プール日和
「本当に急だな。お前らもっと早くに連絡よこせよ」
プールサイドで顔を顰めた晃輔は、隣にいる昌平たちにそう言い放った。
「悪い悪い。でもいいだろ?美少女たちとプールは」
「何か不審者っぽいのがいるから、順哉通報しようぜ」
「まぁまぁ」
不審者っぽい、とても彼女持ちとは思えない中々最低な発言にドン引きしつつ、取り敢えず協力して購入した浮き輪を膨らませる。
「ったく、何でもっと早くに連絡しないんだよ……」
ぶつぶつ文句を言いながらもちゃんと空気を入れる晃輔に、泰地は苦笑いしながら告げた。
「何か女子会をやった時に、ななが晃輔たちと海に行った事を吉橋たちに言っちゃったらしくて、そこから吉橋や石見がそういうモードに入っちゃったらしくてさ」
「あー……そう言えば、なな何か言ってたな……」
泰地にそう言われ、晃輔は思い出した。
何故かは知らないが、晃輔が家にいない間にななたちが女子会を行ったらしいのだが、その後のななの様子がおかしかったのだ。
何故か妙にこちらを意識しているというか、話し掛けたり近付いたりすると、びくんっと体を揺らしていて晃輔から逃げるように距離を取っていた。
一緒に暮らしている身としては避けられるのは中々心にくるもので、夜ご飯の時に尋ねてみると、女子会で海に行ったことや晃輔と猫カフェに行ったことを話して散々弄られた、と言っていた。
それがどうして晃輔と距離を取る理由になるのかは分からないが、恐らくその時に希実たちが今回の遊びの計画を考えたのだろう。
昌平を除いた晃輔たち四人が、必死に浮き輪などを膨らませていると、ふらふらと昌平が近付いてきた。
「二人ともー浮き輪終わったかー?女子たち来たぞー」
「昌平、お前何もやってねぇだろ」
「ふ、俺は愛しののんを迎えるという大事な仕事があるからな」
「一生やってろ」
晃輔が悪態をついて大きくため息をつくと、いつの間にか更衣室と繋がる出入り口の方に、なんだか大量に人が群がっているのに気付いた。
「お、来たみたいだな」
そう言って、昌平は軽い足取りで女子たちの所へ向かって行った。
「……マジかよ」
「晃輔、忘れがちだけど、ウチのクラスの女子たちって周りから見るととんでも無いぐらい美少女らしいぞ」
あまりの人の多さに晃輔が引いていると、高絋は苦笑いしながらそう告げた。
「まぁ……そうだな」
実際、改めて見ると美少女ばかりだとは思う。
しかし、だからといってもあそこまでなるものなのかとも思ってしまう。
「晃輔と泰地、楠木は現地集合だったからあれだと思うけど、あのメンバーと一緒に歩いていると色んな人に見られるのなんの……」
「生きた心地しなかった……」
高絋が疲れた表情で道中での事を告げると、順哉は死にそうな顔で同意していた。
本当に大変だったのだろう。
「お、お疲れ様……」
高絋たちからプールに来るまでの苦労話を聞いていると、昌平を筆頭に水着に着替えた女子たちがこちらにやって来た。
「おーい!晃輔ー!」
「ごめんね~!遅くなったー」
そう言って、笑顔で手を振ってこちらにやってくる希実たち。
確かにこれは、他の人が女子たちに熱い視線を送る理由がわかる気がする。
希実はピンクのセパレートタイプの水着を、石見は花柄の刺繍が特徴的なビキニタイプの水着を着ていた。
「ごめん、男子たち」
「ごめんー!遅くなったー!更衣室混んでてさー」
また、希実と石見に続いてやって来た筋乃は肩フリルが特徴のビキニタイプの水着を、土井は大人っぽい黒色を基調としたビキニタイプの水着を着ている。
また、筋乃の後ろで、恥ずかしそうに体を隠しながら付いてきたななは海の時にも着てた白地のビキニの水着を着ていた。
いつもは下ろしている綺麗な黒髪を、今日は結んでツインテールにしていて破壊力が凄い。
「す、すげーな……」
「本当にウチのクラスの女子たちってのは……」
「……」
希実を彼女に持つ昌平を除いた泰地たちは、惚けた表情で女子たちを見ている。
お世辞抜きで、ななたちがアイドルや芸能界にいるモデルかと思うぐらい全員が美少女で驚かされた。
こうやって並んでいる所を画にしたら、億超えができるのではないかと思ってしまう。
「男子たちーどうしたの?」
「あれれ……もしかして、私たちに見惚れちゃった?」
「希実、うっせえ」
「ひどいなー!でも、しょうちゃんに可愛いって言われたんだー!」
「はいはい。惚気は結構です」
「むー!……それにしても、男子たちの水着似合ってるねー。やっぱり無難なもので来たかー」
「悪かったな。無難なもので」
「いやいや。流石だなって。むしろ変なもので来られたらコメントに困ってたよー」
晃輔たち男子はそれぞれ今年のトレンドらしいものをそれぞれ着ていた。
別におかしくはないのだろう。
晃輔がそんな事を考えていると、ななが晃輔を腕を引っ張り、少し離れた所に来たため意図せずにななと二人っきりになった。
すると、二人きりになった状態でななが晃輔に尋ねてきた。
「ねえ晃輔」
「うん?」
「私の水着どう?変じゃない?」
似合わない訳がない。むしろ似合いすぎていて、色々と視線の流し方に困るのだ。
「……変じゃないよ……凄く似合ってる。可愛いと思う……」
「ふふ、良かった……」
晃輔が答えるとななが安堵したように息を吐いていた。
そして、ななは自分の髪の毛を指でくるくるしながらはにかんでみせた。
「海で遊んだ時、晃輔私の事全然見てくれなかったから、私の水着変なのかなって思って。折角、晃輔が選んでくれた水着だったのにちょっと寂しかったから」
ななの一言一言が今の晃輔には致命傷になりそうだった。
晃輔は恥ずかしさのあまりか、自分の顔が徐々に赤くなっていくのを感じて、晃輔自身どうしたら良いか分からなくなる。
ただ、それは本人もそうなのか、海の時同様にいつにもなく露出した姿が恥ずかしいのか、頬が内側から火照っていてななが強がっているのが丸分かりなのだ。
「ご、ごめん……海の時は、その……ななの水着が凄い似合ってて……す、凄く可愛いくて……あんまり直視出来なかった……」
「!……そ、そう……」
「お、おう……」
言ってて恥ずかしくなるような内容で変に意識してしまって、晃輔はななを直視できなくなってしまった。
ちらりと周囲を目を向ければ、ななの水着姿を凝視している男のなんと多い事か。
女性連れの男まで惚けたようにななを見ていて、彼女と思わしき女性にはたかれている男も居る。
正直、あんまりいい気分ではない。
「……勿論、似合ってるんだけどさ」
「似合ってるんだけど……?」
「……」
「こ、晃輔?」
晃輔は無言で着ていたラッシュガードをななに掛けた。
「何か、こう。海と違ってプールって人が多いから……」
「多いから……?」
晃輔の謎行動に驚いているななが上目遣いを継続しながら尋ねてくる。
「な、何でもない。ただ、ななの水着姿が他の人に見られるのがあんまり面白くないなって思っただけ……だ……」
晃輔の語尾がどんどん小さくなりながらも頑張って告げると、言った本人である晃輔も、それを正面から聞いたななもお互い顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。
自分でも何を言っているのだろうと思った。
これでは、まるで恋人のような、独占欲の強い彼氏みたいなことを言っている。
「そこのお熱いお二人さん。そろそろ良いかなー?二人のいちゃラブに付き合ってたらプールに入る前に日が暮れちゃうよー?」
「「希実!?」」
「いやー、二人の世界に入るのは別に良いんだけど、一応ここ、公共の場だからね?あと私たちもいるからね?」
「ご、ごめん」
「ごめんなさい」
希実にそう言われ晃輔とななは同時に謝罪をする。
「ほら、みんな待ってるから、行くよ」
そう言って希実が指をさした方向を見ると、既に準備を終えた皆が晃輔とななを待っていた。
合流するにも急いで走ると危ないので、最大限の安全を考慮して早歩きをして皆の下へ向かう。
すると、晃輔と一緒に皆の下へ向かっていたななが上目遣いをしながら晃輔に尋ねてきた。
「ねぇ晃輔」
「うん?」
「二人きりなら、私の水着姿、たくさん見たい?」
「!?」
歩きながら凄いことを言い出したななに、晃輔は驚いて目を見開く。
本当に今日はどうしたのだろう。
「えっと……嫌だった?やっぱり私の水着姿なんて見たくなー」
「ふ、二人きりなら……勿論見たい!けど、それは出来れば本当に二人の時でお願いします。俺が社会的に死ぬので」
晃輔が大真面目な表情でそう告げれば、ななはふっと笑って晃輔を見つめた。
「何よ、社会的に死ぬって……?……でも、良いわよ。晃輔がどうしても見たいらしいから、今度家で見せてあげる」
「お、おう……」
晃輔に言われ気分良くなったのか、ななは晃輔の耳元で囁くように告げると皆が待っている所に小走りで向かっていった。
「可愛いよねー!ななって」
「……やっぱりお前の仕業か。なならしからぬ行動だったから、もしかしてとは思ったが……頼むから、心臓が保たなくなるから止めてくれ」
「あ、はははー!私たち女子会やった時、なな可愛かったんだよ?『折角晃輔が良いって言った水着着てきたのに、何も言ってくれなかった』って。もーめちゃくちゃ可愛かったんだからー……ちゃんと、ななの事見てあげなよ?」
「……うるせぇ」
晃輔はそう告げると、にやにやと笑っている希実と一緒に皆が居る所に小走りで向かっていった。
「それじゃあ、まずは流れるプールやスライダーがある所で遊んで、その後、皆でミストやバブルプールがある所に行こう!」
全員が集まった所で石見がそう言うと、皆思い思いの返事で返した。
「「「了解」」」
「わかった」
「うん」
「おっけー!」
「わかったわ」
「じゃあ、のん遊びに行こうぜ!」
石見の話そっちのけで、一人、人の話を一切聞いていなさそうなのもいたが。
「それじゃあ、私たちは人数が多いから、あんまり他のお客さんのご迷惑にならないように気を付けて……解散!」
こういう時に頼りになる石見がリーダーとなり皆に号令をかける。
すると、その号令を合図に昌平と希実はあっという間にウオータースライダーの方へ行ってしまい、泰地や石見たちは二人を見て苦笑いすると六人でまとまって二十五メートルプールの方へ行ってしまった。
こうしてあっという間に晃輔とななだけ取り残されてしまった。
取り残されてしまった晃輔がどうしたものかと考えていると、ななに腕を引っ張られた。
「晃輔……えっと、私たちも行きましょう」
「お、おう……何処いく?」
「……私ってあんまり泳ぎ得意じゃ無いのよね……」
「意外だな……てっきり何でも出来ると……」
学校の体育では希実たちと同じで何でも出来ると思っていたので、正直意外だった。
幼馴染でもまだまだ知らない事があるんだなと思う。
「そういや、海の時ほとんど泳いでなかったな……」
晃輔がそう告げるとななは恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。
「そしたら、流れるプールに行くか。丁度一個浮き輪余っているし。あそこなら泳ぐ必要なんてないし。どうだ?」
「ええ……ありがとう」
「どういたしまして」
晃輔がそう告げると、ななは嬉しそうに小さく笑って晃輔との距離を詰めた。
詰めるというより、正確には腕に密着するというのが正解だろう。
ラッシュガード越しに何かふくよかな柔らかい感触を感じるのだ。
ななは楽しそうにしているので恐らく無意識なのだろうが、下手にななに言えば茹だって気まずくなるのが目に見えているので、晃輔はさり気なくななから距離を取ってプールに到着するまでの間頭の中で素数を数え続けた。
流れるプールに着いて先程膨らませた浮き輪をななに渡すと、ななは微妙に拗ねた表情をしていた。
それでもななは不服より安全を取ったのか、素直に浮き輪に体を預けて水にぷかりと浮かんだ。
念の為、晃輔は泳ぎが苦手らしいななの近くで様子を見るため側にいるが、恐らくこの様子なら大丈夫だろう。
隣の晃輔に見守られながらななはリラックスした表情で告げた。
「良いわね……こういうのも……」
「だな……どうだ?気持ち良いか?」
「ええ……気持ち良いわ……水の流れに身を任せるっていうのも良いわね……」
「そうか、良かったな」
晃輔がそう告げると、何を思ったのかななはラッシュガードの裾から伸びる白色の素足を使ってぱしゃりと水を持ち上げるように蹴った。
ななが蹴った水が晃輔の顔面にクリーンヒットするのを見て、ななは楽しそうに笑みを浮かべていた。
「……やったな」
晃輔はジトッという視線をななに向けると、軽くやり返すようにななに軽く水をかけるとその笑みが深まった。
「ふふ……えい!」
晃輔に水をかけられたななは、やり返すようにご機嫌にぱしゃぱしゃと水を蹴り上げた。
流れるプールでななと晃輔がお互いに水をかけあって遊んでいたら、ななが浮き輪ごとバランスを崩した。
「あのなぁ……」
慌てて駆け寄ると、なながぎゅっとしがみついてきた。
「うぅ……ごめん……!」
そう言ってななが顔を上げると、晃輔とななの顔の距離が思っていたよりも近近いことに気が付いて、お互い目を逸らした。
「……晃輔……もう少し大人しくするから私のそばにいてくれる……?」
「……おう」
水に落ちかけて怖かったらしいななが上目遣いで尋ねてくるが、晃輔は断れるはずもなく目を逸らしながらも頷いた。




