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作戦会議


 晃輔の同居人であるななの誕生日が迫り、どうしようかと考えていると、突然あおいに呼び出された。


「それじゃあ、お姉ちゃんの誕生日会作戦会議をはじめます!!」

「おー」

「お……」


 あおいの掛け声に晃輔と嶺が答える。


「……いや、待て、何で嶺兄さんがここにいる?」

「?」


 当たり前のようにこの場にいる嶺に、晃輔はツッコまずにはいられなかった。


「いや……? じゃなくて……何で嶺兄さんがここに?」

「居たらだめか? というか、そもそもここ(藤崎家)なんだから、居てもおかしくはないだろ」

「それはそうなんだけど……」


 実際、嶺の言う通りである。

 嶺が自分の家にいることは何ら不思議ではない。

 むしろ、この場に……藤崎家にあおいが居ることの方がおかしいのだ。


 何故こんな事になっているかと言うと……この説明をするには、晃輔がななの欲しいものについてあおいに連絡した昨晩まで遡る。


***



 先にななにお風呂に入ってもらった晃輔は、あおいにななが欲しいものについて連絡した。


 すると『詳しいことは明日家庭教師の後に決めようねー』とあおいにそう言われて電話を切った。


 取り敢えず連絡したからいいかな、と晃輔がそんな事を考えてると、なながお風呂から上がったらしいので、晃輔はお風呂に入る。

 そして、たっぷりと時間を掛けて湯船に浸かり、お風呂から出た。


 晃輔がお風呂から上がり、スマホを見ると『ごめんねー。あのさ、さっきの続きなんだけど。明日ね、私の家庭教師が終わったら、私とこー兄は藤崎家行くことになったからー。よろしくねー!』というメッセージがあおいから来ていた。


「…………………………」


 晃輔は無言でソファにスマホを投げつける。

 何故、どうしてそうなったのだろうか。

 晃輔は思わず頭を抱えてしまう。


 どうしていきなり藤崎家になったのか色々と説明をしてほしいんだけど、と晃輔は盛大に顔を引き攣らせながら心の中でツッコんだ。


「はぁ……」


 晃輔は大きくため息をついて天を仰いだ。



***



 こうして、何故かは知らないが藤崎家で作戦会議をすることになった。


 何故、作戦会議の場所が藤崎家なのかと言うと「嶺兄が居ないと、いろいろときついでしょ? 経済的に」と晃輔の疑問にあおいはそう答えた。


「うん……まぁ、はいそうですね」


 晃輔は疲れたようにそう告げる。

 恐らくこれ以上何か言っても、ただただ晃輔が疲れる、という結果にしかならない気がしたので、納得しているわけでは無いがこれ以上は何も言わないことにした。


「やっぱり、俺が呼ばれた理由はそれだったんだな」


 あおいの発言に、嶺は苦笑いしながら呟く。

 嶺の呟きに、あおいは申し訳無さそうな表情で告げた。


「いやー、ごめんね嶺兄。家庭教師しているこー兄ならともかく、私たちにはそんな大金は無いからさー」

「…………」

「確かに、晃輔は家庭教師やってるけど、二人は何もやってないんだったなー」


 そう言って、嶺とあおいは晃輔をチラチラと見てくる。

 何故だか流れ弾を食らった気がした。


「俺だってそんなにお金持ってないんだけど……というか、あおいはお年玉貰ってるだろ? せっかくだし貰ったお年玉使えば? それで解決じゃない?」

「こー兄……そっくりそのままこー兄に返すけど?」


 真顔であおいにそう返されてしまい、晃輔はぐうの音も出なくなった。


「……………………」

「晃輔の負けだな」


 返す言葉もなく固まっていると、嶺に馬鹿にされた。


「うるさい」

「くくっ……面白いねー、こー兄」


 あおいは必死に笑わないようにしているが、笑いを堪えきれていない。


「俺は全然面白くないんだけど……」


 これ以上何か発言しても、自分で墓穴を掘って、それにどんどんハマっていきそうなので、強引にでもななの誕生日の方へ話題を戻す。


「それよりも、ななの――」

「お姉ちゃんの誕生日についてだよね」


 晃輔が言おうとすると、あおいに遮られた。


「…………………………ああ」

「くくっ」

「まぁ、そのために、わざわざ嶺兄にも来てもらったんだから」

「めっちゃ脱線したからなー、晃輔のせいで」

「…………」


 どうして自分のせいになるのかこれっぽっちも分からないが、ここで晃輔が何か口を出せばまた話が脱線するような気がするので、今は何も喋らず沈黙を貫くことにした。


「取り敢えず、これ見て。これがお姉ちゃんの欲しいものなんだよね?」


 そう言って、あおいは晃輔と嶺の二人が見えるように、スマホを操作する。

 あおいのスマホの画面に写っていたのは、昨日ななに見せてもらったピンクゴールドのブレスレットそのものだった。


「ああ、まさしくだな」

「なるほどな……また随分と高いものを……いや、女子高生ならではなのか……分からんけど」

「いや分かんないのかよ」


 画面に写っているブレスレットを見て呟く嶺に、晃輔は思わず素でツッコんだ。


「女子高生ならではって言うわけではないけど……まぁ、お姉ちゃんも女の子で、オシャレとかに興味あるんじゃないかな……」

「「…………」」

 

 あおいも女の子で女子高生のはずなんだけど、とあおいの発言を聞いた晃輔はそんな事を心の中で思った。

 すると、嶺も全く同じ事を思ったのか、何とも言えなさそうな表情をしてあおいを見ていた。

 

「こー兄? どうかした?」

「いや、何でもない」

「そう……そしたら取り敢えず、これを買うってことでいいかな? 異論ある人ー?」


 そう言って、あおいは画面に写っているピンクゴールドのブレスレットを指差す。


「なし」

「ない」


 晃輔も嶺もあおいの意見に異論は無かった。


「じゃあ決まりってことで」

「因みにいつ買いに行くんだ? そろそろ買わないと……」

「そうだね。こー兄が大丈夫なら、今日か明日ぐらいしか時間無いと思う」


 あおいは少し悩む素振りを見せたあと、そう提案する。


「そうだろうな」

「うん」

「うん、じゃないんだけどな」


 そもそも、あおいがななの誕生日会をしたいと言い出して、晃輔になな欲しいものを調べてこいと、無茶の事を言い出したのは一昨日だ。


 晃輔も決して忘れていたわけでは無いが、ここ最近がちょっと忙し過ぎただけ。


 それとあと、あまり関係無いがこの誕生日会はあおいの思いつきである事は間違い無い。

 そう考えると、嶺はあおいの思いつきに振り回されていると分かり、本当に少しだけ苦労しているのだなと思った。


「まぁ、はい。一応渡しとく」


 そう言って、嶺は晃輔にクレジットカードを手渡す。


「え、カード……」

「え、嶺兄いいの!?」


 嶺が作戦会議の場に居る時点で何かしらの資金が渡されるとは思っていた。

 が、まさか渡されるのが現金ではなく、カードが渡されるとは思っていなかったため、晃輔は目を丸くする。


「ああ。ただ、今日はもうこんな時間だから、行くの諦めて、明日学校から帰ってきてから行った方が良いと思う」

「そうねー」

「……あ、ああ。だな」


 二人共嶺の意見に賛成だった。

 時計を見ると、時間は既に十九時を回っていた。


「あと、必要以上にものを買うなよ」

「それは大丈夫!!」

「それを言う順番、普通逆だと思うんだけど……」


 晃輔は思わずそう呟いてしまった。

 すると、あおいが静かな事に気づきそちらの方を振り返ると、あおいが時計を見たまま静止していた。


「…………」

「あおい? どうした?」

「……?」

「いや、もうこんな時間なんだなーって思って」

「まぁ、確かに……」

 

 この話し合いは、家庭教師をやった後に行っている。

 そもそも作戦会議の開始自体が遅いので、遅くなる事の予想はできていたのだが、予想していたよりも遅くなってしまったらしい。


「ねぇ、こー兄大丈夫?」

「何が?」


 時計を見てたあおいは、晃輔を振り返り尋ねてきた。


「いや、夜ご飯……お姉ちゃん、待ってるんじゃない?」

「……あ」


 晃輔から間抜けな声が出た。

 時計を見ると既に十九時を回っている。


「あー。確か、晃輔がご飯とか作ってるんだよな?」

「……うん」

「帰った方が良くないか?」

「私も思う」


 あおいは嶺の言葉に賛同するように頷いた。


「……えっと……じゃあ帰ってもいい?」

「うん」

「ああ」


 晃輔が尋ねると、二人の声が重なって返ってきた。


「サンキュ。そしたら取り敢えず、明日でいいんだよな?」

「うん! 場所とか時間とかは後で連絡するから。お姉ちゃんことよろしくねー!」

「はいよ、じゃあ、また明日」



***



「ありがとね、嶺兄」

「ん? 何が?」


 慌てて帰って行った晃輔を玄関で見送った後、あおいは嶺にそう告げた。


「いや、いろいろと。嶺兄が居てくれなかったら、あんな高いものを買えないし」

「いいよ、別に」


 嶺としてもあれぐらいなら別に問題は無いと思ってた。


「それよりも、明日頼んだぞ」

「うん」


 嶺もあおいもそれぞれ真剣な表情をしている。

 すると、そんな空気を良い意味でぶち壊す様に嶺が顔を崩した。


「それにしても、正直意外だったな」

「な、何が?」


 あおいは、話が突然変わったことに驚きつつも、嶺の話に耳を傾ける。


「あおいが部活に入ってないこと」

「あー、それね……部活入っちゃったら、こー兄に家庭教師してもらう時間減っちゃうじゃん」


 嶺としては、なぜあおいが部活に入らないのか疑問だった。

 あれ程の身体能力の持ち主で運動部に入らないのは、宝の持ち腐れのような気がしたからだ。


「なるほど、そういう」

「私としてはお姉ちゃんとこー兄がくっついてほしいけど、私も別に諦めたわけじゃないからね。私だってこー兄と一緒にいたいしさ。だから入らない」


 あおいらしい真っ直ぐで力強い言葉。

 これには、嶺も納得するしかなかった。


「そっか、あおいも頑張れよ」

「うん、ありがと。じゃあまた」

「おう、気を付けて帰れよ」

「すぐそこだよー、じゃあね」

「ああ」

「お邪魔しましたー」


 あおいは晃輔と嶺との会話をして満足したのか、穏やかに微笑むと自分の家に帰って行った。


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[一言] ATMお兄ちゃんになってるんやな…
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