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あおいとデート2(買い物)


「ここか……」


 あおいが行きたいと言っていたお店は、駅から四、五分ちょっと歩いた所にある。  

 可愛いぬいぐるみが大量に置いてある店だった。


「そうだよ!」

「ふぅ、地味に遠い……」

「そうだね~!」


 晃輔の小言にあおいは上機嫌にそう返した。

 晃輔と違って体力があり元気なあおいには距離が遠くても大して問題無いらしい。


「あおいは元気だな」


 人が多い所を苦手とする晃輔は、ここに来るまでで既にヘトヘトになっていた。

 普通にきつい、晃輔がそんな事を思っていると、その様子を見ていたあおいは若干呆れた様に告げた。


「いや、こー兄が体力無さ過ぎるだけでしょ?」

「う……」

 

 あおいの、ごもっともすぎる指摘に何も言い返せなくなる晃輔。


「なぁ、これ俺も行く必要あんの?」


 晃輔は、周りをキョロキョロと見回してあおいにそう尋ねる。

 あおいが行くぶんには構わないが、晃輔のような男子が可愛いぬいぐるみたちが沢山置いてある店に入るのは結構勇気が必要になる。


「無いよ!」


 まさかの即答に、晃輔の顔が引き攣りそうになる。


「え、じゃあ……」

「でも、できればこー兄も一緒にいてほしいな……だってー、こー兄はお姉ちゃんのために、あの可愛いいブレスレット買うんでしょ? いいじゃん! これぐらいは付き合ってよ!」


 そう言って、あおいは上目遣いでこちらを見てくる。言っている事間違っていないのだが、あおいの言っている事は何となく暴論の様な気がした。


「はぁ……分かったよ」

「ありがとう! こー兄!」

「おう……でも、ここは入りづらいというか、なんというか……」

「?」

「非常に入りづらい……」

「…………そお?」


 晃輔がそう言うと、あおいは何故か不思議そうな顔をして晃輔を見てくる。


「え、何?」

「ううん、なんでもない」


 不思議そうな表情になってこちらを見つめてくるので、晃輔は自分が失言でもしたのかと思いあおいに尋ねると、あおいは首を振って答えた。


「でもさ、女の人の下着売り場よりは、まだいいでしょ? 全然」


 そう言って、あおいはいたずらっぽく微笑む。


「そうだけど……というか、そもそも比較対象がおかしいと思う……」


 何故、ファンシーで可愛らしいぬいぐるみたちの比較の対象が、女性ものの下着売り場になるのか。

 そんなことを考えてると、突然あおいは顔をニヤリとさせて晃輔を見る。


「あっ、そしたら今度、こー兄も一緒に下着を――」

「却下」


 あおいの表情が変わった時点で、晃輔は何か嫌な予感がしていた。

 話を聞いていたら、案の定というべきか、あおいはサラッととんでもない事を口にした。


「ちょ、まだ途中までしか言ってないよ! というか、私が何を言おうとしたかわかるの?」

「なんとなくはわかる。だからこそお断りだ」

「そっかー、残念……」


 そう言って、あおいは少し残念そうな顔をする。


「ちなみに、私のとお姉ちゃんのと、どっちのほうを見――」

「話聞いてた?」


 超強引に話を進めていくあおいに、晃輔は思わず顔を引き攣らせる。


「どっちにせよアウトだ。お断り」

「えぇー! ケチー!」


 そう言って、あおいは顔を膨らませる。


「ケチも何もあるか」


 晃輔はため息をついてあおいに告げる。


「ほら、いいから早く買ってこい」

「えー! 付いてきてくれないの?」

「付いては行かない。でも近くにはいるから。何か欲しいものがあるんだろ?」

「うん……」


 あおいは納得いってない様子だったが、今の晃輔の様子を見て、結局晃輔を店に連れて行くのは諦めたらしい。


「はぁ……仕方ないなー。じゃあ行ってくるから待っててね?」

「何様だよ……」


 あおいは晃輔の呟きを聞かなかった事にして、スタスタと店の中に入っていった。



***



 あおいが店に入ってから暫くすると、あおいは店から出てきた。


「もう選んだのか?」

「うん!」


 晃輔が尋ねると、あおいは元気良くそう答えた。

 あおいの手にはサッカーボールが入りそうな、大きな紙袋がぶら下がっている。

 あおいが店に入ってから、そんなに時間も経ってない。正直、もっと掛かると思っていた。


「持とうか?」

「ううん、大丈夫! ありがと!」

「そっか……じゃあ、行くぞ」


 そう言って、店の近くの壁に寄りかかっていた晃輔は、あおいにそう告げる。


「行くぞって、場所わかるの?」

「あおいが店入っている間に調べた」


 あまり……というより、晃輔は人が多い所を苦手としているため、正直全然横浜駅を使わない。そのため、晃輔はあまり何処に何があるのか把握していなかった。

 先程のあおいを見て流石にそれはまずいと思い、一応自分でも調べることにしたのだ。


「なる、ほ、ど……?」


 あおいはどこか困惑した表情で晃輔を見つめる。


「なんだよ」

「いや……こー兄がちゃんとお店の場所を調べた事に驚いてる……」


 そこに驚かれるのはちょっとアレだが、今は置いておくべきだろう。

 理由としては、あおいの言動に一々反応していたら晃輔の身が持たなくなる気がしたからだ。


「……行くぞ?」


 気を取り直して、晃輔はあおいに声を掛けた。


「うん!」



***



「はぁ……やっと着いた……」

「だね〜」


 晃輔の呟きに対して、あおいは苦笑いしながらそう答える。ここまで来るのに晃輔はかなり疲れていた。


「こー兄が違う場所調べてた時は、流石に驚いたけどね」

「気付いていたなら言えよ……」


 晃輔は大きくため息をついてあおいに視線を送る。

 晃輔の調べていたお店が目的の場所から大きく外れている事にあおいが途中で気付いた。


 途中で気付いたあおいが慌てて場所を確認し、結局あおいが知っているお店に、あおい先行という形で目的のものがあるお店までやって来た。


「……いや、私も途中からなんかおかしいなーって気付いたわけだし……」

「なんか、ごめん……」


 晃輔は、あおいに向かって頭を下げる。

 やらかしたのは晃輔なので当然と言えば当然なのだが……それを見たあおいが驚いた様子で声を上げた。


「だ、大丈夫だよ! 別に気にしてないから! 途中まで気付かなかった私も悪い訳だし……本当に大丈夫だから、こー兄顔上げて?」

「……本当に?」

「うん! ふふ、それよりも、早く入ろ!」

「……ああ」


 そう言って、あおいは晃輔を手を引いて目的の店に入って行く。

 晃輔のミスを責めるどころか、寧ろ自分も悪かったと言って手を引いてくれるあおいの優しさに、晃輔は胸が温かくなった。

 

 店の中に入ると、当然と言えば当然なのだが、思わず目を引かれるような綺麗な宝石類が多く置いてあり、ブレスレットや、ネックレスなどを始めとした宝飾品がずらりと並んでいた。


「これがお姉ちゃんが言ってたものだよね?」


 そう言って、あおいはブレスレット指差しながら、晃輔に尋ねる。


「だと思う……」

「お姉ちゃん、どうしてこう……お目が高いんだから……」


 半ば呆れながらそう言って、あおいはお目当てのピンクゴールドのブレスレットを覗き込む。


 晃輔たちが探していたピンクゴールドのブレスレットは、結構わかりやすい場所にあり、厳重そうなショーケースの中に入った状態で展示されていた。


 ここ最近だと、宝石店強盗などの物騒なニュースをテレビでよく見聞きするので、恐らくそれ対策なのだろう。


「値段は……まぁ、思ったとおりだね」

「高いな……」


 ななから教えてもらっていた時点で、なんとなくブレスレットの値段の予想はついていた。

 予想していたにも関わらず、晃輔とあおいの二人は、改めてブレスレットの値段に驚かされた。


「なぁ、女子高生ってこんな高い物を欲しいと思うのは普通なのか?」


 晃輔は、思わずそんなことをあおいに聞いてしまう。


「いや、そんなこと無いと思うけど……」


 あおいは首を振ってそう答える。


「そもそも、私に女子高生の普通を求めないでね……」

「……」


 晃輔は、あおいのそれにどう反応したらいいのかと頭を悩ませてる。

 すると、その間にあおいが店員さんを呼んで、ブレスレットをショーケースから出してもらっていた。


「はい。こー兄これだって」


 そう言って、あおいは店員に取り出してもらったブレスレットを晃輔に見せる。


「お、おう……」


 改めて見ると、本当に綺麗だなと思う。

 写真で見るよりも、実物の方が遥かに良い。

 全体が鮮やかなピンクゴールドで、まるで春を連想させるようなものだと晃輔は思った。


「綺麗……」


 隣であおいが目をうっとりさせている。

 そして、ハッと我に返った様に晃輔に尋ねてきた。


「こー兄! これ、買うんだよね!?」

「ああ」

「……これ、お姉ちゃん絶対喜ぶよ!!」

「だといいな」

「うん! 喜んでくれるよ!」


 隣で満開の笑顔になっているあおいを見ていた晃輔も、つられて顔が綻んだ。


 結局この後は、ブレスレットをショーケースから出してくれた、若くて綺麗な女性店員さんに「これを買いたいんですけど……」と頼んでレジまで持っていき、無事ブレスレットを購入できた。


「…………」

「どうしたの?」


 浮かない顔をしている晃輔に気付いたあおいがそう尋ねてくる。


「いや、買ったのはいいんだけど、本当にななは喜んでくれるかなって思って」


 晃輔は正直なところ疑問に思っていた。

 確かにななはこれが欲しいと言っていたが、本当にこれで良いのか。

 もし、これで良かったとしてもななは喜んでくれるのか。


「大丈夫! 絶対お姉ちゃん喜んでくれるよ! 自分の欲しいものをちゃんと覚えていてくれていて、それを自分のことを思って、自分のために買ってくれる。そんなの嬉しくないはずがないからね!」


 あおいは、太陽の様な笑顔で晃輔にそう告げた。


「だといいな……」


 あおいの言う通り喜んでくれるといいな、そんな事を静かに思う晃輔だった。


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