 晃輔の言葉を遮って、ななはぼろぼろと涙を溢しながらそう告げた。


「私は何があっても晃輔を嫌わないし、見捨てることなんてしないから……私はずっと一生晃輔の側にいるから」


 ななはそう告げると、大きく息を吸いこんで自分の顔の涙を拭いた。


「中学の時は……確かに難しかったけど、今は私が晃輔の側にいる、居てあげれる。私がたくさん見ててあげる……だから、もっと人に、私に頼ってほしいの」

「うん」

「晃輔が私に言ってくれたように、してくれたように……今度は私が晃輔を助ける番だから。辛くなったら言って……私がいつでも支えてあげるから」

「うん……ありがとう」


 ほんの少しの時間しか無かったが、晃輔が泣いている間、ななは晃輔を見ないでくれた。


 堪えていた涙を流し終えた晃輔は、ゆっくりと顔を上げた。


「もう大丈夫だ……ありがとな」

「本当に?」

「ああ……もう大丈夫……ありがとうな」

「ううん……ねぇ、晃輔」

「ん?」

「これからもよろしくね」

「ああ……こちらこそ。これからもよろしくな。なな」


 そう言って、晃輔はななの背中に手を伸ばして抱き締めた。


 抱き締めたななの背中はやはり華奢で頼りなかったが、ななの優しい温もりが穴の空いた晃輔の心を満たしてくれている……そんな不思議な感じがした。


 晃輔とななは、自分たちがお互いに抱擁し合っている事に気付き、お互い相手を意識して顔を真っ赤にさせるまで、大して時間は掛からなかった。



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