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水着選びとハプニング


 名残惜しみながらも猫カフェを後にした晃輔たちは、ななの要望に応え駅ビルの中にあるお店に足を踏み入れた。


「なぁななさんや、ここ俺入っても大丈夫なやつ?」

「?……別に入っても問題ないでしょ?」

「それはななの場合で……」

「晃輔だって問題ないと思うけど?だって水着だって服と一緒なんだから」

「それはそうなんだけど……」


 そう言いながらも、ななは一切こちらに顔を向けない。

 なながこちらに顔を見せないため正確には分からないが、ななの耳が赤く染まっているのを見ると、恐らく相当恥ずかしいのだろう。


 ただ、晃輔も同じように恥ずかしいのだ。

 周りを見ると圧倒的に女性の割合が多く、一応男性もいるがすぐ近くに女性もいるので恐らくカップルなのだろう。


「そしたら、一旦俺は外にー」


 周りが女性だらけで全然落ち着かない晃輔は、一旦外に避難しようとすると、ななに腕を取られて逃げ場を無くされた。


「待って晃輔……今日は一日、付き合ってくれるの……よね?」

「はい」


 弱々しい声でそう言われてしまうと断ることが出来ない。

 それに、自分でそう言ってしまった以上逃げられない。


「そ、そしたら水着選ぶから晃輔も付いてきて」

「お、おう」


 二人して顔を真っ赤に染め上げながら店の水着コーナーに入った。

 特に悪い事をしたわけでもないのに、悪い事をしている気分になる。


「結構あるわねー」

「そ、そうだな……」


 ななが横で感心したようにそう告げるが、恥ずかしさが上回り直視出来ない。


「晃輔はどんなのが良いと思う?」

「新手の拷問か!?」


 気恥ずかしくて直視出来ない晃輔に水着の良し悪しを聞くのはもはや拷問だろう。

 わざとやっているのではないかと思ってしまう。


「ご、ごめん。そんなつもりじゃなくて……私のだから私が選ぶのは当然なんだけど……やっぱり晃輔にも選んでほしいから……だめ?」


 そう告げたななは、恐らく本人は気付いてないのだろうが、完全に上目遣いの形となっている。


「わ、わかった。選ぶから……近いから少し離れてくれ」

「!……ご、ごめん」


 晃輔にそう言われた顔を赤くさせたななは咄嗟に晃輔から距離を取った。

 本人は無意識だろうが、水着コーナーでななが晃輔にぴったりと体をくっつけてきたため、晃輔は色々とやばかった。

 ただ、そういう距離の取り方は少し傷付くが心身の保全のためには良かったと思う。


 晃輔は何かないかと辺りを見渡すと、ふと一つの水着が目に止まった。

 すると、ななが晃輔の視線を追ってその水着に手を伸ばした。


「これ?」


 ななが手に持っているのは、白地のビキニの水着で、どこか品と清楚さを感じるものだ。


「えっと……ななに似合いそうだなって……」

「そう……晃輔はこういうのが……ちょっと待って。ええっとサイズは……うん、ありそうね」


 なながぶつぶつと何か呟やき始めたと思ったら、突然、晃輔が持っていたカゴを奪い取って男性が入りづらいような水着の森に入っていって、そしてすぐに出てきた。

 謎の行動を見せるななに晃輔は困惑する。


「すいません、試着室お借りしたいんですが……」

「どうぞ!こちらにございます。ご案内しますよ!」

「すいません、ありがとうございます。晃輔、何してるの?ついて来て」


 近くにいた店員さんを捕まえて、まるで俊敏な猫の様な動きを見せるななに全くついて行けずに戸惑っていると、こっちに来い、とななに手招きされた。


「え」

「早く。店員さんに迷惑かけちゃうでしょ」

「はい……」


 有無を言わせぬ表情で晃輔を呼びつけたななは、晃輔を試着室の前まで強制連行した。


「あの、ななさん?」

「何?」

「いや、何?じゃなくて……俺居る必要……」

「あるの!さっき、晃輔が選んでくれたのはもちろん買うんだけど、他のも見てほしいから……」


 そう告げるななの語尾がどんどん弱々しくなっていき、見ているのがちょっと辛くなった晃輔は、ななの要望に応えることにした。


「わ、分かったから。からそんな顔しないでくれ。ちゃんと見てななに似合う水着を選ぶから」


 晃輔がそう告げると、ななの顔がぱぁっと明るくなる。


「ほんと?じゃあ着替えるからちょっと待っててね」


 そう言ってななはパタパタと試着室に入っていった。

 可愛い彼女さんですね、とななの着替えを待つ間、店員さんに声をかけられてどう返事をしたら良いのか分からず、否定してもドツボにはまると思い黙って下を向くと、店員さんは楽しそうに笑ってどこかへいなくなってくれた。


 ななは青色のフレアトップとスカートを組み合わせた水着や翡翠色のワンピースタイプの水着など、色々な水着姿を晃輔に見せてくれた。


 ななの着替えを待っている間は暇になるので、晃輔はそこから見える範囲で辺りを見回すと、晃輔がよく知る人物たちが見えた。


「!!……何であいつ等がここに……」


 晃輔の焦った声から異変に気付いたなながカーテンから顔を出す。


「晃輔どうしたの?」

「ななやばい。泰地たちがこっちに向かってきている」

「え!何で?」

「いや、それはこっちが聞きたい……それよりも……どうする?」

「どうするって言ったってー」


 晃輔とななが慌てていると、泰地たちが夏服を持って試着室にやって来た。


「良かったなー、結構空いていて」

「だなー」


 すぐ近くで高絋と順哉の声が聞こえる。


「晃輔、今こっち見たら……解っているわよね?」

「はい」


 晃輔の背後で顔を真っ赤にさせながら、ななは晃輔の耳元でそう囁いた。


 吐息を感じる超至近距離囁きに、思わず晃輔の心臓が跳ねる。

 近い、とそんな事を思いつつも今は完全予想外の非常事態なので、余計な事を考えないように意識を別のところに逸らす。


 先程、どうしようかと悩んでいると、泰地たちの声を聞いてこれはまずいと思ったのか、ななが晃輔を試着室に引きずり込んだのだ。


 ただ、焦っていたのかななは下着を着けておらず、一応ななは服を前に持ってきてはいるが、晃輔にはその果実から伝わる人肌と感触がほぼダイレクトに背中に伝わってきて気が気じゃなかった。


 これは本気で良くない、心臓が持たない、と晃輔は余計な事を意識しないように頑張って頭の中で素数を数え、泰地たちが試着室からいなくなるのを待った。


「昌平、泰地どうした?」


 試着室に着いた高絋が、晃輔となながいる試着室の前で何か考える様な仕草する昌平と泰地にそう尋ねた。


「いや、何か気のせいかなって思ってたけど……」

「ああ、俺も思った。これ、いつも晃輔が履いてる靴だよな」

「ああ。この靴紐の結び方、晃輔の癖だよな」

「ちょうちょ結びのはずなのに、横じゃなくて縦になっちゃうだよな。晃輔って微妙に不器用だから」


 ……何で分かるんだよ、早くいなくなってくれ、と晃輔は微妙に気恥ずかしい思いをしながらも必死に心の中でそう願った。


「まぁいいや、本人に直接聞こうぜ」

「だな。明後日が楽しみだ」


 しばらくすると、泰地たちの試着が終わったらしく、泰地たちが試着室を離れた。

 泰地たちが離れたのを確認しホッとしていると、マナーモードにしているスマホの着信が鳴った。

 晃輔はやっとの思いで試着室を出てスマホを確認する。

 どうやら球技大会の時作ったグループに、晃輔宛のメッセージが来ているようだった。


『明後日、色々聞かせてな』

『楽しみにしてる』

『デートお楽しみな』


 スマホを開くと、晃輔の予想通り泰地たち四人から晃輔宛にメッセージが来ていた。

 どうやら、明後日の男子会で色々と聞かれることになりそうだ。


『晃輔、店の試着室でおっぱじめるのはどうかと思うぞ。ヤるなら、愛の巣でヤるのをお勧めする』


「やかましい。余計なお世話だ」


 最後の、昌平のメッセージに晃輔が突っ込んでいると、ななが不思議そうな表情で晃輔を見てきた。


「どうしたの?」

「いや、何でもない。こっちの話」

「そう?えっと……そしたら、着替えたら買ってくるから、申し訳ないんだけど晃輔はお店の前にいて欲しいかな……」

「お、おう。分かった……じゃあ待ってるから」

「ありがとう」


 ななに言われた通り、晃輔は店の外にある椅子に座って待っていると、店からななが出てきた。


「ありがとう」

「ん」

「目当ての物も買えたし、帰ろっか」

「おう」


 周りを見ると、仲の良さそうなカップルが圧倒的に多く仲良く手を繋いでいた。

 晃輔は周りの雰囲気に当てられたのか分からないが、無意識の内にななの方に手を伸ばしていた。

 ななの方も無意識の内に晃輔の方に手を伸ばしていてお互いの手がぶつかった。


「「!!」」


 お互いの手がぶつかり、お互い顔を見合わせる。

 ななの顔は真っ赤に染まっていて、それを見た晃輔もつられて顔を赤く染めた。


「「……」」


 気恥ずかしくなって晃輔が顔を逸らすと、なながぎゅっと晃輔の手を握ってきた。

 ななに手を握られた晃輔がななの手を少し強めに握ると、ななは幸せそうに微笑んだ。

 晃輔はななのその表情にどきりとしつつ、その掌の温もりに幸せを感じながらゆっくり歩き出した。


「……今日はありがとね。楽しかったよ」

「そうか、それは良かった」

「晃輔はどうだった?楽しかった?」

「俺も楽しかったよ。またななと来たいな」

「そうね。私もまた晃輔と一緒に来たいわ」

「また今度行こうな」

「ええ。約束よ」

「ああ。約束だ」


 耳まで赤く染めた晃輔とななは、お互い目を合わせることなく手を繋いだ状態で自分たちの家に帰った。



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