姉の噂と鍵のゆくえ(あおい視点)
晃輔との放課後デートのために、ななが集合場所の駅に向かっていたころ、あおいはクラスの同級生たちの会話を聞いて、小さく苦笑いを浮かべていた。
どうやら、お姉ちゃんについて色々と噂が飛び交っているらしい。
お姉ちゃんに、彼氏がいるとかいないとか。
まぁ、そんな話は割りと日常茶飯事だったりするんだけど。
なんでも、今日は授業が終わってから、直ぐっていうわけじゃないけど、なんか明らかにお姉ちゃんの様子がおかしくて、まるで彼氏のところに急いで向かおうとするかわいい女の子、らしかった。
……友達の話によると。
あおいはそんなお姉ちゃんもちょっと見てみたいなーと思いながらも、やっぱりこう思った。
お姉ちゃん目立つなー。
凄い噂されてるじゃん。
こー兄のほうは、目立たないように、同居のことがバレないように、とあれだけ気を使ってるのにお姉ちゃんはそんなのお構いなしって感じだね。
まぁたぶん、こー兄と出掛けられるっていうのが嬉しくて、そういうの全部頭からすっぽ抜けてるんだろうねー。
友達の会話を聞きながら、あおいがそんなことを思っていたら、学校でよく一緒に行動する女の子に声をかけられた。
「ねぇねぇ、あおいちゃん」
「ん、なぁに?」
「あおいちゃんのお姉さんさ、彼氏いるのかな? なんか、今日急いで帰っていったらしいけど」
「う〜ん……お姉ちゃんからそういう話は聞いてないかな…………あと、凛ちゃんそれどこ情報? 怖いんだけど」
あおいは思わずそう尋ねた。
何故そんなお姉ちゃんの情報が簡単に掴めて、それも他学年にまで流失してるんだか。普通に怖すぎる。
「友達から連絡が来たんだよ。結構今噂になってるよ。そりゃあ、完璧美少女やアイドルって言われてるぐらいだよ、噂にならない方がおかしいって」
あおいは、それを聞いて思わず頭を抱えた。
「うぅ……これはお姉ちゃんのせいなのかな……」
それとも、私のせいなのか。
まぁ、駅集合っていうアドバイスしたの私だしねー。
っていうか、完璧美少女ってワード久々に聞いた気がする。家でのお姉ちゃんを見たらみんなはなんて言うだろうな。
「はぁ……」
「ふふ、大変だね」
「むー。人事みたいにー」
「ごめんって」
紹介が遅れたけど、私の隣で楽しそうに笑う女の子は榎木凛ちゃん。
勉強もできるし、それなりに運動もできる。
どこか小動物みたいな感じはあるんだけど、顔立ちは整ってるし、スタイルも抜群。
凛ちゃんの近くにいたり、凛ちゃんと喋ってると癒やされる、ってことで、慈愛の聖女、と呼ばれている。
全然聖女っぽくは見えないけど。
凛ちゃんとはクラスの自己紹介の時に、お互い名前に木という漢字が入っている、という理由から仲良くなった。
「はぁ……」
再度あおいはため息をつく。
今日はこー兄の家庭教師も無いし、このまま残っても、なんか質問攻めにされそうだし、帰るか。
そう思って、スマホが入っているポケットに手を伸ばす。
ブーブー。
マナーモードにしているスマホが鳴った。
スマホを見ると嶺兄からの着信が来ていた。
「それで、あおいちゃんはどうする?」
「う〜ん、今日は真っ直ぐ帰ろうかなって。このまま残り続けると、質問攻めにされそうだし」
「あっはは、大変だねー。それじゃあ、私は委員会があるから、じゃあねー!」
「もうー! ……委員会頑張ってね! じゃあねー、また明日!」
そう言って、あおいは凛に大きく手を振ったあと、ぱぱっと帰る仕度を済ませて藤崎家へ向かった。
***
「やっほー、嶺兄」
あおいはそう言って藤崎家に入る。
藤崎家に入るのにとうとう、お邪魔します、とも言わなくなった自分に内心で苦笑した。
「お、来たか」
私に気付いた嶺兄は、私を見てそう告げる。
私を招くときって、嶺兄は大体リビングにいるよなー。
「お、来たか、じゃないよ。びっくりしたよ。いきなり藤崎家に来てくれって」
「悪い悪い」
「それで、要件は?」
私は当たり前のようにリビングのソファに座ると、嶺兄に尋ねた。
「そんな要件って程でもないんだけどさ、これを渡しておこうと思って」
そう言って手渡されたものに、私は驚いて目を見開いた。
「……これって、鍵?」
「そう、逆にそれ以外に見えるか? これは向こうの、二人の家の鍵。晃輔が言っててな。俺は持ってるんだけど、あおいは持ってなかったろ」
「そ、そうだけど……いいの?」
私は恐る恐る鍵を受け取ると、嶺兄に尋ねた。
「ああ。それに、二人には既にちゃんと了承を貰ってる。あおいだけ仲間外れみたいで、いい気分しないからって、予想してた言葉の斜め上の言葉を言ってたけど」
「ほんとに? ありがと!」
正直に言うと、凄く嬉しい!
何よりも嬉しかったのが、お姉ちゃんとこー兄が、この合鍵の話を覚えていてくれたこと。
私のために、嶺兄に言ってくれたこと。
他人から見たら、些細なことかも知れないけど、それが私は何よりも嬉しい。
逆に、二人の了承が無い状態で合鍵を渡してきたら、それはちょっとどうなんだろう、とは思ったけどね。
「まぁ、要件としてはこんなもの。悪いな、いきなり呼び出して」
「ううん、大丈夫! こちらこそありがとう!」
そう言うと、早速私は貰った合鍵を使って、帰ってきた二人を驚かすために、お姉ちゃんたちの住む家に向かうのだった。




