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あおいとデート(買い物)


 作戦会議を行った次の日、晃輔は制服から着替えて急いで駅に向かった。


「あ! やっほー! こー兄!」


 晃輔を見つけたあおいは高めのテンションのまま声を上げた。


 「はぁ……もっと分かりやすい所にいろよ……」


 ぶんぶんと手を振り、元気そうなあおいを見つけた晃輔は思わずそう呟いた。

 今日は、ななが欲しいと言っていたピンクゴールドのブレスレットを買うために、放課後にあおいと買い物に行く事になっている。


 買いに行くのは放課後なので、そのまま制服で買い物に行けばいいものの、あおいの希望でわざわざ一回家に帰り、私服に着替えてから駅前に集合という事になった。


 昨日は、あおいと嶺と話していると気付いたら十九時を回っていた。

 あおいは「明日についての詳細の連絡を後でするねー」と言っておきながら、集合場所と時間の連絡がきたのがなんと今日の昼休み。

 できるならもう少し早く連絡を寄こしてほしかった。


 一緒に住んでいるななは、料理……家事全般が非常に苦手なため、家では晃輔が家事全般をこなしている。

 そのため、晃輔が朝ご飯と夜ご飯を作る事になっている。というより……作らないと割と死活問題に発展してくる。


 ただ、ここ最近は、料理はからっきしだが他の家事類、洗濯やお皿洗いといったお手伝いをしてくれるようにはなった。

 ななの手付きを見ているとヒヤヒヤするが、少しずつ成長しているのが分かった。


 結構家に帰るのが遅くなったから「遅い! お腹へった」ぐらいの小言は言われるのかと正直思っていた。

 が、実際はそんなことはなく「今日の家庭教師、随分と時間掛かったのね。お疲れ様」と労いの言葉が返ってきた。

 

「集合場所って駅前じゃなかったけ?」


 集合場所の駅に着いた晃輔は、あおいにそう尋ねる。


「そうだよ」

「じゃあなんで、もう既に改札入った所にいるんだよ」


 スマホに送られたメッセージには集合場所は駅前と書いてあったが、あおいの居た場所は駅前とは言えない場所にいた。


「そっちのほうがいいかなーって思った! 私的に!」


 晃輔は、あまりにもあっけらかんとした態度のあおいに、頭痛を抑えるように頭を抱えた。


「てかなんで、わざわざ私服なんだか……」

「いいじゃん別にー」

「まぁ、いいけどさ」

「それに、制服だと目立っちゃうかなーって思って」

「何か問題あるのか?」

「え」

「だって、俺たちまだ高校生だし。制服着て何処か行っても別に不思議じゃないだろ。流石に高校生じゃない人が高校の制服着てたら不自然だけど」

「それは別の意味でやばいと思うけどね…………」


 あおいは何か言いたそうに晃輔にジトッという視線を向ける。


「なんだよ」

「……そもそも、論点というか、なんというか、なにかがズレてる気が……」


 あおいは晃輔には聞こえないような小さな声で、そう呟いた。


「え、なに?」


 あおいが何か言ってたようだが、その声が小さ過ぎてよく聞き取れなかった。


「ううん、何でもない! それよりも、早く行こ! 時間無くなっちゃうよ」


 先程は微妙そうな表情をしていたあおいだったが、自分の中で切り替えたのか、ぱあっと顔が明るくなった。


「ああ」


 そう言って、晃輔とあおいの二人は駅のホームに向かう。


「そういえば、どこに行くんだ? 行く場所聞いてなかったけど」


 晃輔は駅のホームに向かいながら、あおいにそう尋ねる。

 因みに、晃輔たちの最寄り駅のホームは改札を抜けて右か右斜にある階段を降りた先にある。


「あ、そうだね。伝えてなかったね。えっと……これから横浜駅に向かうからね」


 晃輔の疑問にあおいはそう答える。


「横浜駅?」


 集合場所が駅だったわけだし、どこかしらに行くのかとは思っていたが、まさか横浜駅に行くとは思わなかった。


「そう! あそこなら売ってそうだからねー。まぁ、お店がいっぱいあるだろうし、たぶん見つかるでしょ!」

「そうかもな」

「ふふ、こー兄は人多いの苦手かも知れないけど、頑張ってね!!」


 そう言って、あおいはいたずらっぽく微笑んだ。

 晃輔と合流してから、何故かあおいはずっと楽しそうにしている。


「はいはい」

「ふふ、楽しみだねー」


 あおいとそんな会話をしていると、ホームに着いた頃にちょうど電車が来て、二人は電車に乗り込んだ。


「そういえば、久しぶりだねー!」


 電車に乗ってしばらくすると、あおいが突然そんなことを言ってきた。


「何が?」

「こうやってこー兄と二人きりでお出掛けするの!」

「……そういえば、確かに」


 あおいと二人で何処かに行く、なんて本当にいつぶりだろう。

 昔はよく小学校、中学生の近くにある公園に遊びに行っていたが、いつからか、あおいたちと遊ばなくなっていた。

 それがいつ頃からだったか思い出せない。

 晃輔がそんなことを考えてると、あおいと目が合った。


「お姉ちゃんの欲しいもの、見つけられるといいね!」


 あおいは満面の笑みで晃輔にそう告げる。


「……ああ」



***



「相変わらずの混み具合……」


 晃輔は、横浜駅に着いて改札を抜けてからの人の多さにげんなりする。

 電車の中の時点で、既に人が多かったので何となく察していたが。


「だねー!」

「なんでそんなテンション高いんだ?」


 晃輔は気になっていた事をあおいに尋ねる。

 最寄りの駅に集合してから、何故か知らないが、あおいはずっとテンションが高い。


「楽しいからだよ!」


 あおいは満面の笑みでそう告げる。


「そっか……帰りたい……」

「なんで!?」


 あおいは驚いて目を見開く。

 いきなり態度が急変した晃輔を見て、あおいは慌てた様子で晃輔にそう告げる。


「ちょ、今来たばっかりだよ! 買うんでしょ! ブレスレット」

「うん……」


 そう言って晃輔は力無く頷く。


「全くもう……情緒どうなってるの……? 不安定過ぎるでしょ……いくらこー兄が人が多い所が苦手だからってさ」


 あおいは半ば呆れた表情でそう呟く。

 晃輔は人が多い所が苦手であり、あまり、自分から進んでこういう所に行くことはない。

 昔は別にそんなことは無かったのだが、ある日を堺に突然そうなった。

 人混みの具合によるが、あまりにも人が多いと体調が悪くなってしまうことがある。


「ん……」

「はぁ……」


 晃輔の状態を見て、あおいは思いっきりため息をつく。


「ごめん」

「大丈夫だよ。こー兄が苦手なの知ってるから」

「……」

「行くよ、こー兄」


 明らかにテンションの下がった晃輔の様子を見ていたあおいは「これは私がしっかりしないといけないか」と、晃輔の横で小さく呟いていた。



***



「道、こっちで合ってるのか?」


 あおいに手を引かれながら歩く晃輔はそう尋ねる。


「うん……」

「どうした?」


 あおいの返答の歯切れが悪い気がしたので、再度あおいに尋ねる。

 すると、あおいは晃輔を振り返って来た。


「ねぇこー兄、ちょっと寄り道してもいい?」

「寄り道?」

「うん」

「別に良いけど」


 時間もあるし、寄り道ぐらいは別に全然問題無いだろう。

 ななにも今日は遅くなるかも、と言ってある。

 今日の夜ご飯の分も作り置きしてあるので、恐らくは大丈夫だろうとそんなことを考えていた。


「やった! ありがとう! こー兄!」


 そう言って、あおいは晃輔に飛びつく。


「ちょ、あおいストップ」


 あおいが抱き着こうとしたので、晃輔は慌ててあおいを制止する。

 ここは家ではなく、沢山の人が通る場所で、こんな場所でそんなことをしたら、確実に目立ってしまうだろうし、変に注目を浴びてしまう。


 晃輔はそんな事ないかも知れないが、あおいの事を知っている人がいるかもしれない。


 あおいは、入学してから僅か一ヶ月ぐらいで「勝利の女神様」という名を学校に轟かせたぐらいだ。

 また、あおいは色々な部活の試合に、助っ人として出ているため、校内の人間に関わらず、あおいの事を知っている人がいても不思議じゃない。


 あおいに抱きつかれてるところを見られたら、それこそ変な誤解をされ、変な憶測などを呼びそうだ。

 そのせいで同居のことがバレたら、正直たまったものではない。

 晃輔としてはそんな面倒事は絶対避けたいので、力強くでもあおいを制止させる。


「あのさ、ここ家とかじゃないから。誰かに噂されたら大変だから」

「ん? 私は別にいいんだよ?」


 あおいのそれに晃輔は思わず顔を引きつらせる。


「あおいが良くてもこっちが大変なんだよ。主に……な?」

「えー、あ……」


 あおいは晃輔が伝えようとしていることを察したのか素直に引き下がってくれた。

 恐らくは、ななの姿が頭に浮かんできたのだろう。

 姉思いの、心優しい妹だからこそ、ここは引き下がったのだと思う。


「それで、行きたい所とは?」

「うん、それはね……」


 大人しくなったあおいに晃輔が尋ねると、あおいは快く答えてくれた。



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