打ち上げ
「えー、みなさんお集まりですね……それでは! ちょっと遅くなったけど、学年優勝おめでとう打ち上げを始めたいと思います!」
石見が元気良くそう告げると、クラスメイトから歓声が上がった。
『いぇ~い!』
「それでは! 学年優勝を祝して! 乾杯!!」
『カンパ~イ!!』
石見の掛け声に合わせてクラスメイトが元気よく声を上げる。
「あはは……よくやるな」
晃輔は、石見に合わせて声を上げているクラスメイトを見て、苦笑いを浮かべた。
「恥ずかしくからあんまり騒がないでほしいんだけど……」
ななも晃輔と同じことを思ったのか、恥ずかしそうにそう告げた。
「良いんじゃないの? 貸し切りだし」
「絢音……」
筋乃はそう言うと、晃輔の方へ向いて告げた。
「ありがとね、藤崎くん」
「ん。まぁ予約したのは俺じゃなくてうちの兄なんだけど」
「それでも、助かったよ。ありがとう」
「お、おう……」
筋乃のストレートな感謝の言葉に晃輔が照れていると、晃輔の近くに座るななが小さく眉を顰めていた。
照れている晃輔とななを交互に見て、泰地は飲んでいたコーラを拭きそうになるのを必死に抑えてなんとか飲み込むと、泰地は笑いをなんとか堪えつつ告げた。
「くっ、照れてる……」
「うるさい」
「いやぁ、別に照れてもいいと思うけど?」
「……お前、少し昌平に似てきたな」
「そうか? あ、でも最近よく一緒にいるからな―。影響されたのかも?」
「この短期間で? 勘弁してくれ」
晃輔が呆れたように呟くと、今まで静かにカルピスを飲んでいた土井がゆっくりと口を開いた。
「打ち上げ、もう少し早くやりたかった……」
土井はそう言いながら、ジトッという視線を晃輔とななに向ける。
「ご、ごめん」
「ごめんなさい」
間髪入れずに謝罪する晃輔となな。
咄嗟に謝罪したためか、二人の声が見事に被った。
これに関しては晃輔とななは何も言い返すことができず、素直に謝るしかない。
球技大会の片付けがある程度終わり、石見たちがななや晃輔を誘って打ち上げを行おうとしてくれたのだが、ななはそれを「また今度」と言って断ってしまったのだ。
その為、結局、皆の予定が合った今日、代休の月曜日まで球技大会の打ち上げが出来なかったのだ。
あの時のななの様子がおかしかった事に気付いた石見たちは、敢えて事情を聞かないでくれたことは本当に有り難いとは思う。
「でも、打ち上げ出来て良かった。もし出来なかったら、あおいちゃんを私の妹にするところだった」
「!?」
「……」
ななは目を見開いて、信じられない物を見たような目で土井を見つめる。
晃輔も、土井の本気か冗談かどうか分からないそれに、思わず黙ってしまう。
「藍子が言うと冗談に聞こえないから、やめてね」
「あ、あはは……」
筋乃が嘆息して言うと、側で聞いていた泰地は渇いた声を漏らしていた。
「まぁ、できたから良し」
土井はそう言うとマイペースにカルピスを飲みはじめた。
「マイペースだな……」
『……』
泰地のそれに、この場に居るメンバーがみんな同じ事を心の中で思ったが……誰も口にしたりはしなかった。
「というより、何もこんな十五時から打ち上げ開始しなくても……」
「それは思った」
「俺も」
それは晃輔も思った事だった。
何故こんな早い時間から打ち上げをするのか、もっと遅い時間に始めても良い気がする。
すると、その疑問の解答を筋乃が明示してくれた。
「なんか、梨香子と希実はあんまり遅くなるとななたちの家に行けなくなるからって」
「……マジ?」
筋乃からの衝撃発言に晃輔は驚いた表情をする。
「なな知ってた?」
「……あ……そう言えば、そんなこと言ってたけ……」
「なな……」
そう言って晃輔はジト目でななを見つめる。
「だって、梨香子から打ち上げいつがいい? って言うメッセージが昨日の夜届いていて……昨日の夜は早く寝たから、朝メッセージ見て今日大丈夫って返信したら……じゃあ今日ね! って……」
「……」
「藤崎くん、ななを責めないであげて。多分、悪いのは梨香子と希実だから」
「いや、別に責めてはないんだけど……」
「多分じゃなくて、十割二人が悪いと思うな……」
若干引きながら泰地はそう告げた。
「アレか、石見は希実やあおいと同じタイプなんだな……」
「そうね……間違いないわ」
「はぁ……」
晃輔は思わず思いっ切りため息をついた。
「泰地、お前はあっち行かなくていいのか?」
ななや筋乃たちとの会話に一区切りついたところで、晃輔は泰地にそう尋ねた。
「んー……別に行かなくても……いいだろ、あっちはあっで盛り上がってるみたいだし」
「お前が行った方が盛り上がらないか?」
晃輔が純粋な気持ちでそう告げると、何をどう解釈したのかは知らないが、少し困ったような表情で晃輔を見てきた。
「……もしかして、俺邪魔?」
「嫌、違うぞ。邪魔とかじゃなくて、単純に気になった。泰地ってなんかああいう所にいるイメージだから」
「お前は俺を何だと思ってるんだよ……」
「盛り上げ上手なクラスの人気者?」
「何で疑問形?」
「でも、実際そうだろ?」
「晃輔にそう言われるのは嬉しいけど、向こうには高絋に順哉に昌平がいるんだから十分だろう」
「そうか?」
晃輔がそう言うと、泰地はコップに入っていたコーラを飲み干すと、苦笑いしながら告げた。
「……なぁ晃輔、もし仮に俺が盛り上げ上手な人間だとしたら、あれだけ騒いでいて、既にうるさいのに俺が入ったらもっと騒がしくなると思うが?」
「まぁ……確かにな」
石見や希実、昌平に高絋と既に相当騒がしい面子が向こうに揃っている。
もし泰地があそこに混ざれば、更に騒がしくなるのは明白だろう。
「カラオケに居るとはいえ、あんまり騒がしくしてうるさくするのは店の迷惑になると思うし。やめとく」
「ん」
騒ぎ過ぎるとお店の迷惑になる、という意見には賛成なので、晃輔はそれ以上は言わないでおいた。
「それに、俺あんまりうるさいの苦手だからあっちには行きたくないな静かな方がいい」
「まぁ、石見に希実と、やかましいのが向こう行ってくれたから、少しは落ち着けるかもな」
「……かもな」
泰地はそう言うと、晃輔と顔を見合わせてお互いフッと笑い合うと、そのまま視線を盛り上がってる石見や昌平たちの方を向け、晃輔もつられてあのやかましい集団に目を向けた。
そこからしばらくの間は、石見たち主導のカラオケ大会が行われ、打ち上げに来ているクラスメイトは全員強制的に一曲歌わされる、などいう鬼の所業とも言える事態に巻き込まれた。
晃輔の前の筋乃が歌い終わると晃輔の番になり、適当に皆が知っていそうなアニソンを選択してなんとか歌いきった。
「疲れた……」
なんとか歌いきった晃輔がソファに沈み込む。
「お疲れ様。はい」
「ん。サンキュ」
ななからコーラが入ったコップを手渡された晃輔は、コップに口をつけて少しずつコーラを飲む。
「なんか、夫婦みたいだな」
二人の様子を見ていた泰地は呆れた表情を隠さずに呟いた。
「!?」
「なっ!?」
泰地にそう言われ、晃輔とななは同時に顔を赤くする。
「思った」
静かに同意する土井。
「うん……なんかもう隠す気無いよね」
「だよな……」
泰地と筋乃に呆れた表情でそう告げられ、晃輔とななは顔を赤くしたまま何も言い返せなくなってしまった。
「それにしてもさ、さっき藤崎くんが歌っている時も思ったけど、ななって本当に可愛くなったよね……」
「……どういう意味よ?」
「いや、何でも」
晃輔が歌っている時、ななは目をキラキラさせてやたらテンションが高かったので、その時のななのことを言っているのだろうか。
どちらにせよ、晃輔たち当事者からしてみれば、非常にいたたまれないので、晃輔はなんとか話題を逸そうと辺りを見回す。
すると、ななの手元にあるコップが目に入った。
「そういや、ななは何飲んでるんだ?」
「え、えっと……オレンジジュースだけど……」
「……一口貰ってもいい?」
「え、えっと……良いけど……」
「?」
晃輔がそう尋ねると、何故かななは薄っすら頬を赤らめて、目を右往左往に忙しく動かしていた。
「……バカ」
とななは可愛らしい罵倒したと思ったら、コーラが入っている晃輔のコップを取って中に入っていたコーラをグイッと飲み干した。
晃輔はななの謎行動に首を傾げると、オレンジジュースが入っているななのコップを取って口をつける。
さっきまで口の中でシュワシュワする炭酸を飲んでいたため、やたらオレンジジュースは甘く感じた。
周りから視線を感じて周りを見渡すと、何故か先程まで騒がしかった石見たちも含めて、クラスメイト全員が生暖かい視線を晃輔たちに向けているのに気付いた。
「?」
「晃輔……気付かないの?」
「?……っ!?」
晃輔は泰地に言われて、はじめて気が付いた。
よく考えてみたら、これは間接キスだ。
「ご、ごめん! 本当に気付かなかった」
慌ててコップから口を離し、ななに謝罪する。
「嫌だったよな、ごめん!」
「ちょ、そんな土下座する勢いで謝られると、こっちが傷つくから」
「え、えっと……ごめん」
「……バカ」
もう一度可愛らしい罵倒すると、ななはぷいっとそっぽを向いた。
すると、皆を代表して希実が声を上げた。
「そこ! お店でいちゃいちゃしないで!」
「「してない!!」」
顔を真っ赤にさせた晃輔とななの悲鳴が、晃輔たちが居るカラオケの部屋全体に響き渡った。




