男子会
「さて晃輔、こないだの事聞かせてもらおうか」
ななとのお出かけから丸二日。
晃輔たち男子五人でカラオケに行く約束の日、晃輔たちが予約していた部屋に入るとすぐに、高絋から笑顔が向けられた。
「そうそう。晃輔、何で楠木と一緒に試着室に居たんだ?」
高絋に続いて順哉まで楽しそうな顔して聞いてくる。
正直、このメンバーからの追及は覚悟していたのだが、こう囲まれて聞かれると気まずさが大きい。
ただ、逃げようにも昌平と順哉が晃輔の両隣を占領していて逃げられない。
晃輔はため息をつくと、ついできたコーラを一旦口にして喉を潤してから、仕方なく口を開いた。
「その言い方、語弊があるだろ……偶然っていうか、咄嗟に隠れたというか……」
「咄嗟に、好きな人が着替えている所に隠れると?」
「うっせ」
チクりと刺さる昌平の一言に、晃輔はぷいっとそっぽを向いた。
あれは本当に仕方なかったのだ。
ななが咄嗟にあの判断をしていなければ、晃輔となな二人とも見つかってきっともっと面倒なことになっていただろう。
「あの時はお互い混乱してたんだよ。家帰ったら、俺もななも反省大会だったんだから」
晃輔は一昨日の事を思いだして頭を抱えた。
「大変だったな……お疲れ様」
泰地は気の毒そうな表情を晃輔に向けた。
「サンキュ……というか……好きな人って……」
今更だが昌平が好きな人という単語を使っていたことに気が付いて、晃輔は軽く昌平を睨んだ。
「ああ、ごめん晃輔。口が滑った」
そう言って、昌平は楽しそうに笑う。
全く悪びれた様子がない昌平に、晃輔は更に睨みを利かせた。
「おい……」
「それで、どうなんだ?」
晃輔が昌平への睨みを利かせていると、横から興味津々の顔で高絋と順哉が晃輔を見てきた。
心なしか二人とも目がキラキラしているようにも見える。
「何が?」
「そんなとぼけなさんでも。別に今は俺たちしかいないし、素直にぶっちゃければいいだろ?」
「うっせ」
元凶である昌平にそう言われ、晃輔は軽く毒を吐く。
晃輔は小さくため息をつくと、ついできたコーラを口にして喉を潤してから、口を開いた。
「…………好きじゃ悪いかよ」
なんだこの公開処刑は、と顔を赤くさせながら晃輔がそう告げると、何故か途端に静まり返った。
『……』
「おい、全員にやにやして黙んな!!何か喋れ!!」
晃輔以外全員、生暖かい視線を晃輔に向けつつ、にやにやとした表情で晃輔を見てくる。
「やー甘酸っぱいなーって思って」
「意味わかんねえよ」
何を言ってんだ、と意味がわからない事を言う順哉に晃輔はすかさず突っ込んだ。
「それにしても、やっぱりそうだったか。うんうん」
「お前も一人で何言ってんの」
「早く告ればいいのにな」
「うるさい。お前はマジで黙ってろ」
「いやー、こわ~い」
昌平のおふざけが止まらず晃輔が昌平の足を蹴ろうとした瞬間、泰地がそれを止めてくれた。
「まぁまぁ。それで、なんで楠木と試着室に一緒にいたんだ?」
「お、やっと本題に入ったか。結構脱線したからな」
「誰のせいだと」
再度昌平のおふざけが発生して晃輔がイラッとした所を、泰地が止めに入る。
「まぁまぁ、落ち着いて晃輔。それでどうして?」
「ああなったのは、お前たちが突然試着室に来るから、一緒にいる所を見られたら面倒くさいことになるってことで、このままじゃまずいと判断したななが俺を試着室に引きずり込んだんだ。決してやましいものはないからな」
晃輔が一昨日の事をきちんと説明すると、晃輔以外の全員が声を揃えて告げた。
『へえ~?』
「なんで疑うんだよ」
「いや、疑ってはないんだけど……その様子を見ると、本当に結構順調に暮らしてるんだなって」
頬を紅潮させながらそう告げる晃輔に、泰地は少しの驚きと、それと同時に安堵したような表情を浮かべ晃輔を見ていた。
泰地なりに心配してくれていたのだろうか。
「ん……まぁ……ところで、ずっと気になっていたんだが泰地はなんでななのこと楠木って呼んでんだ?確か中学の時はななって呼んでいたよな?」
いたたまれなくなって、晃輔は話題を逸らす事を目的として泰地にそう尋ねてみた。
そう言えば気にはなっていたのだが、わざわざ改まって聞くようなものでもなかったため……まぁ丁度良い機会だろう。
「そうなのか?」
「ああ。まぁ確かに中学の時はな」
「今は?」
「何かほら……高校生になると下の名前で呼んでると色々と誤解を招くだろ。晃輔」
「知らん。俺に聞くな」
泰地に同情するような目線を向けられた晃輔は、切り捨てるようにそう告げた。
気持ちは凄く分かる。
多感な時期である思春期あるあるだと思うが、そんな事をいちいち気にしていたら学校生活をできる気がしないので、晃輔はあんまり気にしないようにしているのだ。
「えー……まぁだから、下の名前で呼んで変な騒ぎを起こすよりは、普通に楠木って呼んでいた方が良いかなって」
「……めんどくさ」
泰地の持論を聞いて、思わず晃輔はそう呟いてしまった。
すると、静かに泰地の話を聞いていた高絋たちが次々と晃輔に文句をぶつけて来た。
「……悪い、晃輔にだけは言われたくない」
「思った。晃輔だけには言われたくないよな」
「ほんとだよ」
「早く告れよ」
「お前は黙れ」
晃輔がスパンっと切り裂くように告げると、昌平は大きくため息をついた。
「あのなぁ……見ているこっちがじれったいって思うんだよ。だから、早く告ってダブルデートしようぜ」
「なんでそうなる」
昌平は簡単にそう言うが、そう簡単に行く訳がないだろう。
確かに、ななに親愛を向けられている事自体は、自覚している。
好意を向けられているのも、誰よりも信頼されているのもわかる。
ただ、それが異性としての好意かどうかの判別は出来ない。
ななから感じるのは、異性としての好意というよりは、一緒に暮らす幼馴染として信頼している、そんな気がするのだ。
「呆れた……お前、楠木さんのあの眼差しを見てよくそんな事言えるな」
昌平は本当に呆れたようにそう告げる。
「俺に、別に良いところなんてないだろ……」
晃輔が反論すれば、昌平に無言で思い切り脛を蹴られた。
「蹴ったことにはまぁ、良くなかったと思ってる。でも、お前が自分に自信が無いのはちょっと良くないぞ」
「実際に、俺なんかよりもっと格好良くて頭良くて性格良いやつがいるだろ」
晃輔が不貞腐れながらそう告げると、それを見ていた昌平は呆れたように大きくため息をついた。
「はぁ……自己否定が強すぎる。何をどうしたらこうなるのか……今からでも、部活に入って自信つけたほうが良いんじゃないか?」
いつもへらへらしている昌平が珍しく真面目な表情で晃輔に告げた。
すると、この流れはまずいと判断した泰地が止めに入ってくれた。
「ちょ、昌平ストップ。晃輔にも自分のペースがあるんだし……それに、今から部活は厳しんじゃないか」
「でも……」
昌平が何か言いかけたが、泰地がこれ以上はという感じで首を振るので大人しく口を閉じた。
「悪いな……昌平。俺はもう部活は入んないんだわ」
「ああ。悪いな晃輔。嫌な気分にさせたな……ごめん」
「いや、いいよ……大丈夫。でも、自信無いのはどうにかしなきゃとは思ってるんだ……一応」
正直、こればかりは晃輔本人の性格の問題なので仕方ないし、直そうとしてもそう簡単に直るものではない。
忌々しい、忘れたくても忘れられないような辛い思い出ほど、中々消えてくれないのだから。
一度、人の悪意によって傷付けられてしまうと、まぁ中々立ち直るは難しいのだ。
それに、忘れようにもまだ時はそう経っていないため、まぁ難しいだろうと晃輔は思う。
頑張ってどうにかしようとすればするほど、自分の情けがよく分かる。
昔の事を思い出し悲痛な顔で沈黙している晃輔を見て、昌平たちは優しく声を掛けた。
「部活の事は分かった……晃輔、俺たちはみんな応援してるから。成就するといいな」
「ああ」
「応援してるぞ」
「頑張れ晃輔」
「……みんなありがとな……そしたら、せっかくカラオケに来たんだし歌おうぜ」
「おう。楽しまないとな」
「何歌う?」
晃輔が提案すると、皆直ぐに切り替えて歌の選曲を始めた。
こうやって後腐れなく直ぐに切り替えて次の事を始められるのが、皆がスクールカースト上位にいる理由の一つなのだろう。
改めて、自分は凄い良い奴らと友達になれたんだなっと実感することができた。
久々にカラオケに来てテンションが高くなった晃輔は、皆で歌うことに夢中になりすぎてななに、遅くなる、という連絡を入れ忘れてしまった。
晃輔が慌てて家に帰ると、待っていたななにこっ酷く叱られてしまった事は、皆には内緒にしておこう。




