球技大会
「あっちー……マジで今日この暑さの中でやるのか……」
晃輔の隣に座る昌平が、ミニ扇風機の風に当たりながらそう呟いた。
「確かに」
「それは思った……」
すると、昌平と同じことを思ったのか、泰地と高絋は昌平の意見に同意するかのように首を縦に振った。
「あ、ははは……」
今日は球技大会当日。
見事なまでに天候に恵まれ、外は快晴。
しかし、まだ六月ということもあってか、少しジメジメとしている。
現在、晃輔たち……晃輔、泰地、高絋、昌平、希実、石見、筋乃は開会式が始まるまでの間教室で待機中だ。
球技大会の実行委員であるななと、生徒会役員である土井、放送部の部長である順哉は色々と準備があるため教室にはいない。
「開会式って外でやるんだよね?」
「うん、正直やりたくないんだよね……」
「わかるわ」
「今外暑いもんな……」
石見と筋乃の会話に、ナチュラルに混ざる高絋と泰地を見て晃輔は小さく笑うと、昌平の隣の机ででろーんと溶けかかっている希実に視線を向けた。
「おい希実、大丈夫か?」
「んー? 暑くて溶けそう……」
晃輔が尋ねると、希実から今にも死にそうな声の返事が返ってきた。
現在の外の気温は二十九度。
六月の末にしては高いほうだろう。
「晃輔ーなんでクーラーつけないの? 節電?」
「この後、開会式終わったら直ぐに競技が始まるから、別に必要ないんじゃないかって」
「えー!? 誰がー?」
「担任だ。朝来て言ってたぞ。希実、気持ちは分かるが、この暑さで溶けてたら夏本番保たないぞ」
晃輔がそう言うと、希実はえー、と不満そうな顔で晃輔を見る。そしてそのまま机に突っ伏した。
「晃輔、ちょっと暑さを吸収してきてー?」
「はぁ?」
ちょっとコンビニ行ってきてー。みたいなノリでいきなり意味のわからないことを言いだした希実に、晃輔は思いっきり顔を引き攣らせた。
「晃輔はむしろ、暑さを吸収するんじゃなくて放出する方では?」
「……? 昌平お前も何を言って……?」
「じゃあ、ななにしてもらおー」
「……あのさぁ……俺やななを天候を操れる超能力者かなんかと勘違いしてないか?」
「違うの?」
「お前なぁ……」
晃輔が希実煽られまくっていると、石見が声をかけてきた。
「まぁまぁ、二人共落ち着いて……ほら、放送かかったから下行くよ」
どうやら、晃輔が希実に煽られまくっているうちに、開会式の放送がかかったようで、クラスの皆がぞくぞくと教室を出て校庭に向かいはじめていた。
周りを見てみると晃輔たちを除いて、殆ど教室に人がいないことに気付いた。
どうやら、泰地や石見たちは晃輔たちを待ってくれてるようだった。
「晃輔、昌平」
「希実行くよ?」
「お、おう……」
「はーい」
呆れ気味の泰地と筋乃にそう告げられて、晃輔たちは開会式が行われる校庭へ向かった。
晃輔たちが校庭を向かい、クラスごとに整列すると、直ぐに開会式が始まった。
「……!?」
すると、見覚えのある人物が晃輔たちの前に現れた。
「皆さんおはようございます! 今回司会を務めます、一年の楠木あおいです!」
「同じく一年の榎木凛です!」
「「よろしくお願いします!!」」
本当に良く声がよく通るあおいと、柔らかく透明感のある綺麗な声質の二人がそう言うと、割れんばかりの拍手が高校の校庭に響き渡った。
「すげーな……なんかのライブみたいだな……」
整列している晃輔のすぐ後ろにいた泰地がそう呟いた。
「まぁ、勝利の女神と慈愛の聖女の二人だもんな……」
拍手が小さくなるのを待っていたあおいは、再び口にマイクを近づけて告げた。
「まず最初に校長先生からのお話です。よろしくお願いします」
そう言って、あおいは後ろに控えていた校長にマイクを手渡した。
「ありがとう。えー今日はお日柄も良く、天候にも恵まれてー」
校長の話が始まり、晃輔は大きく欠伸をした。
ななが球技大会の実行委員であるため、当日の準備などで早くに学校へ向かうので、ななの朝ご飯を作るために晃輔も早起きをしたのだ。
それと、心なしかここ数日のななは元気が無いようにも見えたのだ。
一体どうしたのだろう、と晃輔はそんなことを思いながら校長の話を右から左へ聞き流した。
「ありがとうございました! 続いて、実行委員会から大会に関する注意事項です。それではお願いします」
「はい。それでは、大会に関する注意事項を読み上げさせてもらいますー」
あおいたちと同じ、球技大会の実行委員が前に出て注意事項を読み上げると、続いて、三年生による選手宣誓が行われた。
「選手宣誓、ありがとうございました!」
「これで開会式は以上となります。この後はすぐに試合が行われます。各競技の運営、及び審判を行う方は速やかに移動して準備をしてください。また、各自自分が出る試合をよく確認して遅れないようにしてください」
そう言って、揃って一礼すると二人は後ろのほうへ履けて行った。
二人が履けていくのと同時に、一斉に人が動き始めた。
その流れに合わせて晃輔たちも動き出す。
「俺たちも行くか」
「あぁ。まずはみんなと合流だな」
「ん……あっちか」
晃輔が視線を向けた方向には、そこだけ妙に人が集まっている。
そこに集まっているのは、クラスどころか学校単位で見ても容姿が整っているメンバーばかりだ。
言わずもがな、それは昌平や石見たちだが。
「よっ」
晃輔と泰地を見つけた昌平が声をかけてくる。
「ん、なんだ」
「いや、冷たいなー」
全員集合というわけではないが、ななたちは色々と忙しいらしく、取り敢えずは今いるメンバーで全員なので、皆で今日のスケジュールが貼ってある掲示板に向う。
「えっと……この後は……バレーが一番最初だねー」
掲示板を覗き込んだ石見がそう告げる。
「ってことは」
「! ……いきなり私だね」
「絢音頑張ってね!」
「うん、頑張ってくるよ。みんな応援よろしくね」
「うん!」
「頑張れよ」
「いってらっしゃーい!」
石見、高絋、希実がそう言うと筋乃は駆け足で体育館へ向かって行った。
皆で筋乃を見送ると泰地が口を開いた。
「みんなは応援するのか?」
「俺はサッカーの方の運営があるから、厳しいな……泰地もだろ?」
「ああ、そろそろ行かないとだな」
「晃輔はどうするんだ?」
「え、えっと……とりあえず時間までは応援?」
突然話を振られた晃輔は戸惑いながらそう答えた。
「因みに、この中で暇人になるのは?」
「暇人って……」
泰地の質問に晃輔は思わず顔を引きつらせる。
「何にも所属してないのは……俺とのんと晃輔だな……って何で蹴るんだよ!?」
「うるさい気にすんな。それより、昌平、サッカーとドッチボールの時間って?」
暇人、と言われたのが少々気に入らなかっただけなので、昌平はあまり気にする必要はない。
「自分で見ろよ……えっと……ドッチボールとサッカーは……サッカーは割りとすぐだな。バレーの後」
「ん。そしたら、バレー見たらサッカーだな」
晃輔がそう呟くと、泰地と高絋が小さく笑って告げた。
「そしたら、俺たちは行くから応援よろしくなー」
そう言って、泰地はアリーナに、高絋はサッカーコートがあるグランドに向かうと、晃輔たちもバレーが行われる体育館に向かった。
「あ! 梨香子いた!」
晃輔たちが体育館の扉を開けると、ななと筋乃が血相を変えてこちらへ走って来た。
「えっと……どうしたの?」
「それが……私たちと一緒にバレーをやるはずだった一人が怪我しちゃって……補欠が必要なところで……」
「じ、事情は分かったから、落ち着いて……」
すると、明らかに狼狽したななたちの様子を見て、今まで大人しくしていた希実が口を開いた。
「……そしたら、私が出ようか?」
「いいの!?」
希実が自ら志願してくれるとは思わなかったのか、筋乃は驚いた表情で希実を見つめる。
「うん! それに、梨香子はちょっとこの後忙しいでしょ?」
「え、えっと……うん……ありがと希実。ごめんね」
「ううん大丈夫! じゃあ行ってくるね! しょうちゃん、応援よろしくねー!」
「おう!」
昌平がそう言うと、希実は筋乃たちと一緒に体育館の中へ入っていった。
「なな、頑張れよ。応援してるからさ」
「ええ。ありがとう、頑張るわ」
多少トラブルもあったが、無事に人数が揃い試合が始まると、晃輔たちのクラスは圧倒的だった。
試合開始十五分足らずで、一セット目を二十五対九という点数差で先取してしまったのだ。
バレー部の筋乃をはじめ、クラスのアイドルで運動神経抜群な完璧美少女であるなな。普段はあまり見せることはないが、希実は元々の運動神経がとても良いらしく、素人の晃輔から見ても、凄いなと感じてしまうほどのものだった。
二セット目に入っても、ななたちの猛攻は続いた。
気付けば、二セット目も二十四対十一。
勝利目前であり、あと一点取れば勝利が確定する。
「あと一本ー。みんなー、気を抜かないでねー!」
「うん」
「はーい」
「ラスト一本、勝ちにくよー!」
鼓舞するかのように筋乃がそう言うと、皆も気合いを入れ直していた。
「なな、最後お願いねー!」
サーブを打つのはななだ。
筋乃に続いて希実がそう告げると、ななは真剣な表情で、コクリと頷いた。
なながサーブをするために構えた瞬間、一瞬体育館から音が無くなったような気がした。
バン、とななの手から力強く放たれたボールは、綺麗な放物線を描きながら相手のコートへ落ちていく。
ボールの落下地点をいち早く察した相手チームの選手が、サッとボールと床の間に滑り込みボールを拾い上げた。
しかし、予想していたよりもななのサーブの威力が強かったのか、拾い上げたボールがななたちの方へ戻ってきた。
そのチャンスを逃さなかった筋乃は、素早く希実とななの二人に指示を出した。
「希実! なな!」
そして、筋乃自身は希実が拾ったボールをななに合わせて優しくトスをする。
すると、トスを出されたななはその手を振り抜き、相手のコートにボールを叩きつけた。
一瞬の間ができ、ビー、という試合終了を告げるホイッスルの音が鳴り響いた。
「試合終了ー!!」
審判がそう告げると、ななたちの試合を見ていた人たちの歓声が響き渡った。




