楽しみな思い(あおい視点)
夏休みが始まり数日。
部活の助っ人として引っ張りなあおいは、空いた時間で少しでも宿題を進めようとしていると、突然、ななから連絡が来て二人の住む家に来るように呼び出させた。
「それでね、私がシャムちゃんと遊んでいる間に、晃輔がいつの間にかコーヒーを頼んでくれてね」
「うん」
「それで、そのコーヒーに猫のラテアートがしてあって、それが凄く可愛くて!」
「うんうん。良かったね」
何事かと思い急いで駆けつけると、あおいが家に着くなり、こうして姉から惚気話を聞かされているのだ。
これはいったい何の時間なんだろう。
私は何で呼び出されたんだろう。
まぁ、今のお姉ちゃんめちゃくちゃ可愛いから全然いいんだけど。
あと、お姉ちゃんの精神年齢どうしたんだろう。
楽しかったのは凄く伝わってくるんだけどね。
「支払いとかも全部晃輔がやってくれてね。ほんとにカッコよかった!あと、その後一緒に水着を買いに行ってねー」
「うんうん。お姉ちゃん、楽しかったんだね。こー兄とのお出掛け」
お姉ちゃんの話をまとめると、お姉ちゃん凄く楽しかったんだろうなーって。
ただ、このままだとお姉ちゃん、永久にこー兄とのお出掛けの話をすると思うから、一旦話を止めさせてもらうよ。
「うん!」
うん。凄く可愛い。
これが恋する乙女ってやつなのかな、目がキラキラしているように見える。
でも、一旦このお姉ちゃんを止めないとちょっと私がお砂糖の被害に遭いそう。
「ねぇ、お姉ちゃん。せっかくの夏休みだしさ、お姉ちゃんももっとこー兄と遊びたいよね?」
「それはもちろんだけど……でも、どうするの?」
きょとん、と首を傾げるななにどきりとしつつ、あおいは家のリビングに置いてあった旅行用のパンフレットを思いだしてとある提案をしてみた。
「えっとね……海に行きたいなーって……」
「海?」
「そう」
「三人で?」
「うん」
その三人以外で行くっていう選択肢は私には無いよ、お姉ちゃん。
「う〜ん」
「お、お姉ちゃん?何か悩む要素あった?」
「いや、別に良いんだけど……確か、あおいって私の誕生日プレゼント買うときに晃輔とデートしたんでしょ?」
「え、う、うん……そうだけど……今それ言うの?お姉ちゃんの誕生日って結構前の話だよ!?」
「だって晃輔と二人っきりで……楽しかったんでしょ?」
「うん」
思わずあおいが頷くと、ななからジトッという視線を向けられた。
あー……何か地雷踏んだのかなー。
何が言いたいかは分かるけど、まさか実の姉から嫉妬の念を向けられるとは……正直、この状態のお姉ちゃんをこー兄に見せてあげたいなー。
どんな反応するんだろう。
幸せそうに笑ったり、目一杯悲しんだり、忙しいお姉ちゃんだなー。
「分かったわ。そしたらいつ行くの?」
「えっと……そしたら明日?」
「あ、あした……」
あおいがそう告げると、ななの顔が引きつった。
気持ちは分かるけど、その表情は意外と堪えるよ、お姉ちゃん。
「むしろ、私が夏休みは部活の助っ人祭りで、中々まとまった時間が取れなくて……」
いくらでも時間があれば他日で良いんだけど、思ってたよりも多くの部活の助っ人を頼まれちゃったからなー。
本当に申し訳ないとは思っているんだよ?
「そうね……あおいは忙しいから……私は大丈夫だけど……晃輔が帰ってきたら聞いてみないと」
「そ、そうだね。ごめんね、急に」
「大丈夫よ。あおいだって息抜きが必要よね……」
ななはそう告げると、じっとあおいを見つめた。
「あおい、今日は助っ人は無いのよね?そしたら、晃輔が帰ってくるまで一緒にゲームでもやらない?」
「ゲーム!いいの?やったー!」
ななからのまさか提案に、あおいは両手を上げて喜びを表す。
こうして晃輔が帰ってくるまでの間、あおいはななと一緒に楽しくゲームをして過ごすのだった。
***
「ふふ〜、こー兄良い反応だったなー。明日の海楽しみだなー!」
夜ご飯を済ませたあおいは、明日晃輔とななと行く海に向けた準備をしていた。
日中、あおいの実姉であるななから、晃輔と一緒に猫カフェに行って、更には一緒に水着を買いに行った、とやたらテンションの高い惚気話を聞かされたのだ。
お姉ちゃんとこー兄が楽しそうなのは、それが一番何だけど……何か複雑。
何か、私だけ仲間はずれにされているみたい。
惚気話を聞かされたあおいは、せっかく夏休みだし、私もこー兄と夏っぽい事をしたい。
そのわがままを叶えるために、ちょっと無茶な要求をしちゃったけど、お姉ちゃんもこー兄も嫌な顔一つせずに受け入れてくれた。
やっぱり、お姉ちゃんもこー兄も超がつくほど優しいなー。
まあ、単純にお姉ちゃんもこー兄も私にめちゃくちゃ甘いって言うのもあるかもだけど。
あおいは陽気にそんな事を思いながら、明日の海で必要になりそうな物を棚から引っ張り出していく。
水着、ラッシュガード、タオル、サンダル、浮き輪、飲み物、お金。
「うーん……これ足りるかな……」
取り敢えず必要になりそうな物は出してみたものの……。
水着などは、球技大会後の休日で凛ちゃんたちと可愛いの買ったから大丈夫そうだけど……よく考えてみたら、お金意外と足りないかも。かき氷とか買うかもしれないし。
どうしよう、とあおいが悩んでいると、ふと思いついてとある人に電話を掛けた。
あおいが電話を掛けた相手は、何回かコール音がなると気だるそうな声で電話に出た。
「やっほー嶺兄」
『……どうした?』
心なしか嶺兄の声が反響しているような気がするのは気のせいかな。
「嶺兄、今お風呂でも入ってるの?何か声が反響して聞こえるんだけど」
『入ってるよ』
「早いねー」
『別に早くはないだろう』
「そう?だってまだ20時過ぎたばっかりだよ?」
『俺はこれが普通なんだよ』
「へえ~健康的だね?」
割と健康的な嶺の入浴時間にあおいが軽く驚いていると、その健康的な時間に入浴中の嶺があおいに尋ねてきた。
『……それで、本題は?俺に何かお願いしたくてしてきたんじゃないのか?』
「あ、はは……さすが嶺兄ー。実は、ちょっとだけ私たちに経済的な支援をお願いしたくて……」
『どっか遊びに行くのか?』
「えっとね……明日三人で海に行くって話になって、そのほら、海の公園行くとかき氷とか食べるだろうし……」
『それで、諸々でお金が必要になると?』
流石嶺兄様。何でもお見通しなんだね……。
あおいの思考を先読みした嶺にあおいは、はい、と小さく頷いた。
すると、電話越しに嶺兄の大きなため息が聞こえてくる。
『分かった。多分だけど、海行くこと親には伝えてないよな?』
「はい」
『やっぱり……ちゃんと伝えておけよ?あと、明日は俺も暇だからついて行く。保護者代わりだな。それに車あったほうがいいだろ?』
「え、嶺兄は年中暇じゃないの!?」
『……切るぞ』
思わずあおいは素で突っ込んだ。
「冗談だよ、嶺兄。そしたら明日お願いしても良い?」
『ああ。じゃあまた明日な。お休み』
「お休みなさい」
そう言って電話を切ると同時に、リビングからお母さんがお風呂に入るように言ってきた。
「はーい!今入りまーす!」
あおいは元気よく返事をすると、パジャマを持ってお風呂場に向う。
久々に四人揃って遊ぶ事にとても懐かしさを感じつつ、自分も含め成長した皆と遊ぶのが凄く楽しみだなぁ、とあおいはそんな事を思いながらお風呂場に向かうのだった。




