幼馴染とデザート
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
夜ご飯を食べ終わった晃輔は食べ終わったお皿をまとめて、ついでにななの分も含めて片付ける。
「あ、ありがと……」
「どういたしまして」
そう言って、晃輔はお皿を持ってキッチンに向かう。
「それじゃ、あおいから貰ったケーキ出すか。食べるよな?」
「うん、食べる。ありがとう」
「ん」
晃輔は、リビングにいるななにそう告げると、冷蔵庫に入っているチーズケーキが入った箱を取り出す。
昨日の家庭教師の帰りにあおいからチーズケーキを貰った晃輔だったが、昨日の晃輔の頭の中には夜ご飯のことで頭が一杯になって家に帰った晃輔は貰ったケーキを冷蔵庫に入れてそのままにしてしまっていた。
ケーキを貰った事に暫く気付かず、なながお風呂を上がり、冷蔵庫を開けた時に「これは何?」とななに聞かれ、晃輔はケーキをあおいから貰っていたことを思い出して「そういえば、今日あおいからケーキを貰った」とななに伝えた。
伝えた時間が既に二十一時半を回っていたため、今食べたら明日胃もたれしそう、という理由と賞味期限が次の日までだったので、結局今日食べることになったのだ。
晃輔にそう伝えられたななは「なんで、もっと早く言わないの……」と呆れた顔で晃輔を見ていた。
「それにしても、賞味期限ぎりぎりのものを渡して来るとは……」
「それもそうね……」
晃輔がケーキが入った箱をリビングに持っていきながらそう呟く。
すると、晃輔の呟きを聞いてななも同じことを思ったのか顔をしかめている。
「普通、賞味期限ぎりぎりのものを渡してはこないだろ……」
「あおいに普通を求めちゃいけない気がするけど……」
晃輔が顔を引きつらせながら告げると、ななは苦笑いしながらそう答えた。
「まぁいいや、せっかく貰ったんだから食べよう。それに、あおいの行動をいちいち気にしていたら、なんというか……」
「ふふ、そうね。食べましょうか」
晃輔がそう言いながら、食卓にケーキが入った箱を運ぶと、ななは席を立って、お皿やフォークなどを準備をしてくれた。
「サンキュ」
「どういたしまして」
晃輔は箱からケーキを出して、お皿に切り分ける。
晃輔とななが席に着くと、二人は手を合わせる。
「「いただきます」」
そう言って、晃輔とななの二人はチーズケーキを食べ始めた。
なながフォークでひと口サイズにチーズケーキ切り、口に含む。
すると、ひと口チーズケーキを食べたななの顔が綻んだ。
「これ! すごく美味しい!」
ななはケーキを指差しながら晃輔にそう告げる。
ななの表情からして、あおいから貰ったこのチーズケーキはほんとに美味しいんだな、と晃輔は思う。
ななのその様子を見ていた晃輔も、続けてチーズケーキを一口、口に入れる。
「ほんとに美味しいな……」
ななと同じようにケーキを食べた晃輔も、思わずそう言ってしまうほど、このケーキが美味しいと感じたのだ。
「ね!」
ななはそう言ってもうひと口ケーキを食べると、へにゃりと瞳を細めた。
「……」
晃輔はななのその表情にどきりとして、思わずななから顔を逸らしてしまう。
「……晃輔? どうしたの?」
突然、顔を明後日の方向へ向けた晃輔を見て、ななは不思議そうな顔で晃輔に尋ねる。
「な、なんでもない……」
今の晃輔はそう答えるだけでいっぱいいっぱいだった。
「そう? そういうふうには見えないんだけど……」
ななは晃輔の顔を覗き込みながらそう告げる。
「ほんとに大丈夫だから……」
そう言って晃輔はななと目線を合わせないように、無言でフォークを手に取りケーキを食べる。
「そう……?」
晃輔の様子から、何かあるのは間違いないと思ったななだが、これ以上晃輔を追求しても答えてくれないと分かっているためか、素直に追求を諦めてくれた。
なんでケーキを食べてるだけで、こうもドキッとするのだろうか。
晃輔はそんなことを思い若干のいたたまれなさを感じながら、無言でケーキを頬張った。
すると、無言でケーキを頬張っている晃輔をじっと見つめていたななは、突然可笑しそうに笑った。
「ふふ」
突然笑い出したななに、晃輔は思わず顔を上げる。すると、何故か晃輔を見て微笑んでいるななと目が合った。
その瞬間、さっきのななの無邪気な表情を思い出してしまい、頬が内側から熱くなるのを感じた。
「なんだよ」
晃輔がななにそう尋ねると、ニヤニヤしながら告げた。
「ふふ、やっと目が合ったなーと思って」
「……ほんとになんだよ……」
そう言って、晃輔はため息をつく。
「いやね、ケーキを食べてる晃輔、かわいいなーと思って」
ななは晃輔を見つめた状態でそう告げる。
「………………は?」
言われた意味が分からず、十秒程停止していた晃輔から間抜けな声が出た。
また、ななが慈愛に満ちたような目で晃輔を見つめてくるので、どこか落ち着かない気分になる。
「だから、ケーキを食べてる晃輔がかわいかったって言ったの。別に固まるようなこと?」
自分で言っていて恥ずかしくなったのか、ほんのりと頬を赤く染めたななは、こてっと首を傾げ晃輔にそう尋ねてきた。
「……」
最初は聞き間違いかなんかと思っていた晃輔は、とうとう間抜けな声すら出なくなり、徐々に自身の顔が火照っていくのを感じた。
「……そうだ……あおいが心配してたぞ」
晃輔はこの状態をなんとかしないと、この後非常にいたたまれないことになってしまうので、晃輔は必死に頭を捻り、ななに別の話題を明示した。
「心配? あおいが?」
「そ、なんかテスト前になるとななは無理して体調崩すんだろ? だから無理させないようにって」
「流石あおいね、私のこと良くわかってる……でも大丈夫って。大げさだよ」
晃輔がそう言うと、ななは感心したように頷いて晃輔に告げた。
「ほんとかよ……まぁ、なながそう言うなら信じるけど……」
晃輔は呆れながらそう言うと、真剣な表情でななを見る。
晃輔の顔の火照りは収まってきたが、ななはまだ顔が火照っている。
「頼むから、くれぐれも無理はしないでくれよ」
「はーい!」
どういうわけか、ケーキを食べたあたりからテンションの高いななは、晃輔にそう言われ、まるであおいみたいに元気良く返事をした。
「……?」
晃輔はやけに素直な対応のななに違和感を覚えていた。




