翌朝と夏休み開始
目覚ましのアラームが鳴り響き、晃輔は目を覚ました。
晃輔はゆっくりと体を起こして寝起きでぼーっとしている頭にエンジンをかける。
横を向くと、くぅくぅと可愛いらしい寝息を立てて眠り姫になっているクラスのアイドル……完璧美少女の幼馴染がいる。
昨日その幼馴染に膝枕と耳掻きをされていたんだなぁと思うと、なんかこう、晃輔的にくるものがある。
「ななのまつ毛長いな……いや、やっぱりやめよう」
晃輔は朝から昨日の事を鮮明に思いだしてしまい、余計な煩悩を払うためにぶんぶんと頭を振った。
「なな、起きろ。遅れるぞ」
「んんっ……まだ、もうちょっとだけ……」
「それは明日からにしてくれ。今日で夏休み前最後の学校なんだから。皆勤賞目指してるんだろ?」
「…………こないだ1回休んじゃったから皆勤賞取れないよ?」
「起きてんじゃねぇか……」
甘えた声でそう告げるななに、晃輔は思わず突っ込んでしまった。
「はぁ……先リビング行ってるぞ。あんまり遅くなんなよ」
「は〜い……晃輔、着替えさせてくれても良いんだよ?」
「遅刻するぞ」
いたずらっぽく笑うななに晃輔は小さくため息をつく。
今日は夏休み前の登校日。
今日予定されているのはホームルームと修了式だけ。
テストが終わったので授業はもう無い。
だからといって遅刻するわけにもいかないので、なながベットの上でぐーたらしている間に、晃輔は顔を洗って朝ご飯を食べ始めた。
「それじゃあ、先行くから。晃輔戸締まりよろしくねー」
ななはそう言うと、玄関の扉を閉めてエレベーターに向かって行った。
「お、おう……何で後に起きたななの方が先に出るんだか……」
ななを見送った晃輔は独りそう呟いた。
学校に遅れないようにと晃輔は少し急ぎ足で朝ご飯を食べていたら、食べ物が気管に入って思いっ切りむせてしまい、そこからしばらく横になっていたため、ななよりも出るのが遅くなってしまったのだ。
夏休み前の最後の日に遅刻するわけにもいかないので、ななを見送った晃輔は急いで準備して学校に向かった。
晃輔が教室に着くと、何故か晃輔の席を中心にお馴染みのメンバーが集まるという謎の現象が起きていた。
「あ!こーすけ!おはよー!」
晃輔が教室に入ると朝からテンションの高い希実に声を掛けられた。
「おはよう……朝っぱらから元気だな……つっうか人の席の周りで何してんだ?」
「おはよう晃輔」
「よう順哉。朝から何やってんだ?」
「吉橋の、今回のテスト成績の確認」
「確認?」
「ほら、ウチの学校テストで赤点取ると補習があるだろ」
「ああ……まぁ、普通にやっていれば関係無い話だけど」
晃輔たちが通う学校には、定期テストの成績が悪かった者は必ず補習を受ける必要がある。
もし、今回のテストで成績が悪かったら、夏休みにわざわざ学校に行ってテストの補習を受けなければならない。
「……まぁな」
晃輔の棘のある一言に苦笑いする順哉。
すると、希実がジトッという視線を晃輔にぶつけてきた。
「晃輔の鬼。悪魔」
「やかましい。テスト前の勉強会でゲーム大会してたのは希実だろ。自業自得だ。人に当たるな。それで、どうなんだ?もし赤点取ってたらなながキレるぞ?」
「そんな事言わないでよ……ところでさーななは?まだ来ないの?」
晃輔とななが一緒に暮らしていることは希実たち以外、余計な面倒事を減らすためクラスの皆には言ってないため、希実も気を使ってか近くの晃輔たちにしか聞こえない声量で尋ねてきた。
「?……まだ来てないのか?俺よりも早く出たんだけど……」
ななは晃輔よりも早く家を出たので、既に学校に着いているはずだ。
「多分、なな先生にでも捕まってるんじゃない?もうすぐ来るでしょ?」
「私もそう思うよ……ほら、噂をすれば」
筋乃の視線に釣られて教室のドアの方に目を向けると、ななが少し急ぎ足でこちらに歩いて来た。
「みんなおはよう」
『おはよー』
ななが挨拶すると皆もそれに答える。
「楠木が遅いのは珍しいな」
「先生に呼ばれたのよ。中間期末と1位取ったから、今日その表彰をするって」
「なるほど」
「それで……朝連絡来てたけど……希実どうだった?」
ななはそう希実に尋ねた。
ななも希実のテストの結果が気になっているらしい。
「実は……………………全教科赤点回避しました!!」
そう言って、皆が見守る中希実は返却されたテストを机に並べた。
『おー!!』
晃輔たちは揃って感嘆の声を上げた。
「希実やったね!」
「おめでとう!」
石見と筋乃は嬉しさのあまり希実に抱き着いた。
すると、抱き着かれた希実は困った様に笑うと、すぐ近くで安堵の表情を浮かべるななと土井に感謝の言葉を告げた。
「ありがとう!ななも藍子もありがとう!」
「どういたしまして」
「うん。頑張ったかいがあった。今回は本当にダメかと思った。正直、希実だけ夏休み補習になるかなって思った」
「ちょ、そんなこと思ってたの!?」
「思ってた」
鋭く刺さる土井の言葉に希実が悲鳴を上げる。
晃輔たち男子たちが女子たちの微笑ましいやり取りを見守っていると、担任が教室に入って来て体育館に行くようにと指示をして来た。
どうやら、もう修了式が始まる時間らしく、全員廊下に出て体育館に向かう。
「昌平、お前は知ってたんだな。希実の結果」
「おう、まあな。昨日『しょうちゃん!一教科も赤点無かったよー!』って抱き着かれた。あの時ののん、可愛いかったな」
「惚気は結構だ。無差別に砂糖を振りまくな」
「はいはい……ところで、晃輔今日修了式が終わった後どっか食べに行かないか?」
「良いけど、みんなでか?」
「今回は俺と晃輔だけ。泰地も順哉も高紘も、石見も筋乃も土井もそれぞれ部活だったり仕事があるからな。のんは既に楠木さんと約束があるみたいだし」
「みんな大変だな……分かった」
「お、サンキューじゃあ後でなー」
***
退屈な修了式が終わり、学校から下校した晃輔と昌平は制服のまま駅の向こう側にあるファミレスやって来た。
「へえ~……その反応、じゃあ楠木さんのご褒美は結構良かったと?」
「……うるせぇ」
最初はただの世間話、というより半分惚気に近かったものを聞かされていたのだが、突然昌平が昨日のご褒美についてのことを聞いてきたのだ。
良かった、と少し間をおいて晃輔が答えると、昌平は顔をにやにやさせながら晃輔を覗き込んできた。
「うざっ」
思わず晃輔がそう呟くと、昌平は更に笑みを深める。
なんだか見透かされているみたいで腹が立つので、晃輔は昌平の足を思いっ切り蹴ってやった。
感覚的に蹴ったのは脛あたりだろう。
「いてえよ…………で、晃輔は楠木さんの事好きなのか?」
「ぶっ」
昌平の唐突なそれに、晃輔は飲んでいたコーラを吹き出しそうになった。
恐らく態度などでばれているのでもう隠せないだろう。
「……好きじゃ悪いかよ」
「いーや、全然悪く無いと思う。むしろ俺は嬉しんだけどな。親友に好きな人……大切な人ができるってさ」
昌平はどこか嬉しそうにそう告げた。
からかうのではなく、友達として、親友として本心からそう言ってくれる昌平のその優しさに触れ晃輔の胸が少し温かくなった気がした。
「やっと晃輔にも春が来たかって」
「おい、俺の感動を返せ」
「冗談だよ。応援してる。実るといいなー」
「ん。ありがとう」
晃輔はそう言うと、先ほどのやり取りで上がった顔の熱を冷ますように残しているコーラを一気に飲み干した。
「まぁ頑張れ。明日から……実質今日から夏休みみたいなものだから、どっかデートでも誘えばいいんじゃねえか?」
「簡単に言うなよ。それが出来てるなら今こうやって苦労していない」
「まぁそうだよな……へたれだもんな」
「おい」
「……こう、第三者から全部言えたらいいんだけどな……」
「なんだよ」
「別に。……まあうん、頑張れ。俺は応援してる。夏休みもみんなで遊ぼうな」
「お、おう」
何処か呆れたようにそう告げる昌平に首を捻りつつ、晃輔は昌平のそれをありがたく受け取っておくことにした。




